ドラゴン来襲
ドラゴンからの火球が頻度を増して来た。
魔人の攻撃でダメージを受けた魔法障壁は、残った部分でなんとかドラゴンの火球を防いでいる。
ドラゴンの姿がはっきりと見えた。ティラノサウルスに翼をつけたような形のドラゴンだ。両肩のところに魔法大砲が装備されている。頭部には手綱があり、魔法使いらしき少女が乗っている。
「おい、フレイア、このままでは要塞が落ちるぞ」
「大丈夫よーロファール様がいるから。あ、でもパチモンかー、きゃはは」
「おい、酔っ払っている場合じゃないって。俺は黒魔法しか使えないんだ。白魔法で防御できない。それに黒魔法だって組成呪文しか唱えられない。詠唱呪文はまだ覚えてないんだ!」
「えー、そーなの?」
ええい、なんだこの酔っ払い!
とりあえず俺は火には水という単純発想で、巨大な水鉄砲を出すことにした。
「水鉄砲!」
消防士のホースのような水鉄砲が出て来た。まあ、これくらいなら魔法力とのバランスも大丈夫かな。
「はははー、なにそれー?」
酔っ払いは黙っていなさい。
俺は巨大水鉄砲で火球を撃った。
が、これは大失敗だった。激しい水蒸気が発生し、周囲が何も見えない。おまけに火球は無傷だ。火球が魔法障壁に直撃。障壁にヒビが入った。
「ちょっとー、何も見えなーい。なんかー、湯気だらけー。あ、お風呂かな? 脱がなきゃねー。ぬぎぬぎ」
フレイアはドレスのボタンをはずし始めた。
もう、好きにしてくれ!
水はダメか。どうすればいいだろう。
「あの……ロファール様」
「ルラル? まだそこにいたのか?」
「ロファール様は……魔法力と組成魔法のバランスに悩んでいますか?」
「ああ、そうだ、よく分かったね」
「ま、魔法に迷いが見えたから……あ、ご、ごめんなさい、偉そうなこと言って……」
「大丈夫だよルラル。そうなんだ、どれくらい魔法力使っているかいまひとつ分からなくて」
「……私が、魔法力を見ながら、お伝えします。でも……ロファール様の魔法力、なんだかとても奥深いとこにあって……こうしていいですか?」
ルラルが後ろから俺にしがみつき、腰に手を回した。
ヘソのあたりを両手でまさぐっている。
「魔眼の応用なんです。こうやって、……手のひらに魔眼能力を移動させて、直接触ると……よく見えます……」
ちょっとちょっと、ルラルちゃん、それ、当たってる! 先っぽに当たってる!
「ん? これ、なんだろ……」
あ、こら、だめだ、握っちゃ!
「だめだ、そこは握る……じゃなくて、しがみつくところじゃない!」
「……ロファール様にしがみつくなんて……ごめんなさい、ご無礼をお許しください」
「かまわん、非常事態だ」
とりあえず、俺の下半身が非常事態宣言だ。
「ロファール様、組成呪文をお願いします。魔法力を過度に使用していたら、私、そう、言いますからね……」
「わかった」
俺は巨大なバットをイメージした。
真っ黒で、太くて、固くて……。
それをルラルちゃんの、上のお口と、下のお口に……。
いかん、邪念が入る。俺の下半身の比喩表現じゃない、本当のバットだ。
落ち着け俺。ここで負けたらダメなんだ。組成呪文失敗したら俺たちは終わる。ドラゴンに勝てない。
ここで終わるわけにはいかねぇ。
さきっちょだけと触りっこしているルラルちゃんと、子作りするためには、ここで終わるわけにはいかねーんだよ!
俺は目を閉じ、精神を集中した。
「超長い金属バット!」
ボン、とやたら長い金属バットが出て来た。長さ五十メートルはある。
こんなの、さすがに重いだろうし空気抵抗とかあるし、無理かな、と思ったが、バドミントンのラケット程度の重さしかない。
「ルラル、どうだ? 魔法力は? 使いすぎか?」
ルラルが俺のヘソのあたりをもみもみした。
あと、先っちょに当たっている。
たまらんです。
「……だ、大丈夫です。これなら……えっと……一時間くらいは、余裕で持ちます」
「よし、わかった。俺はしばらく暴れるから、離れて安全な場所に隠れろ!」
「はい」
ルラルは俺から離れ、ハッチの方へ走って行った。
ではさっそく、この超ロング金属バット試してみるか。
火球めがけて、俺はバットを振った。
カキーン。真夏の甲子園のごとき音がして、火球は遠くへ弾かれた。
これはいい。俺はロングバットを右に左にぶんぶん振り回して火球を弾いた。
ドラゴンの頭部にいる魔法使いの顔が引きつっているのがわかる。天空要塞の上空を旋回しながらムキになって火球を撃って来た。
俺はそれをカキーン、カキーンと弾く。あ、カキーンと課金てなんか似てるな。
ドラゴンの飛行速度が落ちて来た。ドラゴンの息遣いが荒い。明らかに疲労している。
ドラゴンの両肩にあった魔法大砲そのものが消滅していく。魔法大砲はドラゴンの魔法力を使っていたようだな。ドラゴンも組成魔法できるのか。呪文とかどうしてるんだろ。フレイアなら、わかるかな。聞いてみるか。
そういえば、フレイア、何しているんだろう。俺はあたりを見回した。
「くかーくかー」
寝てるやんけ!
「おい、起きろ、フレイア!」
俺は超ロング金属バットを消去し、フレイアを揺さぶりながら怒鳴った。
「ん? ロファール? ロファールだ! よかった、あのパチモン、どっか消えた?」
「残念ながら、俺はそのパチモンだ。おい、起きろフレイア! ドラゴンが目の前だ!」
フレイアがよろよろっと立ち上がった。
「おい、しっかりしろ、ドラゴンが魔法障壁に取り付いた!」
魔法大砲を失ったドラゴンは、天空要塞の魔法障壁にしがみつき、鋭い爪と牙で、魔法障壁を突き破ろうとしている。
「あ、ほんとにドラゴンだー。やばいよねー。あれ? ボタンが外れてるよ。なんでかな……」
それは、あんたがさっき風呂と勘違いして自分ではずしたんだよ! あと、やばいよねー、じゃない!
「フレイア、戦うんだ!」
「うーん、大声出さないで……頭痛い」
だめだ、フレイアはあてにできない。俺がやるしかない。
「ゴスロリ様専用バズーカ!」
ハイパーガトリング砲よりかなり破壊力に劣るが、一発一発の威力はこっちの方が上だ。
構造が簡単なので、魔法力的に問題ないだろう。
俺はバズーカを肩に乗せ、トリガーを引いた。
バシュ! という音とともにロケット弾が発射される。
「よし、いけ!」
しかし、ロケット弾はドラゴンの直前で、透明なゴムのようなもので、もわん、と弾かれ、空の彼方へ消えて行った。
天空要塞の魔法障壁は、内側からの攻撃は通すはず。だから、天空要塞の魔法障壁のせいではない。
「だから、ドラゴンの遮蔽装置を破壊しないと。さっき言ったでしょ? 角に全魔法力をぶつけるの。そうすれば、遮蔽装置はオーバヒート、破壊されるわ」
「全魔法力をぶつけるって……どうやって?」
フレイアが「はーっ」とため息をついた。
「本当に、何も知らないのね。魔法弾よ。魔法弾に全魔法力を込めるの。魔法弾の呪文は簡単よ」
フレイアが呪文を教えてくれた。古代語だったが、すぐに理解できた。
現代語に訳すと「魔法弾発射」だ。本当にすげー簡単だった。
「魔法弾の撃ち方はわかった。で、角はどこだ?」
「頭に決まっているじゃない!」
俺はドラゴンを見上げた。長い首の先っちょにこじんまりとした頭部がある。角は見えない。
「なあ、フレイア、下から角を狙うのは無理っぽいぞ?」
「空から狙えば簡単よ」
フレイアは杖で空中に呪文を描いた。すると、フレイアの背中に天使のような翼が生えた。
「す、すごい、フレイア、翼が生えているよ!」
「私は飛翔魔法が使えるのよ」
自慢げにフレイアが笑った。
「あなたにも、翼が生えているわよ」
え? マジ? 俺は背中を触ってみる。
本当だ。翼が生えている。
「私の飛翔魔法のすごいところはね、自分だけでなく他人にも翼を生やすことができるってことなの」
フレイアは空を飛んだ。
「あなたも飛びなさい。翼を動かすイメージを思い受かべるの」
フレイアの言う通り、イメージした。
すると、背中の翼がバサバサと音を立て、足がふわりと浮いた。
こうして、ドラゴンとの戦いが始まった。




