どうだ、フレイア、すごいだろう
壁に開いた大穴から外に出た。
「ロファール!」
フレイアの声が聞こえた。その目はまっすぐ俺の右手のフレイムソードに注がれている。
「何があったの?」
フレイアが聞く。
「ああ、魔法力の回復を確かめたくて、軽くフレイムソードを出してみたら、手元が滑ってね、うっかり扉を破壊したってわけさ」
俺はフレイムソードに消えろ、と念じた。すると火の粉が散るように一瞬で粉々になって消えた。
「……なるほどね」
フレイアが深く頷いた。
「どうだ、フレイア、すごいだろう。魔法の鍵はこの通りちゃんと壊したぞ」
俺は自慢げに言った。
フレイアが感心した顔で俺を見た。
「驚いたわね。こんな短期間で組成魔法をマスターするなんて」
「まあ、身体はロファール様だからな。身体が覚えているんだろう」
「確かにそうね。とりあえず、貴方の部屋に戻りましょ」
フレイアと俺は大きな壁の穴から部屋に入った。
フレイアはベッドの方へ歩いて行き、ベッドの上に置いてある『魔法全書』を手に取った。
「これ、わかりやすかったでしょ?」
「ああ、それはね。他のは難しすぎて、全然駄目だったけどね。その本があって助かったよ」
「ごめん、まず『魔法全書』から読んでねって言うの、忘れてた」
フレイアが悪戯っぽく笑った。
わざとだろ、忘れてたの。
「他の本も読んでおいてね。ヴァルヒルダと戦うのに役に立つと思うわ。ヴァルヒルダは千年ぶりに新しい魔法を開発したという噂もある。万全の備えが必要なの」
「そんなにすごい魔法使いなのか」
「ええ。あなたと同じ超魔道士よ」
「ほほう。でも、マルムスティル王国じゃあ二番目って感じだな?」
俺なりにニヒルに笑ってみた。
「なんで?」
フレイアが首をかしげた。
「だって、俺、すなわち、ロファール様が王国一の超魔道士なんだろ? ヴァルヒルダがどんなにすごくても、俺よりは下なのは自明だ」
フレイアが大きくため息をついた。
「悔しいけど、違うわ」
「え?」
俺の目をじっと見つめながらフレイアはゆっくりと言った。
「ヴァルヒルダはこの世界一の超魔道士なの」
え?
「だから、ロファール様といえど、そんなに簡単には勝利できないのよ。というわけで、今後も勉強して、もっと強力な魔法を身につけてね」
フレイアがニコッと笑った。
「ね、ロファール様のパチモンさん」
「パ、パチモン?」
「そう、パチモン、ニセモノ、まがいもの。他にどんな言い方があったかしらね?」
……ったく。
まあ、それはともかく、しばらく俺はロファール様として戦う必要があるわけで、魔法についてはさらなる訓練が必要なのは首肯できるところだ。
当面は『魔法全書』片手に、魔法の訓練をし、時期が来たらヴォルーガの書いた本も読むとしよう。
ということで、俺はそろそろルラルちゃんのとこに行きたいのだが……。
「でさ、フレイア、俺、散歩がてら、ルラルだっけ? 俺に治癒魔法してくれた魔法使いにお礼言いたいんだけど。いいかな?」
フレイアの顔が一瞬イラッとした。
「……いいわよ」
ルラルに嫉妬しているって顔だ。
「ルラルってどこにいるの?」
「さっきまで医務室にいたけど、今は自室にいるわ。ルラルの部屋は廊下を出て右の方に行ったところ。扉に名札が出ているからすぐわかると思う」
「ありがとう。ルラルにお礼言ったあと、適当にぶらぶらするよ」
「わかった。私は作戦本部にいるわ」
俺は部屋を出て、廊下を右に曲がった。
ルラルちゃんの部屋……。あ、あった、ここだ。
コンコン。
俺はノックした。中から声がした。
「……はい。どなたですか?」
俺は深呼吸し、可能な限りの「ええ声」で、
「ロファールだ。ちょっとだけいいか? さっきのお礼が言いたくてな」
と言った。
扉が開いた。
「あの……ロファール様自らおいで頂き……真に……光栄です。狭い部屋ですが……お入りください……」
ルラルはドレスと言うよりはワンピースのような服を着ていた。
部屋着だろうか。膝が丸見えで、そこから綺麗な生足がすらっと伸びて、見たこともないかわいい動物柄の部屋履きを履いている。
身長は百五十センチくらい。肩くらいまでの長さの髪は、細くてさらさらの銀髪だ。
眼は青く、ちょっと垂れ眼である。
肩の線が細く、思わず抱きしめたくなる系の美少女だ。何歳くらいかな。十五、六歳にしか見えないな。こんな少女と≪契り≫なんかやったら、もとの世界だと犯罪になるかもだ。
ああ、死んで良かった。はやく挿れたい。
ルラルは部屋の中央にあるテーブルセットに俺を通した。
木で出来たかわいい丸テーブルと椅子が二脚。
「……あの、お座りください。今ハーブティー持ってきます」
ルラルがぱたぱたと、お茶の用意を始めた。
「記憶喪失に良いんですよ……このハーブティー。……お気に召すと良いのですが」
お湯を沸かしながら、ルラルが言った。
俺が記憶喪失という設定、すでにフレイアがみんなに通達しているんだ。これなら話が早いね。
さあ、次はいよいよ、ルラルちゃんにアタックだ! レッツ≪契り≫!