ルラルちゃんの唇
ルラルがハーブティーのポット、およびカップ&ソーサーをお盆に入れて持ってきた。
俺の右斜め前に座って、俺の前にカップを置き、ハーブティーを注ぐ。
「どうぞ。よかったら……ハーブクッキーもあります。手作りだから……あまり美味しくないかもです……」
「ありがとう、頂くよ」
薄黄色のハーブティーからはとても良い匂いがしている。
レモンのような、オレンジのような、そういう柑橘類系のちょっと刺激的な香りだ。
「……お口に合いませんか?」
ルラルが自信なさげに、下を見ながら言った。
ワンピースのようなドレスはどことなく幼い印象を与える。色は薄いミルク色。生地はとても薄いようだ。
下着を着けているのかどうかわからないが、胸の形はかなりはっきりわかる。それも、かなり。胸のすべての部分が、色まで透けて見えそうだ。
え、えろい。
ルラルの胸はとても小さい。フレイアの半分もない。
だが、問題ない。
俺の守備範囲は太平洋よりも広い。俺は自分の守備範囲の広さを確認しつつ、ルラルの胸のあたりを見つめ続けた。
「まさか、とても美味しいよ」
「よかったです」
ルラルが笑う。頬がほんのり桜色だ。俺と目が合うと、あわてて目線を逸らす。緊張しているのだろう、脚がもじもじしている。
脚。俺はルラルの脚に注目した。
テーブルの下越しにルラルの脚が見える。膝丈より短いワンピース風の衣装だったので、座ると白い太ももが露わになっている。もじもじする彼女の動きに合わせて華奢な筋肉の動きが見える。
え、えろい。
さらに、両膝がくっついてなくて、げんこつ一個分くらい隙間があって、その奥は闇になっているんだけど、けっこう奥の方まで太ももの内側が見えるわけで、とても柔らかそうで、つまり、その……
え、えろい。
俺はルラルの太ももを凝視し続けた。すると、さすがにルラルは俺の熱い視線に気がついたらしく、膝をぴたっと閉じた。
しまった。俺のスケベな視線がばれてしまったに違いない。ロファール様のえっち、変態……そんなルラルの罵倒を覚悟しつつ、俺はまずは謝ることにした。
「す、すみません!」
謝ったのはルラルの方だった。
「こ、こんな部屋着でロファール様にお会いするなんて……すみません、こんな下着みたいな服で……お許しください。すぐに……すぐに、白魔法使いのローブに着替えてきます」
全然オッケーだ。むしろ下着が良かったくらいだ。
「いや、俺こそすまない。いきなり君の部屋に約束無しにやって来たんだ。部屋でどんな格好でくつろいでいようと、それは君の自由さ」
「ありがとうございます。ロファール様は……お優しいのですね」
ああ、俺は優しい。あと、やらしい。
「では……お言葉に甘えて……このままでいいですか?」
「ああ。ルラルはその服が好きなんだろ?」
ルラルがニコッと微笑む。
「はい、お母様が、今回の出陣の前に……安全祈願の祈りを込めて、作ってくれたんです」
お母さん、こんな薄い生地、こんな短い丈、グッジョブだ。
さて、これから先の展開どうしよう。
俺は引き続きルラルの太ももを見ながら考えた。
はやくあの太ももを両手でつかみ、ぐっと開きたい。
そして、いきなり挿れる?
いや、それは駄目だ。
紳士たれ。
やはり自然な感じで≪契り≫に持って行かないとな。
自然な会話か。うーむ、難しい。彼女いない歴二十八年にとっては英検2級並みに難しい。
仕方ない、とりあえずはこの前のお礼からだ。
「ところで、ルラル。この前は本当にありがとう。君の治癒魔法のおかげで助かったとフレイアから聞いたよ。その……≪命の息吹≫だっけ?」
ルラルの顔が真っ赤になった。
か、かわいい。
「もももも申し訳ありません! ロ、ロファール様の唇に、私のような者の唇を重ねるなんて、私……」
「いいんだよ。俺は気にしていない。いや、むしろ感謝しているんだ」
「……ほ、本当ですか?」
「本当さ。とても気持ちよかったよ、ルラルの唇」
ルラルは耳の先まで真っ赤になった。
「か、からかわないでください……わ、私の唇なんて、ぜんぜん……」
俺はそっと人差し指をルラルの唇に当てた。
「こんなに柔らかいのに?」
「ひゃう!」
ルラルの身体が固まった。目は閉じられている。俺はゆっくりと指を動かし、ルラルの唇をなでてみた。
「はううう……じょ、冗談は……や、やめて……ください」
ルラルちゃん、その声、色っぽいよ! えろいよ!
「ルラルの唇、いい気持ちだよ……。もう一度、君から≪命の息吹≫をもらいたいな」
「だ……だめ……ですぅ……むぁぁ」
「なにが駄目なんだい?」
「怒られます……フレイア様に……あ、あ」
「どうしてだい? この世界では、男は誰とでも≪契り≫を交わしていいんだろ?」
「ち、ち、ちぎり……≪契り≫? 私とロファール様が、≪契り≫を……!?」
ルラルは大きな声を出し、目を開けた。今や全身真っ赤だ。
かわいいなあルラルちゃん。そんなに照れなくても……。
「わ、わたしと、ロファール様が、ち、契るなんて、そ、そんな恐れ多いこと、いえ、だめです!」
「なんで? 遠慮はいらないよ。さあ、契ろう!」
そのとき、ルラルの部屋の扉が轟音を立てて開いた。
そこには金髪を逆立たせ、目を青く光らせ、両手に青白い炎に包まれた巨大なフレイムソードを持ったフレイアが立っていた。
「ちょっと何しているの、ロファール様! そしてルラル!」
鬼としか言いようのない表情で、フレイアが俺とルラルに向かって叫んだ。
えーと、えーと、なんで怒ってるの? 別にいいんだよね、誰と≪契り≫交わしても?
俺はあわてて人差し指をルラルの唇から離した。とりあえず何か言い訳をしよう。
「あのな、フレイア、これはだな」
俺の言葉をさえぎって、ルラルが叫んだ。
「ち、違うんです、お姉さま! ご、誤解です!」
え? お姉さま?