モテモテだな、ロファール、敵にまで求婚されて
しかしモテモテだな、ロファール。敵にまで求婚されてさ。全くもって羨ましいぜ。
ん?
……ちょっとまて。ヴァルヒルダって。
女なのか!
世界一の超魔道士ってフレイアが言ってたから、てっきり男だと思い込んでいた。
そうか、「女王の杖」とかなんちゃらで、女なのに超魔道士になったということか。
しかし、ほんと、めんどくさい。ロファールじゃなく、一般人男性だったらよかったのになあ。この世界だったら「誰でもハーレム」じゃないか。それでよかったよ。
やはり、隙を見てここから脱出しよう。そして、一般人の男性として、町娘や村娘とハーレム作ろう。三百六十五日、毎日とっかえひっかえ子作りをやろう。俺の下半身がうれしい悲鳴を上げるぜ!
この後のフレイアやルラルのことを考えるとこころが痛むけどね。仕方ない。俺のことなんか忘れて、もっといい男、探せよ。
さて、逃げるとなれば、逃亡資金がいるよな。なにか換金できる金目のものを持ち出した方がいいだろう。ロファール様の魔法で何でもできるだろうけど、やはりお金は大事だもんね。
何か金目のものがないかなーと、俺は机の引き出しを開けてみた。
書類や筆記具、本。まあ、そんなもんだな。ロファールの私室のほうが何かあるかもしれないな。
と、俺が机をごそごそしていると、酔いが覚めたらしいフレイアが執務室にやってきた。俺は慌てて机の引き出しを元に戻す。
フレイアは目を赤く泣きはらしていた。
「……ここで何をしていたの?」
脱出に備えて金目のものを物色していました、とは言えないので、
「あ、えーと、その、……司令官日誌読んでたんだ」
と答えた。
「ああ、日誌ね。読んだんだ」
フレイアが机上の日誌を見つめる。
「日誌の続き、どうしようかな……」
「続き?」
「司令官日誌の続き。ロファール様が元気になったんだから、ロファール様が書かないと。でも、あなた、本当のロファール様じゃない。どうしたらいいのかな」
「それなら、フレイアが書けばいいんじゃないか? ほら、俺、『記憶喪失』だから。しばらくは司令官の仕事できないってことにしてさ」
「そうね。それが一番ね」
フレイアが言った。
「じゃ、席を替わってくれるかしら? ロファール様のパチモンさん?」
「はいはい」
俺は席を立った。フレイアが座って司令官日誌を開いた。
「あ、じゃあ、俺は部屋に戻るよ。邪魔だろ。……また明日な」
「……また明日ね。今日は本当に助かったわ、パチモンさん」
フレイアが俺に向かって笑う。
おいおい、ここに来て優しくしないでくれよ。逃げ出しにくくなるじゃないかよ。
だが、俺は断固として、この要塞から逃げるからな。バイバイ、フレイア。
「あ、忘れてた」
フレイアが机の引き出しを開けて、中から一冊の本を出した。
「これ、読んでおいて」
フレイアが緑色の表紙の、薄い本を俺に渡した。
タイトルは『マルムスティル王国の真実』。著者はヴァルヒルダ。
「さっき私が話した『女王の杖』のことが書いてあるわ。彼女と戦う参考になるから、読んでおいてね。後半はマルムスティル王の悪口だから、そこは読み飛ばしていいわよ」
「こんな本があるんだな」
「ええ。ヴァルヒルダが戦争を仕掛ける少し前に、書いた本よ。もう発禁処分になったけどね。でも、闇取引されているわ。王都にもヴァルヒルダの支持者は少なからずいるからね。その本、闇市場では結構高いのよ」
なんですと? 「結構高い」ですと?
はい、持ち出し決定。
表紙をめくってみた。
いきなり、すんごい美人のドアップ写真がある。
銀と言うよりはスノーホワイトの、透明な髪の毛だ。大きな瞳と長い睫毛はとても上品だが、瞳の奥にはちょっと意地悪そうな虹色の光がある。唇はきれいな桃色で、見ていると吸い込まれそうだ。
とにかく超・美人、美少女だ。
「これ、誰?」
俺はフレイアに聞いた。
「ヴァルヒルダよ。決まってるじゃない。ヴァルヒルダの本なんだから」
まーじーかー!
超美少女じゃねーかよー!
次のページも、ヴァルヒルダの写真だった。
両手で包めそうな、ちょうど良い大きさの美乳。小さく形のいいヒップ。すらりと長い脚。そして、俺のハートをわしづかみにする華奢な肩。
やりたい。挿れたい。
めちゃめちゃタイプだ。
こんな娘との子作り、すなわち種付けをなぜ断ったロファール。いっぺん死んでこい。
ほんと理解不能だ。ここはフレイアに聞いてみよう。
俺は、例の和平条件について、聞いてみた。
「そういえば、フレイア。ヴァルヒルダは和平条件にロファールとの≪契り≫を申し出ていたけど、あれは何でなんだ?」
フレイアの顔が曇った。
「ああ、あれね。私との婚約を解消して、ヴァルヒルダと正妻の≪契り≫を結べ、というやつね」
「そう。それ」
フレイアはじっと俺の顔を見た。
「……さあね。わからないわね」
だった。
何か知ってるな。俺の第六感がささやいた。
ま、いいだろう、言いたくないんだろう。彼女にとっては不愉快な話だし。話題変えよう。
そういえば、気になっていることがあったんだ。聞いておこう。
「ところでさ、フレイア。俺って、何・ロファールなんだ?」
「何・ロファール?」
「そう、名字。名字を知りたいんだ」
「名字? ロファールの? あるわけないじゃない」
「え? ないの?」
「あなたたちの世界では、男性に名字があったの?」
どうやら、名前のシステムは大きく違うみたいだ。
「もちろん、あったよ。ここでは無いのか?」
フレイアの説明によれば、男性は極端に数が少ないこともあって、名字は無い。基本的に父親と同じ名前を名乗る。ロファールの場合、父親もロファール。爺ちゃんもロファール。曾祖父ちゃんもロファール。俺はロファール家の二十八世とのことだ。
なので、俺と父親とを区別する場合は、俺のことをロファール二十八世と呼んだり、ロファールジュニアと呼ぶんだそうだ。
女性の場合は、名字がある。父の名前が名字になる。例えば、俺とフレイアの間に子供ができて、その子供の名前が花子だったら、花子・ロファールになるそうだ。
フレイアの父親はジュカジという人なので、フレイア・ジュカジとなる。ルラルも同じ父親の子なので、ルラル・ジュカジとなる。
「へー、変わってんな。でも、誰が父親かすぐにわかって、一夫多妻制の世界では都合がいいのかもな」
「イップタサイ星?」
「ああ、こっちの話」
なるほどね。
「ところで、ヴァルヒルダの名字って何?」
フレイアは返事しない。
「おい、フレイア、教えてくれよ」
「……教えたくない」
え? なんで?
「なんでだよ。言うと呪われたりするのか?」
「そうじゃないけど……」
フレイアがため息をついた。
「ま、どうせすぐわかることか……」
フレイアはゆっくりと、しかし、重い口調で語り出した。
「……ヴァルヒルダはね、名字を剥奪されたの。国王命令で」
「へー、そうなんだ。で、なんていう名字だったの? まさかロファールとかじゃないよな? 俺の妹とかだったりしないよな?」
「そんなわけないでしょ。……ヴァルヒルダの名字はね」
「うん」
「マルムスティルよ」
「おーそうなんだ、国王の名前と一緒じゃん」
「ええ。だって国王の娘だもん」
……国王の娘?




