俺とロファール様
「……魂のレベル、身体のレベルに関係なく、魂を入れ替えることができる、それも一瞬で。そんな究極魔法がかつてあった、と聞いたことがあるわ」
「かつてあった?」
「そう。今は失われているけど」
「なら、むりなんじゃない?」
フレイアがぐっと唇を噛み締めた。
「そ、それはそうだけど……」
「まあ、魂のことはそれくらいにしておいてだな、今戦争しているとか言ってなかったけ?」
「ええ、そうよ。ヴァルヒルダという裏切り者と戦争しているわ」
「だとしたら、ロファール様の魂が、さっきの戦闘で入れ替わったことが敵にバレたら、まずいんじゃないのか?」
「……もちろん、大変なことになるわ」
「君の他に、魂の色・形がわかるのは、誰だ?」
「自慢じゃないけど、私ほどの魔眼を持つ人間はそんなには多くないの。私たちの国マルムスティル王国全体で十人もいないと思う。もちろん、この天空要塞では私だけよ」
フレイアが自慢げに言った。
「そうなんだ。だったら話が早い。俺の魂が本当はロファール様でなはないことは、皆には秘密にしておこう。肉体的には俺はロファール様なんだろ? 魂が入れ替わっているなんて絶対わかりはしない」
「しかし、それは……」
「敵を騙すためには、まず味方からだ。いろんな知識がないこと、誰が誰かわからないことなんかは、激しい戦闘のせいで俺は重度の記憶障害になったということにすれば皆も納得するだろう」
「確かに、そうかもしれない……」
「この要塞にいるメンバーのことや、戦いに必要な知識は、教えてもらうなり本を読むなりして、なんとかするよ。まず戦争に勝つ。そして、ゆっくりロファール様の魂の謎をとく。どうだ?」
「……いい提案、ではないけど、それしかないわね」
俺はフレイアから殺されることはなくなったようだ。
じゃ、ルラルちゃんのところへ行って、≪契り≫とやらをやってこようかなっと。
「ちょっとルラルの所へお礼に行きたいんだけど……」
俺の言葉を無視してフレイアは書棚の方へ行き、数冊、本を取り出した。
「とりあえず、これらの本を読んでおいて」
「なに、これ?」
「マルムスティル王国の歴史や魔法について書かれているわ。あ、マルムスティル王国というのは私たちの国のことね。ヴァルヒルダについては、後で適当な人物に説明させるから」
「えーと、ルラルの所へお礼に行くのは?」
「そんなことより、こっちの方が大事よ。特に魔法関連ね。ロファール様は王国一の超魔道士なの」
「王国で一番?」
「そう」
それはすごいな。
「さっきあなたを魔眼で見た際、魔法力は全く問題がないことがわかったわ。だとすれば、呪文を覚えて、精神集中をマスターすれば、理屈の上ではロファール様と同じ魔法が使えるはず」
まあ、元の世界でもあと二年で彼女いない歴すなわち童貞三十年となり、魔法使いになれる所だったがね。
「あなたがロファール様ということを通すためには、あなたは常に先頭に立って攻撃魔法を展開する必要がある」
「え? そうなの?」
「そうよ。あなたは類稀なる素質を持つ魔法使いの中の魔法使い、超魔道士。次の作戦行動までに、少なくとも一つは攻撃魔法をマスターしてもらわないと、いくら見た目がロファール様でも、皆は信じないでしょうね」
うーむ、それは困った。
「皆には、ロファール様は魔法力がまだ回復しないから、部屋で安静にしてると言っておくわ。次の作戦行動がいつになるかわからないけど、当面、これであなたが戦闘に参加しない言い訳はできる」
「ありがとう。助かるよ」
「それじゃ、私はもうしばらく副司令官として天空要塞の指揮を執るわね」
「よろしく頼む」
「どれか一つ魔法を覚えるまで、この部屋から出ることを禁止します。トイレはあそこの小部屋にあるから大丈夫よ」
そういうと、フレイアは部屋を出ていった。
え? この部屋から出られないの? せめて先にルラルちゃんと≪契り≫を……。
と、その時扉が開いて、フレイアが顔を出した。
「一つ言い忘れたわ。魔法でこの扉に鍵をかけておきます。この鍵は魔法でしか破壊できません。子供の魔法訓練でよく使う鍵よ。で、あなたは魔法で鍵を破壊してこの部屋から出てね。これが最初の試験。他の壁壊して出てきてもいいわ。そっちの方が難しいでしょうけど。魔法障壁が張り巡らしてあるからね」
それだけ言うと再びフレイアが出ていった。
「え? ちょっと、水とか食べ物とか、そういうのはどうするの? くれるの? ねえ、ちょっと!」
返事はない。
なんて冷酷な女だ! ゆるさねぇ! これじゃあルラルと≪契り≫を交わすことができないじゃないか!
いや、もちろん、ルラルちゃんが俺とそう簡単に≪契り≫やってくれるかどうかは本当は疑問なんだけど……いやいやいや、王国一の超魔道士ロファール様ってフレイア言ってただろ?
そんなの、モテモテに決まっているって。「さっきはありがとうルラル。君の唇、とても柔らかかった。もう一度、君の唇を味わっていいかい?」とかいえば、数秒後にはメイクラブ必至だよ?
フレイアめ。ちょっと可愛いからって、ちょっと胸がでかいからって、ちょっとエロいカッコしてるからって、いい気になって。あとで絶対≪契り≫交わしてやるからな。
仕方ない。俺のハーレム計画のためだ。まず、攻撃魔法とやらをマスターしよう!
こうして、俺の孤独な魔法特訓が始まった。