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転生勇者は異世界で少女たちと戯れたい。  作者: 上城ダンケ
第三章 古代魔法遺跡のヴァルヒルダ
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古代魔法遺跡へ

 いつまでもリリカの台詞を反芻していても仕方ないので、俺は家の中を探検した。


 魔法学学者の家だけあって、書斎がある。机の上にはたくさんのメモと、数十人の少女達の集合写真があった。みんな同じ、黒い衣装だ。真ん中にロファールがいる。その隣にはヴァルヒルダ。おそらく、魔法学院クラス写真だろう。


 書斎の奥に扉があって、それを開けると魔法実験室があった。薬草のにおいが漂っている。化学実験室のようにビーカーやフラスコ、試験管が整然と並んでいる。魔法石のサンプルらしきものが透明なケースに入っていた。サンプルはまるでLEDのように輝いている。


 俺はそのサンプルを触ってみた。ちょっと暖かいかな、という感じがしただけで、ただの石だ。これをこうやって触れるのは俺と王家の男子だけなのか。


 リビングに戻り、食事とかどうしたらいいのか、俺は考えた。買い物とかどうするんだろう。ま、それはリリカに聞けばいいか。


 などと考えていると、扉をノックする音がした。勝手に扉が開いて、老婆が入ってきた。

「鍵をかけないとは、不用心じゃのう」

 老婆である。

「もしかして、マルルか」

「そうじゃ。老婆に変身してきたのじゃ。ヴァルヒルダ様から聞いておるな?」

 見た目、声、しゃべり方まで、完全に老婆だ。

「もちろん、聞いている」

「だったら、話が早い」

 マルルはにやっと笑った。


「完璧な変身魔法だな」

「ヴァルヒルダ様の変身魔法じゃからの。ああ、それにしても、老人の身体は疲れやすいのう。耳も遠いし、目も見えにくいし。あと、膝が痛いぞ。早く元の姿になりたいのう。ありえないのう」

 そんなとこまでリアルに作り込んでるのか……。

「さて、お主も変身するがよい。ロファール様の姿では王都を出るのは不可能じゃ。ほら、ぼーっとしてないで、早く変身魔法を自分にかけるんじゃよ」

「あ、あのなマルル。実はだな、俺、今変身魔法が使えないんだ」

「なんじゃと?」

「その、記憶喪失になってるんだ」

「記憶喪失じゃと?」

「そうなんだ。なので、いくつかの魔法がまだ思い出せない。変身魔法もその一つで、変身できないんだよ」

「うーん、それはありえないくらい、超困った」

 マルルは考え込んでしまった。


「仕方ない、少し危険だが、ヴァルヒルダ様に連絡とってみよう……この家には鏡はあるかね?」

「ああ、洗面所にあったぞ」

「よし、一緒に来い」

 俺とマルルは一緒に洗面所の鏡をのぞき込み、ヴァルヒルダの名を三回唱えた。

 すると、鏡にヴァルヒルダが現れた。

「マルル、どうしたの? 王都で鏡の魔法を使うのは危険なのよ。王立魔法研究所があるんだから」

「わかっておりますですじゃ。ですが、一大事ですのじゃ。ありえないのですじゃ」

「何があったの?」

「ロファール様が、変身魔法を忘れてしまいましての……なんでも、記憶喪失とかで……」

「えー! ちょっと大丈夫、ロファール? あたしのこと忘れた? フレイアのことは忘れていいのよ!」

「……ああ、大丈夫だ。ただ、結構な数の魔法を忘れてしまってな。変身出来ないんだ」


 鏡の中のヴァルヒルダがうーんとうなっている。

「マルルは変身魔法習得してないし……。仕方ない、鏡の魔法で変身魔法を送るね。たぶん大丈夫。はやくやろ。魔法研究所の探知機に引っかかったら面倒だからね」


 ヴァルヒルダは俺に鏡に全身が映るように立ってほしいと言った。俺はその通りにした。次の瞬間、ヴァルヒルダの口元がものすごい早さで動き、鏡の中から何らかのパワーが送られてきた。


 数秒後、俺は老婆になっていた。すごい。ヴァルヒルダ、着々と鏡の魔法を身につけているようだ。

「すごいな、ヴァルヒルダ。あれ?」

 声がロファールのままだ。

「おい、ヴァルヒルダ。声は老婆じゃないぞ」

「うーん、鏡経由だとそれが限界。ごめんね、ロファール」


 マルルが会話に割り込んできた。

「ヴァルヒルダ様、これ以上の会話は危険ですぞ。魔法研究所に見つかってしまいますぞ」

「うん、そうだね。あの探知機、すごいんだよ。なんてったってあたしとロファールで改良したからね! 覚えてる? ロファール」

「あ、ああ、なんとなく」

 つい、嘘を吐いてしまった。

「ほんとー! うれしい! じゃあ、そろそろ鏡の魔法終わらせるわね。ロファール、もうすぐ会えるね、待ってる!」

 またもや投げキッスを連投しながら、ヴァルヒルダは消えていった。


「よし、これで王都を出られるぞ。怪しまれないよう、ロファール殿は黙っておれ」

 マルルが言った。

「わかった」


 俺とマルルは家を出て、大通りを歩いた。三時間ほど歩いたろうか、やっと王都の外れにまで来た。外へ通じる門があり、警備兵が立っている。マルルによれば門は魔法障壁によって守られているそうだ。


「おい、マルル、ここからどうするんだ」

「簡単じゃよ、薬草を採りに行くと言えば、通してくれるはずじゃ。超簡単じゃ。ありえんくらいにのう」


 実際、門では警備兵が俺たちを呼び止めたが、マルルの言う通り、薬草を採りに行くと言ったところ、あっさり通してくれた。


「意外とあっけなかったな」

 俺は森へと続く道を歩きながら言った。

「……それはそうと、俺たちいつまで変身魔法のままなんだ?」

「あの森に入るまでじゃ」


 しばらく歩くと、森の中に入った。

「よし、もう安全じゃ。変身魔法を解除するぞ」

 マルルが老婆からビキニねーちゃんに戻った。

「どうやって解除するんだ?」

「こうするの!」

 マルルがおれに向かって呪文を唱えると、俺は元に戻った。

「あーもー、本当に何もかも忘れてるぅー」

「まあな」

 マルルは不満そうにぶつくさ言いながら、俺を先導してくれた。


「ここから先は空を飛んでいくよ。私についてきて」

 え? 遺跡には空飛んでいくの?


「なあ、マルル、俺、空を飛べないんだ」

「んあ? なんで? ……まさか、飛翔魔法も忘れたとか?」

「その、まさかだ」


 マルルが呆れ返る。


「ありえなーい! 飛翔魔法忘れるなんて、ありえなーい!」

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