おっきいおっぱいより、形のいいおっぱいの方が好きって言ったくせに!
「静かに! ヴァルヒルダが階段を降りてきています」
ヴォルーガが水晶玉を見ながら言った。
あの鋼鉄の詰め物を溶かしながら突き進んでいるらしい。すごい魔法力だ。
「組成魔法の効き目は一時間。それくらいは余裕だと思っていましたが……。戦闘準備を急ぎましょう」
ヴォルーガが皆に指示を出す。
「フレイアはロファールの周囲に魔法障壁を張ってください。リリカは女神像に魔法障壁を。あと、いつでも念力魔法を使える準備を。ルラル、ここにはたくさんの魔法回復ポーションが備蓄されています。それをここへ持ってきて。ロファールの魔法力が枯渇しないよう、あなたがポーションをロファールに補給するのです」
フレイア、リリカ、ルラルが「はい」と返事し、それぞれの準備に取り掛かった。
「で、俺は何をすれば……」
指示がなかったので、俺は聞いた。
「あなたは、できるだけ強力な武器を組成呪文で出して、戦ってください。魔法力のことは気にしなくて構いません。ポーションが大量にありますから。最初にポーションを飲んで、魔法力を多めに確保してください」
俺はルラルから十本ほどポーションをもらうと、それを飲み干した。
「とにかく、連続攻撃でヴァルヒルダの魔法力を枯渇させてください。あちらにはそんなにポーションはないはずです。今回の目的はヴァルヒルダの逮捕。魔法力を使い果たせば、彼女はただの十六歳の少女です。簡単に確保できます。それは私に任せてください」
「怪我とかさせちゃたらどうしましょう?」
「大丈夫、妹は世界一の超魔道士です。むしろ、あなたの方が心配ですよ」
そのとき、扉がドロドロと溶け落ち、聞き覚えのある声がした。
「あー! もー! なんなのこれ! すっごいめんどくさかった! 魔法力も使ったし!」
「ヴァルヒルダ様、ちょー暑いですぅ、マルル、熱中症になりそう、まじやばいかもー」
ヴァルヒルダとマルルだ。
「もー、仕方ないわね!」
ヴァルヒルダが呪文を唱えた。二人の周囲にいきなりゲリラ豪雨が発生した。
「うわーちょー気持ちいい、ありがとうございまーす! ちょー冷たい! 雨水飲んじゃおっと。あ、ちょー美味しい! なんていうか、柑橘系? あまーい!」
飛び散ったしぶきが俺の口に入った。あ、ポカ◯スエットと同じだ。熱中症予防の基本だな。
「あーら、おばさんのフレイア。こんなとこで何しているの?」
ヴァルヒルダが早速フレイアに挑発的セリフを吐く。
「……あれ? ロファールも一緒なの? 会いたかったわ、マイ・ダーリン……」
ちょっと待ったあ! その続きは言わせない!
「フレイムソード!」
俺はあらん限りの声で呪文を唱え、ヴァルヒルダの言葉を途中で遮った。フレイムソードがポカ◯スエットにあたり、じゅわーと音を立てる。
「もう、ロファールったら、なんで、そんな、おばさんの味方するの? わたしのだ・ん・な……」
だめだだめだだめだだめだ!
「ゴスロリ様専用ガトリング砲・改!」
俺は魔法力と火力を最大にセットし、無数の魔法弾をヴァルヒルダに叩き込んだ。
ズガガガガガガと轟音が地下の大広間で響く。
フレイアたちは耳を押さえている。
「なんで、私に向かって撃ってくるのよー! 信じられなーい!」
普通なら人間の形を残さないほどに破壊されるだろうが、ヴァルヒルダは片手で魔法障壁を展開し、防いでしまった。
「くそーっ、もう魔法力が持たない……」
魔法力が尽きた。ガトリング砲が崩壊し、消えた。
「……ルラル、ポーションをくれ!」
「はい、ロファール様」
俺はルラルからポーションをもらう。
ヴァルヒルダの魔法障壁には、かすかに傷がついただけだ。まずい。一発の威力がより強力なものを出そう。
「ちょっとぉ、ロファールぅ、それがぁ、お嫁さんにするぅ……」
「魔法ミサイルランチャー!」
魔法ミサイルが十二発ヴァルヒルダめがけて飛ぶ。魔法ミサイルの属性は雷にセットした。
その全てを、ヴァルヒルダは魔法弾であっという間に撃墜した。
「……ひどい! ロファールひどい! 私泣いちゃうから!」
だめだ、魔法ミサイルは大きすぎて撃墜される。小さな魔法弾一発に全魔法力を込め、高速で叩き込む方がいいな。
「重魔装狙撃ライフル!」
連射はできないが、絶対命中かつ全魔法属性効果を持つ、特殊弾丸だ。
俺は全魔法力を一発に込めて撃った。
「これでどうだ!」
ビシッという音がし、ヴァルヒルダの魔法障壁に大きなヒビが入った。
「これでも、破れないのか!」
「……本気なの? 私を殺す気なの、ロファール? なんで?」
いや、殺す気は無いんだけどね……。どっちにしてももう魔法力がない。再びルラルからポーションをもらおう。
俺がポーションを飲んでいる間、フレイアとヴォルーガがヴァルヒルダを攻撃しているが、ほとんど効果がない。それどころか、フレイアと戦いながらもヴァルヒルダは魔法障壁を修復している。
……くそう、俺の最大魔力で連射しないとだめか。だが、どうやって?
その時、フレイアが俺の方を見て叫んだ。
「ロファール! 魔法障壁に魔法弾は効果薄いわ! 魔法障壁には物理攻撃よ! 魔法属性のない武器で戦って!」
そうだった、魔法障壁は物理攻撃に弱いんだったな!
だとしたら、あれだ。あれしかない。
俺はさらにポーションを数本飲んだ。
「皇軍工廠鍛造軍刀試製甲!」
舌を噛みそうな長い名称の武器であるが、例の俺が関係していたゲーム内で最強の物理攻撃が可能な剣だ。ゲーム内では魔法でガードされたら無意味だったが、こっちの世界では設定が逆だ。魔法障壁には物理攻撃なのだからな。
俺は両手で皇軍工廠鍛造軍刀試製甲を持ち、ヴァルヒルダに向かって突進した。
ガギィーンと、鈍い金属音がし、周囲に火花と煙が散った。最初に軽く抵抗を感じた後、軍刀は一気に、ズブズブと根元まで刺さっていった。
まずい、魔法障壁だけでなく、ヴァルヒルダの体を貫いてしまったか?
「ヴァル!」
俺は叫んだ。返事はなかった。
「?」
いない。ヴァルヒルダがいるべき場所にいない。
消えた。
軍刀は壁にめり込んでいた。俺がヴァルヒルダの身体と思ったのは、大広間の壁だったようだ。
「……どこに消えたんだ?」
「ここよ」
俺の背後から声がした。ヴァルヒルダだ。俺の真後ろにいた。全くの無傷だ。
よかった。おそらく瞬間移動したのだろう。そういう魔法があってもおかしくない。
「よかった、ヴァル、俺、てっきりヴァルを……」
「ロファールのばか!」
目に涙をいっぱい浮かべたヴァルヒルダが、泣きながら俺に叫んだ。
「それが愛する妻にすることなの? おばさんのフレイアより、若くてかわいい私の方が好きだって言ったくせに! おっきいおっぱいより、形のいいおっぱいの方が好きって言ったくせに! だから、私、ロファールと二回も子作りしたのに! 前も後ろも! もうすぐ、赤ちゃんが来るのよ! ひどい!」
おいおい、ちょっと待ってくれ、そんなこと言ったか? 言ってないだろ? だいたい子作りだってだな、あれでは赤ちゃんは来ないんだって。
ていうかだな、この状況で、その発言はまずい。非常にまずい。
「ち、違うんだ、ヴァル、誤解だ。話を聞いて……」
「なんですってーっ!?」
俺の言葉は、フレイアの怒声でかき消された。フレイアが鬼ですら泣いて謝るほどの恐ろしい形相で俺をにらみつけている。
「どういうことなのーっ!」
ずんずんずん、とフレイアが俺の方へ歩み寄ってきた。
終わった。なにもかも。
みなさん。
さようなら。




