子作りですよね?
「ルラル。ここでは私はあなたの上官。フレイア様と言いなさい」
「……す、すみませんでした、フレイア様」
怖い。
とりあえずそのフレイムソード怖い。
俺は勇気を出してお願いした。
「あー、フレイア。まず、そのフレイムソードを片付けてくれないかな」
フレイアは無言でフレイムソードを消去した。
次に俺は疑問をぶつけることにした。
「あとですね、ええとですね、……お二人は姉妹ですか?」
「そうだけど」
フレイアがぶっきらぼうに答えた。
それって、男性が少なくて複数の女性に子供を産ませるというシステムのせい?
つまり、お父さんは一緒だが母親は違うという意味だろうか。俺は聞いてみた。
「あ、もしかしてお父さんは同じでお母さんは別人とか?」
「いいえ。私とルラルは父親も母親も同じ。正真正銘の姉妹よ」
フレイアは俺の方を全く見ずに答えた。まだかなり怒っている。
「そんなことより、ロファール様、ちょっといいかしら」
フレイアが言った。
「な、なんだ?」
「話があります。こちらへどうぞ。廊下で話しましょう」
「……わかった」
「ルラル、あなたはそこで待ってなさい」
俺たちは扉の方へ向かって歩いた。
ルラルは椅子に座ったまましょぼんとしている。
俺たちは廊下に出た。
「ちょっと、あなたね、どういうつもりなの?」
フレイアが静かに詰め寄る。
「どういうって、……俺はルラルにお礼を言ってただけだぜ?」
「お礼? お礼って《契り》を交わすことなのかしら? 私、全部聞いていたんだから!」
全部聞いていたなら仕方ない。開き直ろう。
「なんだ、聞いていたのか。だったら話が早い。ああ、そうだ、今まさに俺はルラルと契ろうとしていたところだ。《契り》が俺からのお礼さ。この世界では、男は誰とでも《契り》交わしていいんだろ? 俺の勝手だろ?」
フレイアは眼を大きく見開き俺を睨んだ。
「あなたね、《契り》ってどういう意味か、わかっているの?」
「あれだろ、子作りだろ。」
フレイアの顔が赤くなる。
「ち、違うわよ! ……いや、違わないけど……あなたの言うとおり、主たる目的は子作りだけど……だけど!」
「だろ?」
フレイアが俺の目を見ていった。
「あのね、《契り》を交わすというのはね、もちろん子作りが目的なんだけど、だけど、それ以上に、ちゃんと結婚式を挙げて、そのうえで側室として迎え、子供をもうけるの。正室とは立場や権利が異なるけど、《契り》を交わす相手は、妻であることには変わりないのよ」
「なるほど。そうなのか。ちょっと俺の想像とは違っていたな。俺はてっきり、その場その場で気に入った相手と《契り》を交わして、気の赴くままに、種付けすることだと思っていたよ」
フレイアの顔が真っ赤になった。
「そんな破廉恥な、不道徳なことあるわけないじゃない! ほんと、どうしようもなく下品かつ卑劣な男ね、あなたって! 道理で魂が下水色なわけよ!」
なんか、ものすごく侮辱されたような気がする。
フレイアは話を続けた。
「……ルラルはね、まだ子供なの。だから、《契り》の正確な意味をまだ知らないのよ」
「《契り》の正確な意味を知らない? つまりどういうこと?」
フレイアがイラッとした顔をした。
「《契り》って結婚という意味だけ、と思っているのよ。もちろん、この国の結婚制度そのものは知っているわよ。でもね、赤ちゃんはどうやったら出来るのかとか、そういうことをまだ知らないのよ。結婚したらドラゴンが赤ちゃんを連れてくるって信じているのよ」
「え? ルラルってそんなに子供なの? 一体何歳なんだ?」
「彼女は十六歳。この国では十八歳になったときに、母親から男女のことを学ぶものなの。だから、あの子はまだ、何も知らないの」
え? そうなの? ちょっとマルムスティル王国文部科学省、ちゃんと性教育やってよ。
文部科学省があるかどうか知らんけど。
「どういうつもりで、妹に《契り》を持ちかけたか知らないけど、というか、破廉恥な意図なんでしょうけど、私の大事な妹に変なことしないでちょうだい! あの子のロファール様への想いを悪用しないで!」
「ちょっと待ってよ、前さ、フレイアさ、俺がルラルと《契り》交わしていいよ、ルラルと子作りしてもいいよって言ってたじゃない。なんで今更駄目なのよ?」
「だ・か・ら、それはルラルが大人になってからの話! それに私、そんな下品な言い方してないもの!」
フレイアは肩をふるわせつつ、俺への抗議を続けた。
「だいたい、本物のロファール様なら、そんな今すぐルラルと《契り》を交わすとか考えないわ。あなたみたいなねぇ、下劣な人間とは違うの!」
どうかなあ、あんなに可愛いくて無防備な子から慕われていたら、ロファールといえど辛抱たまらんと思うんだがな。
もしかして、お前にばれないように、こそっと、二人でヨロシクやってるかもよ?
ていうか俺ならそうするぜ?
と、フレイアに言おうとしたが、そんなこと言うと恐ろしいことになりそうなので、俺は黙っておいた。
「ルラルには、誤解の無いように私から話しておくわ」
そりゃどうも。申し訳ないですね。
しかし、これで俺の初体験はしばらくお預けなわけだ。
あーあ。ショボーン。あーあ。
「あーあ、ルラルちゃんとえっちできないのかー。一気に服脱がせてやっときゃよかった」
おっとしまった、心の中の告白の方を口に出してしまった。
「あ・な・た・ねええええ!」
フレイアが俺につかみかかってきた瞬間、爆発音がし、天空要塞全体が大きく揺れた。
「きゃっ!」
フレイアと俺は重なり合って廊下に倒れた。俺が下、フレイアが上である。
フレイアの豊満な胸が俺の胸に重なっていて、その、なんというか……。
神様ありがとう。
いや、そんなラッキースケベを味わっている場合ではない。
この爆発はかなり大きいぞ、なんだなんだ?
天空要塞の至る所で、一斉にサイレンが鳴り出した。
「敵襲よ!」
フレイアが立ち上がった。ルラルも部屋から出てきた。さっきのお母さんお手製ドレスでなく、白魔法使いのローブを着ていた。
「ルラル、急いで医務室へ。負傷者に備えて医療班を編成、指揮して。メンバーはあなたに任せるわ」
「はい、フレイア様!」
ルラルが駆け足で去って行った。
「ちょっと、そこのロファール様のニセモノ、いつまで寝てるの。司令室へ行くわよ」
よっこらしょ、と俺は起きた。
「さっきまで探査魔鏡に敵影は無かったのに……」
フレイアがつぶやく。探査魔鏡とは、レーダーみたいなものだろうか。
「さあ、いくわよ。あなた、一応この天空要塞の司令官にして超魔道士なんだから、先頭に立って戦ってもらうからね」
「ええ? 俺? ちょっと、まだ組成魔法しか使えないんだけど。無理無理無理!」
「そんなこと言ってる場合じゃないの。大丈夫、私があなたを守るから。絶対、あなたを死なせない」
なんだ、フレイア、俺のこと好きなんじゃないか。
「フレイア、君、そこまで俺のことを……」
「ロファール様の魂が戻ってくるまで、あなたを死なせるわけにはいかない、それだけよ。勘違いしないで」
ですよね。
「こっちよ、着いてきて」
警報と爆音が鳴り響く中、俺とフレイアは司令室目指して走った。
こうして、俺の初陣が始まった。