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異世界大使館の楽しみ方  作者: 久条 巧
9/9

9th.自転車狂騒曲

異世界大使館の楽しみ方は、不定期更新です。

月一で更新したいので、なんとか頑張ってます。

──ピッピッピッ

 目覚ましの音が室内に響く。

 休暇あけの赤城が、枕もとで鳴り響くま目覚ましに手を伸ばし、カチッとスムーズボタンを押す。


──ピッピッピッ

 そして5分後、再びなりだした時計を止めて、ようやくベッドから体を起こす。

 シャッと窓辺のカーテンを開いて朝日を室内に届けると、そのままタオル片手にシャワー室へと向かう。

 少し熱めのシャワーを浴びて目を覚ますと、ゆっくりと着替えて身支度をする。

 そしてふと時計を見ると‥‥。 


「はうあっ、スムーズ何回なったのよ!!遅刻しそうじゃない!!」

 慌てて着替えて部屋から飛び出すと、駐輪場に置いてあった自転車に飛び乗って‥‥。

「あ、これじゃない」

 すぐさまカギをかけなおすと、急ぎタクシーを拾って北海道庁赤煉瓦庁舎まで飛んで行った。


‥‥‥

‥‥


「はああぁぁぁぁ、間に合ったぁぁぁぁ」

 異世界ギルドのカウンターで、赤城はぐったりとした表情でつぶやいている。

 その隣では、同僚の十六夜がお疲れさんとばかりにスポーツ飲料を赤城に手渡した。

「いつもなら少し早めにくるのに、今日に限って遅刻ギリギリとはねぇ。昨日は彼氏と一緒?」

「ないない。彼氏なんてとっくの昔に分かれてますよ。今は仕事一筋異世界一筋ですから」

 グイッとスポーツ飲料を一気に飲み干すと、さっそく赤城は自分の席に置いてある指示書を手に取って‥‥。

「午前中は第一城塞内の各ギルド周り? ええっと、フィリップさん、これって」

「7の日前に、各ギルドにお願いしたアンケートとかいうやつの回収ですよ。午後からは入国手続きの担当でお願いします」

「はい。それではさっそくいってきます」

 勢いよく席を立つと、赤城はバッグを肩から下げてギルドから外に出て行った。


「ええっと、乗合馬車で第一城塞まで向かって、商人ギルドに回ってから‥‥」

 指示書を確認しつつ、乗合馬車の待合所で待っている赤城。だが、いくらまっても馬車がやってくる気配がない。

 赤城のほかにも、数名の客が馬車を待っているのだが、すでに一時間待っているのにやってくる気配は一向にない。

「あ、あの、今日は馬車、遅いですよね?」

「まあ、よくあることさ。最悪、今日は昼の鐘まで来ないかもねぇ」

 などとのんきなことをいう青年に、集まっている客もウンウンとうなずいている。

「そんなぁ。私、午前中に仕上げないといけない仕事があるんですよ?」

「ゴゼンチュ? なんだいそれは?」

 その問いかけに、赤城はしまったという顔をする。


 異世界ギルドに勤務してそこそこに時間は立っているものの、このカリス・マレスという世界には時間という概念があいまいな状態になっている。

 古代魔法王国の遺跡を発掘した際に出土した『時を告げる水晶』というもので、ある程度の時間はわかるようになっている。

 だが、それはとても高価な品物であり、錬金術師が複製したものが貴族や教会に出回っているのみである。当然庶民には伝わっていないため、協会が朝昼夕がたに金を鳴らして時を知らせてくれる。

 あとは日の傾き加減で代替の時刻を知ることができたり、大型の日時計によって時間を計測しているのみ。

 当然ながら、午前や午後という地球(フェルドアース)式の説明がわかるはずがない。


「では、これで失礼します」

 すぐさま停車場から駆け出すと、赤城は一目散に第一城塞めがけて走り出す。

 ジョギング程度の速度であるが、一応仕事着として制服は着用している。スーツよりはゆよったりとしているが、事務職用の衣服なので若干走りずらい。


「ぬぁぁぁぁぁぁぁ。なんで今日は走りっぱなしなのよぉぉぉぉっ」

 絶叫を上げつつ走っている赤城。

 そしてなんとか第一城塞まで到着すると、あとは各ギルドの巡回作業を開始した。



 〇 〇 〇 〇 〇 


 

 翌日。

 いつものように朝一番で異世界ギルドに出勤した赤城。

 だが、その日は大きなカバンを両手で抱えてくる。

「おや、それは何ですか?」

 転移門ゲートをこえてきた赤城に問いかけるフィリップ。すると赤城はカバンの中から折り畳み自転車を引きずり出して組み立てていく。

──カシャカシャッ

 カリス・マレスの人々にとっては自転車など初めて見る。

 それゆえ、職員たちは集まって赤城の行動をじっと観察していた。

 そして10分すると、きれいな折り畳み式のママチャリが姿を現した。


「これは何ですか? 片輪の馬車のようなそうでないような」

「はい。これは自転車です。ここから第一城塞まで行くのに、いつも乗合馬車というのも問題があるとおもいまして。これですと、城塞内を自由に走ることもできるので、仕事の効率が良くなるのですが‥‥ダメですか」

 あと出して持ってきた機械分類されるもの。

 もっとも、異世界ギルドの職員なら、特に問題はない。ようはフィリップの許可が下りればいいのである。

「そうですねぇ。確かに、ここから第一城塞まで毎日乗合馬車というのも問題はありますか。ギルドで馬を用意して多もよかったのですが、赤城さんと‥‥きょうはたかはたさんですか、お二人は馬には乗れますか?」

 そう問いかけられて、赤城と高畑はお互いの顔を見合わせてから、ぶんぶんと頭を左右にふる。


「私たちの世界では、乗馬は上流階級のたしなむものでして。当然、馬を飼う厩舎など、私たち庶民には用意できるものではありませんので」

「はい。趣味で乗馬をしている人はいますけれど、それは本当に一握りでして。、そのかわり庶民はこれ、自転車を使います」

 そう説明すると、赤城が建物の外に自転車を押していく。

 興味のある職員たちとフィリップもついていくと、赤城は自転車にまたがってぐるぐるとその辺を走って見せる。  

「へぇ。よくまあ、倒れることなく走れますねぇ‥‥」

 関心するように赤城を話しかけるフィリップ。テヘヘと軽く笑うあかぎに、フィリップはコクコクとうなずいている。

「まあ、仕事に使うというのであれば許可しましょう。そのうち持ち込み可能になるかもしれませんし、マチュアさんには私から許可を貰ったと伝えてくれれば構いませんので」

「はい、ありがとうございます。では、先日の続き、行ってきます」


本日も各種ギルド周り。

昨日回れなかったウェストカナンとノースカナンを中心に、赤城は自転車を漕いで走り抜けた。

初めて見る謎の乗り物、それは町の人々の注目の的になる。

時折、商人や貴族らしい人が駆け寄ってきて、それが何なのか教えてほしい、売ってくれないかと交渉を持ちかけてくるが、軽く断り続けていた。

だが、そんな赤城を建物の陰から見ている不審な存在があったことに、赤城は気づかなかった。


………

……



「ふぁ?」

本日最後のギルド周り。ウェストカナンの鍛治ギルドから出てきた赤城は、目の前に展開している『バラバラになった自転車』を呆然と見ている。


「な。な、な、何があったのですかぁぁぁぁ」

バラバラになった自転車の近くでは、今、まさに前輪のチューブを外しにかかっている三人組のドワーフの姿がある。

「おお、この怪しげな乗り物はお嬢さんのか。すまんが、調べさせてもらっとるぞ」

全く悪びれもせずに笑うドワーフ。

その声に、赤城はその場にヘナヘナと座り込んでしまう。


「しかし、これは異世界の乗り物か?この材質は何じゃ?ナイフを入れたらプシューと何か抜けていったが」

「このジャラジャラとした鎖はなんじゃ?」

「この輪っかの中の細い管の材質は?こんなものでよくも車輪を抑えられるなあ」

てんでバラバラに問いかけてくるドワーフ。

やがて、ギルドの責任者が外に飛び出してきて、ドワーフたちを力一杯ぶっ飛ばすまで、赤城のママチャリの解体は続けられた。


「あは……それ、買ったばかりなのに………」


呆然とする赤城。ギルドの好意で異世界ギルドまで戻ってきて、自転車の弁償ということで金貨10枚を握らされた。

遅くなった事情は鍛治ギルドのマスターがフィリップに説明したため難を逃れたものの、明日以降の通勤について赤城は今一度考え直す必要があると思った……。


そして。

次の日、赤城はまた新しい自転車を持ってきた。

「あんた、昨日あんな目にあったのに懲りないわねぇ」

「だって。一度でも楽を覚えるともう。それに、弁償してもらったおかげで、また新品を乗れるんですよ?」


嬉しそうに自転車を組み立てる赤城。

ただ、昨日と違うとは、自転車に付けられているプレート。それにはカ カリス・マレスのコモン語でこう書かれていた。


『ドワーフは接触禁止』


と。

 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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