俺、この戦い終わったら、ハーレムつくるんだ(上)
「マルル、お父様を護衛して! あたしは女王と戦う!」
ヴァルヒルダの声がした。
背中に翼を生やしたヴァルヒルダが、ブリッジから甲板上に飛び降りる。
「わかりました、ヴァルヒルダ様」と言って、マルルがブリッジに行った。
「ロファール、大丈夫?」
ヴァルヒルダが俺の顔を心配そうにのぞき込む。
「ああ、大丈夫だ。ルラルの治癒魔法で復活した」
ルラルは俺の横でまだ気を失っている。
「やるじゃない、貧乳ちゃん。ここまで強い治癒魔法は初めて見たわよ。おっぱいが残念なだけの娘じゃなかったのね」
ヴァルヒルダがポーションを、ルラルの口にゆっくりと流し込む。
ルラルが目を開けた。
「……わ、私の名前、ルラルだもん……ひ、貧乳ちゃん、じゃ、ないんだもん……」
「貧乳ちゃんはこれで大丈夫よ。さあ、ロファール、おばさんフレイアに加勢して、女王を倒しましょう!」
ヴァルヒルダが言った。
「ヴォルーガはどうなった?」
「お姉さまなら大丈夫、白魔法使い達が医務室で治療しているわ。すこし時間はかかりそう」
「そうか、よかった」
ヴォルーガが無事なのはよかったが、戦えないのは痛い。
ここは俺とフレイア、そしてヴァルヒルダでなんとかするしかない。
「さ、起きて、ロファール! まず、魔法障壁を壊すわよ!」
ヴァルヒルダが組成呪文を唱える。
「狂王の鉄槌!」
巨大なスレッジハンマーが現れた。
俺も立ち上がり、組成呪文を唱える。
「皇軍工廠鍛造軍刀試製甲!」
俺とヴァルヒルダは武器を持ち、女王の方へ走る。
先に飛び出したのはヴァルヒルダだった。
「よくもあたしを利用してくれたわね!」
恐ろしい勢いで、ヴァルヒルダは狂王の鉄槌を振り下ろした。ズン、と重い音がして、魔法障壁にヒビが入った。
続いて俺が軍刀で斬りかかる。右、左と連続して攻撃する。
魔法障壁がパリン、パリン、と割れるが、女王はそれらの傷をあっという間に修復していく。さすが、女王。戦い慣れしているな。
ヴァルヒルダが「闇を切り裂く女神の矢!」と叫び、天に向かって何本も矢を放った。その矢は空から女王めがけて落ちてくる。
女王は頭上の魔法障壁強化に魔法力を集中した。
「今よ、ロファール!」
「わかった!」
俺は皇軍工廠鍛造軍刀試製甲を突撃モードにし、手薄な女王の全面に突き刺した。女王の魔法障壁が頭上以外破壊され、消えた。と同時に、俺の軍刀も破壊された。
「生意気なことを!」
女王は魔法障壁を修復しながら俺とヴァルヒルダに魔法弾を撃って来た。修復のスピードが遅い。俺は魔法弾で応戦する。
ヴァルヒルダは魔法障壁を展開しつつ、さらに空に向かって「闇を切り裂く女神の矢」を打ちまくる。
フレイアが、俺とヴァルヒルダの間に立った。
「私に任せて!」
フレイアが杖を手に呪文を唱えた。魔法障壁に空いた穴を狙って、杖からビームが発射された。
女王はそれを避けるのに精一杯で、上空から振ってくる「闇を切り裂く女神の矢」まではかわしきれない。
魔法障壁を強化する暇もなく、女王の魔法障壁は矢の直撃を受け、完全に消失した。
魔法障壁は完全に消失すると、再度展開するのに時間がかかる。修復するのとは訳が違うのだ。倒すチャンスは今しかない。
俺は例のハイパーガトリング砲を出そうとしたが、途中でやめた。
ヴァルヒルダが猛烈な勢いで女王に斬りかかったからだ。手にはフレイムソード系の剣を持っている。二人が接近戦を繰り広げている間は、銃器は無理だ。
「ええい、この私を倒せると思っているのか!」
女王が呪文を唱えた。すると、ヴァルヒルダの動きが止まった。
……いや、正確には遅くなった。
「あ、あれは時間魔法!」
フレイアが叫んだ。
「時間魔法?」
「そう。自分の周囲、ごく近くの時間の流れをコントロールできるの。女王は自分の周囲数メートルの時間の流れを遅くしたのよ!」
動きが止まったように見えるヴァルヒルダに対し、女王は通常のスピードで動いている。
「はっ! なかなかやるわねお姫様。正直、驚いているわ。私に時間魔法まで使わせるとはね。でもね、これで終わりよ!」
女王が魔法弾を、至近距離からヴァルヒルダに向かって撃った。
「ヴァル!」
魔法弾はヴァルヒルダの身体を貫通した。どさっ、という音とともに、ヴァルヒルダが倒れる。
「さすがに、即死でしょ? まったく、私の言うこと聞いていれば死ななくてすんだのにね」
「ヴァルヒルダ!」
フレイアがヴァルヒルダに駆け寄り、治癒魔法を施す。
しかし、ヴァルヒルダはぴくりとも動かない。
身体に空いた大きな穴から、血が流れ出している。
「ちょっと、ヴァルヒルダ、返事しなさい! まだあなたとロファールの関係をちゃんと聞いていないのよ! 勝手に死なないで!」
フレイアが泣きながら、必死に治癒魔法を当てるが、血は一向に止まらない。
俺は初めて、本気で怒った。
許せない。
彼女が何をやったって言うんだ?
先祖が罪を犯したと信じ込んで、その罪滅ぼしをしたくて、あんたの言うことを聞いたんだ。
全くの嘘とだとわからずにな。
彼女は、この戦争で誰も殺していないんだぞ?
ただの十六歳のお姫様だ。
彼女に罪はないんだぞ!
「貴様、よくもヴァルを!」
「不用品を処分しただけよ」
女王が笑った。わざとらしく、自分の肩を揉みだした。
「はあ、さすがに、時間魔法は魔法力使うわね。肩凝っちゃった。あ、今なら私を倒せるかもよ? その姫様の仇をうつなら、今なんじゃない?」
笑いながら女王が言った。
ふざけんな。
俺の全魔法力を使ってやる。
ハイパーガトリング砲よりも強力な武器を出してやる。
え? そんなものがあったのかって?
あったのである。ただし、この武器は、例のゲームにおいて、プレイヤーが使う武器ではない。
ラスボスが使う武器だ。「次元ホール爆弾」と言って、その爆弾の周囲にワームホールが発生する。そして、標的をあっという間に異世界へ送ってしまう。名前はシンプルだが、大変強力な武器だ。
ただ、この武器の欠点は、自分そのものが「次元ホール爆弾」だということ。正確には、起爆装置だ。ゲームでは、「次元ホール爆弾」になったラスボスに触られたら負け。攻撃しても、起動するから負け。
つまり、この武器、使えば死ぬのだ。いや、正確には異世界へ行く。
攻略法は、ひたすら逃げるだけだ。ある程度時間が経つと、イベントが発生し、勝手に「次元ホール爆弾」が誤作動、ラスボスだけが異世界へ追放。で、ゲームエンド。このクソ仕様、当然大不評で、SNSが大炎上。
俺は自分を「次元ホール爆弾」にすることにした。俺ごと女王をワームホールに叩き込んでやる。俺と女王は異世界へ。
上手く口説けば、ワームホールを抜けた異世界で女王とえっちなことが出来るかもしれないぞ。わりと女王セクシーだし、意外にそれもいいかもしれない。どうせ一度転生した身だ。二回も三回も同じだ。
あ、この場合、異世界転生でなく異世界転移かな?
俺はヴァルヒルダの方を見た。フレイアとルラル、そして復活したヴォルーガが手当てしているようだが、みんな取り乱している。
ヴァル、もうだめなのかもな……。
すまなかった。守れなくて。
ヴァル。俺、最低な男だったけど、君から無条件に愛されて、本当はうれしかったんだぜ?
えっちなこともしたかったけど、なんだかんだ言って、お前のこと好きだった。
まあ、フレイアもルラルもリリカもみんな好きなんだが。
とまあ、最後の最後まで、俺はこんなゲスな男なんだ。悪いな。
俺は自らを武器にする組成呪文を唱えよう。これが俺の、この世界での、最後の魔法だ。
「次元ホール爆弾!」




