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異世界大使館の楽しみ方  作者: 久条 巧
2/9

2nd 運命は適当に扉を叩く

 心臓が止まりそうである。


 突然の異世界からの来訪者が、これまた突然目の前にあったレストランで食事をしたいと言い出したのである。

 仕込みで残っていた赤城やコックたちは、何とかメニューを全てクリアして厨房で座り込んでいた。


「では、最後のデザート行きます」

 ホールマネージャーの谷口がデザートプレートの載せられたワゴンを押していく。

 それを見送ると、赤城はすぐに綺麗なコックコートに着替えに向かう。

 最後の挨拶が残っているのである。


──ガチャッ

 厨房の扉が開き、ようやく足柄シェフが到着した。

「助かったぁ。足柄シェフ、あとは最後の挨拶ですのでお願いします」

 ホッとした表情で赤城がそう話すが。

「何言ってんだ?今日のシェフはミナトちゃんだろう。とっとと行ってこい」

「ええええぇ。もう勘弁してください」

「お前もこれからスーシェフになるんだろうが。そうなるとこれぐらいは日常茶飯事だ、いいから行ってこい。勉強だ」


 そう告げられると、もう観念するしかない。

 そして着替え終わった赤城の元に谷口マネージャーがやってくる。


「では、ミナセ女王がお待ちですよ。日本語が通用してますのでご安心を。全て残さず食べて頂けましたよ」

「余計怖いですよ。何で始めてきた異世界で日本語が流暢なんですか」

「わたしにはわかりませんが、魔法だそうです」

「‥‥もう良いです。ではいきます」


 観念した表情で客室に向かう赤城。

 そして部屋の前でノックして入ると、そこでは先日見たマチュアとゼクス、そして菅野官房長官と防衛省のお偉いさんが座っていた。

「本日は我がレストランをご利用いただきありがとうございます。シェフ代行の赤城と申します」

 丁寧に頭を下げる赤城。

 すると、マチュアはゆっくりと立ち上がると、赤城に近づいていく。


──ガシッ

 そして手を掴まれると、ブンブンと握手をさせられた。

 ほのかに暖かい手。

 人間と同じく血が通っているのが感じられる。


「本日は私のわがままにお付き合い頂いてありがとうございます。最高の料理でした」

「それは光栄です」

「もし国交が認められたら、また食べにきます。というか、勝手に食べにきます」

 笑顔ではう告げるマチュア。

 そこまで褒められると悪い気がしない。

「是非いらしてください。ですが次の来店は、せめて前日までに予約していただけると助かります」

「そうですね。その時はお願いします」

「このまま連れて帰ってうちの王城で働いて欲しいぐらいですよ」


──キラーン

 そのマチュアの言葉に、菅野官房長官の瞳が光ったような気がするが気のせいであろう。

「あはは。私、給料高いですよ」

「月に白金貨5枚出します。それだけの価値があると思いますので」


──ゴホン

 そこまで話していると、ゼクスが咳払いをする。

「ミナセ女王、そろそろお話の続きです。赤城さんも困っているではありませんか」

 その言葉でとっさに手を離すマチュア。

「あらあら、これは失礼。ではまたご縁がありましたら」

「はい。それでは失礼します」

 最後に深々と挨拶すると、赤城はゆっくりと部屋から退室する。


………

……


「ぷっはー。喉がカラカラですよ‥‥」

「そのようで。このあとは、此処で急遽会見となったらしいですので。あとは私の仕事です、厨房でゆっくりと休んでください」

「ありがとうございます。谷口さんも頑張ってくださいね」

「これも昔取った杵柄、何とかなるものですよ」

 その笑顔を見てから、赤城は厨房に戻った。

 そして戻った時の厨房は再び戦場となっていた。


「い、一体何があったのですか?」

「国家間の会談の後とかはな、首相や大統領などに供されたメニューが爆発的に売れるんだ。明日からはこれを中心に回すから、準備を頼むな」

「なるほど。そういう事でしたら」

 そう返事を返すと。赤城も仕込みに加わることになった。

 そしてその日は、次々と運び込まれる食材の仕込みで日付が変わるまで働かされたという。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日からは足柄シェフの予言通り。

 メニューNo.5の注文が実に8割。

 その他のメニューが残り2割という感じて注文が殺到した。

 あまりにも注文や問い合わせが殺到するため、赤煉瓦亭は完全予約制に移行することになってしまう。

 そうなると客というのは不思議なもので、メニューNo.5の注文しかやってこなくなる。

「毎日毎日同じメニュー‥‥これはまさに生き地獄のような」


──スパーン

 そうぼやいている赤城の後頭部を、足柄シェフが軽く叩く。

「良いから楽しそうにやれ。次はミナトのメインだろうが」

「はいっ。では」

 すぐにストーブ前に移動すると、フライパンを軽く熱する。

 そしていつものように間違いのない料理を仕上げると、すぐさまカウンターに運ぶ。

 これもいつもの様子。

 そんな毎日を繰り返していると、時折赤城と話がしたいという客も現れる。

 テレビ局からも取材が来たこともあるが、面倒臭いので軽く流した。


 テレビでは毎日異世界カリス・マレスとの国交についてどうするかが論議されている。

 国会では、これを気に国交を結ぶべき、そのための法整備をしたい与党と、他国に対しての侵略行為であると反発する野党で揉めている。

 それに日本の北海道に開いた異世界の扉は、日本だけが所有するべきではないという各国からの政治的圧力、はては国連にまで話が及ぶなどもあり、異世界カリス・マレスの問題はまさに荒波に揉まれている。



 ミナセ女王が、この世界にやってきて5日後。


 日本国の代表が、あの転移門ゲートと呼ばれている扉を潜って異世界へと向かった。

 代表として選ばれたのは菅野官房長官と自由民権党の南原崇議員、記録科から神崎泰久、社会研究党の伊達陽子という堂々たるメンバーである。

 いずれも、国会で言葉の殴り合いを展開している、つわもの議員である。

 異世界へ向かう前は喧々轟々としていた一行も、いざ視察を終えて戻って来ると、異世界国交についてまじめに考え始めている。

 異世界視察の報告書が提出されてからは、直ちに特設された『異世界派遣委員会』にて内容を精査され、国会および各政党に配布される。

 それらを元に、日夜話し合いが続けられている。


‥‥‥

‥‥


「ふぅん。明日はミナセ女王と、あの騎士が国会に招聘されるのか‥‥」

 風呂上がりで、素肌にバスタオルを巻いたままの姿でソファーに腰掛けると、冷蔵庫から持ってきた恵比寿ビールの口を開く赤城。


──グビッグビッ‥‥

 一気に三分の一を喉に流し込むと、あらかじめ作っておいたカマンベールのフライを口の中に放り込む。

「ぷっはー。これこそ仕事終わりの醍醐味。独身万歳だよっ‥‥」


 そう呟きながらテレビを見る。

 そこでは、いつものように肩書きだけ立派なコメンテーターが、自分の予測がいかにも正しいか、正当性をもたせながら適当なことを話している。


『そこで、現在までの異世界カリス・マレスについてわかっていることを説明しましょう‥‥』


 巨大なフリップを出して一つ一つ説明する司会。

 そこに書かれていることは、ありていにいうとあちこちにあるラノベのファンタジー設定。

 魔法がありモンスターがいる。

 様々な職業や店もあれば、それを取りまとめているギルドもある。

 そして冒険者の存在。

 画面の下に流れているツィツターのテロップが突然にわかに楽しくなる。

 すぐさま国交を結ぶべきという事を書いたものもあれば、すぐに異世界で冒険者になりたいという意見もある。

 魔法を覚えてきたら、この現代では一攫千金という言葉もあり、実に多様な意見がある。


『それで、簡単な貨幣経済もあるそうで。具体的にはですねぇ』


──ダン

 フリップの紙が剥がされると、そこには向こうの世界と赤城たちの世界の貨幣のレートが記されている。


「へぇ。白金貨、金貨、銀貨、銅貨と鉄貨ねぇ。鉄貨幣が10円ぐらいだぁ‥‥ん?」

 金銭の数え方は10進法。

 但し白金貨は金貨100枚。

「あれれ?この前私女王にスカウトされたよねぇ?えーっと‥‥月に白金貨5枚って話ししていたから、月給が五十万円か‥‥」

 そう呟きながらビールを一気に飲み干して、突然立ち上がる赤城。


──ストーン

 体を纏っていたバスタオルがストーンと床に落ちる。

「違がぁぅ。月に五百万? 年間六千万‥‥しまったぁぁぁぁぁ」

 あの場で、社交辞令的に話を受けておけばよかった。

 頭を抱えて部屋を転がる赤城だが、すぐに自分が全裸だったのを思い出して着替えることにする。

「あの女王もきっと社交辞令だよなぁ‥‥」

 そのままベットによじ登ると、赤城はスーッと眠りについた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日。

 朝8時半に、赤煉瓦亭に出勤した赤城。

 いつものようにコックコートに着替えて厨房に向かうと、いつもとは空気が違うことに気がついた。

 仕込み作業がいつもよりも早く進んでいるのである。


「おはようございます。いつもより早いみたいですけれど、今日は何かあるのですか?」

 カウンターの横の椅子に座って新聞を見ている足柄シェフに挨拶する赤城。

「おお、おはようさん。今日はあの異世界の女王様の国会招聘だろ?晩餐会をここでやりたいとゴネたらしくてな。一応晩餐会は東京のホテルでやるらしいが、その後でここで一息入れたいんだとさ」

「なるほど。席はあるのですか?」

「それは問題ない。そういう時のために常時二つは空けてあるからな」

「そういう理由で、今日はこの状態なのですね?了解しました。それでメニューはどれで」

 そう納得している赤城だが、足柄シェフは頭をポリポリと掻いている。

「まあそのなんだ。ここじゃあ話しづらいから、ちょっと場所を変えるか」

「はぁ‥‥」

 そう話してから、足柄シェフは赤城を北海道庁舎まで連れて行く。

 そして観光課ではなく知事室まで向かうと、足柄シェフは扉をノックする。


──コンコン

『どうぞ』

「失礼します。赤煉瓦亭の足柄です。赤城湊を連れてきました」

 そう挨拶をして部屋に入る足柄。

 その後ろを、オズオズと赤城も入って行く。


 そこはテレビでよく見る光景。

 そしてよく見る男性知事が、窓辺に立って待っていた。

「貴方が赤城君だね。初めまして、北海道知事の土方謙三です」

「は、はじま、初めまして、赤城湊と申します」

 丁寧に挨拶する赤城だが。


(うっわ‼︎ 私何かやらかした?この前の晩餐会?女王様の怒りに触れた?)


 そんな事が脳裏をぐるぐると渦巻くが。

「単刀直入に話しさせてもらいます。ちょっとこのテーブルの上の水晶球に触れてもらえるかな?」


 ふと見ると、知事の机の隣に小さな机があり、そこに小座布団に乗せられた水晶玉がある。

 表面には、どこの国のものかわからない細かい文字が、全体にびっしりと刻まれている。

 一見すると、立体的な魔法陣のようにも見える。


「これですか?」

「ああ。どちらの掌でも構わない。その上に乗せてくれ」

「はぁ。それでは‥‥」

 おっかなびっくりと掌をポンと載せる。


──キィィィィィィン

 すると、中心部が淡く輝き、やがて水晶玉全体が白く強く輝いた。

「うわっ‼︎これはなんですか?テスラコイル?」

 慌てて手を下げながら、問いかける赤城だが。

 土方知事も、いまの水晶球の反応を見て驚いている。


「まあ、そうなるな。済まないがちょっとこれを見てくれるか?」

 知事室の壁に掛けてあるテレビをつける。

 そこでは、ちょうど女王に対しての質問が行われている所であった。

 その女王の席の隣に、知事室にあるものと同じ水晶玉が置いてあった。

 その前に菅野官房長官が立って触れると、スーッと赤く輝いた。


「ははあ。私と同じく光ってますねぇ」

 そう赤城が呟いたが、その後も数人の議員が順番に触れているが、誰も光らなかった。

「すいません知事。私は嫌な予感しかしないのですが」

 そう赤城が恐る恐る話すと。


『ただいま見ていただいた通り、この魔力感知水晶は、触れたものの魔力を算出する事ができます。今触れていただいて反応がなかった方は、残念ですが私たちの世界に来るだけの魔力を持っていません。万が一やって来た場合、魔障酔いという状態に陥り、意識を失ってしまいます』


 そう画面の向こうで、ミナセ女王が説明している。

 その横に予め話を聞いて用意してあったらしいボードが設置されると、そこの項目を一つずつ指差して説明している。


『赤く輝いた方は、魔力係数が30〜50。私たちの世界に来ても害がありませんが、来るためには私たちのように転移門ゲートを開けるものが代わりに開かなくてはなりません』


 ふむふむ。

 その説明をしっかりと聞いている土方知事と足柄シェフ、そして赤城の三名。


『黄色く輝いた方は、魔力係数51〜80。問題なく生活もできますし、関連施設でしっかりと勉強すれば魔術も習得することが出来ます。但し、こちらの世界は魔障という魔力の源が薄いので、こちらでは魔術は使えないでしょう』


 その説明と同時に議会が騒がしくなる。

 自分達も魔術が使える可能性があったのである。


『そして、青く輝いた方は魔力係数81〜100。魔術の素質を秘めています。訓練次第では冒険者として十分に生活することもできますし、秘薬という魔術の触媒さえあれば、こちらの世界でも魔術は使えます』


 この言葉は衝撃的である。

 巷にいる自称魔法使い達も、これで本物かどうか見極められるのである。


『質問よろしいでしょうか?』

 野党議員が挙手して委員長に問いかける。

『山根議員どうぞ』

『では。いまの説明ですと、青色以上の輝きはあるのですか?』

 そのことばに、マチュアは自らも水晶に手をのせる。

 すると水晶が銀色に輝いた。


『今の私は魔力係数が2000ほど。私たちの世界の一般の人々の平均が60前後です。魔力係数101以上の方は白く輝きます。訓練次第では秘薬などの触媒も必要とせず、自力で転移門ゲートを自由に使うこともできるでしょう』

 にこやかに告げるミナセ女王。

『では、そのような方がこの世界にはいるのですか?机上の空論ではなく。そのあたりをお答えください』

『ええ。少なくとも私は一人確認しています。個人情報と言うのですか?それがあるのでその方については控えさせていただきますが』

 そこでまたいくつかの質問が繰り返されているが、すでに赤城の耳には届いていない。


──ソーッ

 ゆっくりと水晶球に近づいてもう一度触れる。


──キィィィィィィン

 やはり真っ白に光り輝く。


「ミナセ女王の話している人は、ひょっとして私ですか?」

 自分を指差して問いかける赤城。

 まあ信じられないし、信じたくないのも分かる。

「ああ。そこでだ。赤城湊、君は明日から北海道庁観光局赤レンガ庁舎観光課から北海道庁総合政策部・異世界政策局に出向を命じます」


 静かにそう告げる土方知事。

 その言葉にしばし茫然とする赤城だが、すぐに頭を左右に振った。

「い、いえいえ、私にそんな大役務まりませんし、何よりそこで何をして良いかわかりません」

「まあ、そうだろう。さっきの放送を見て分かる通り、

 ミナセ女王の告げた『自力で転移門ゲートを越えれる現代人』は赤城君ということになる。これがバレると各政党が君を取り込もうと躍起になるので、先に北海道庁で安全のために確保させて貰った」

「ですが、私は一介の調理師で、何をしたらいいかわかりません」

 そう強めに説明する赤城だが。


「異世界政策部は部長として三笠君が、部員には観光局赤レンガ庁舎観光課の職員が数名出向することになっている。今のところの実務はまだないが、君には異世界に向かって色々と観光資源の調査、こちらの観光資源のアピールなどを行ってもらう」

「仕事がないときは?」

「赤煉瓦亭勤務でも構わないよ。そこは三笠部長と調整したまえ」

「給料も上がるのですよね?」

「当然。異世界に出向する時は危険手当も出る」

 そこまで説明を受けて、頭の中でもう一度推敲する赤城。


(これは、今までの自分から新しい自分にステップアップするチャンスよね。給料も上がるし、ひょっとしたら異世界で素敵な出会いがあるかも‥‥)


 デレーッと鼻の下が少し伸びる赤城。

「では、心して受けさせていただきます」

「その言葉を待っていた。明日からは北海道庁赤レンガ庁舎観光課の隣に場所を作っているので、そこに向かいたまえ。あとのことは三笠君と打ち合わせてな」

「はいっ。では失礼します」

 丁寧に頭を下げる赤城。

 そして部屋から出ると、足柄シェフが赤城に話しかける。


「まあなんだ。異世界の面白い食材ももってこい。厨房は自由に使ってもかまわないからな」

 ポンポンと赤城の頭を軽く叩くと、足柄と赤城は赤レンガ庁舎へと戻っていった。


 その日の夜。

 9時半丁度に、ミナセ女王たちはやって来た。

 飛行機や北海道新幹線ではなく、やはり赤レンガ庁舎前の転移門ゲートを通って。

 そこから現れたのは阿倍野内閣総理大臣とその秘書、経済産業省の蒲生太郎大臣、ミナセ女王と騎士のゼクス、そして異世界ギルドの職員である猫族獣人のミヌエットという豪華な顔ぶれであった。

 赤城も綺麗なコックコートを着て出迎えるように告げられたので、土方知事と共に女王達を出迎えた。


「本日は赤煉瓦亭にようこそお越しくださいました。心からのおもてなしをお楽しみください」

「あら、この前の臨時シェフさん‥‥赤城さんといったかしら?」

 突然名前を呼ばれて、赤城の心臓が激しく脈打つ。

「はい。覚えて頂いて光栄です」

「それはもう。それで、私の国の王城で働く決心はついたかしら?」

「えっ、いえ、その‥‥」


 この女王本気でスカウトしていた。

 答えに詰まった赤城だが、その様子を悟ったのかミナセ女王はすぐに話題を変えてくれた。

「まあ、その話はまたということで。阿倍野総理、この方が私のお勧めしていた女性ですよ」

「なるほど。そうでしたか‥‥では、積もる話は中でゆっくりと」

 そう話をしていると、谷口マネージャーが総理達を部屋に案内した。

「‥‥助かったぁぁぁ」

 額から流れる汗を拭うと、すぐに厨房に戻る赤城。

「よお、挨拶は終わったのか」

「はい。また王城で働かないか誘われましたよ。何処まで本気なのか分かりませんよ」

 そんなことを話してから、すぐさま調理作業に戻っていった。


‥‥‥

‥‥


「ふぁぁ。もう11時になりますよ。エルフって夜行性でしたっけ?」

 一通りの作業を終えた赤城達であるが、最後にまた挨拶するかもしれないという理由で、赤城と足柄シェフを残して若手やスーシェフはみな帰宅した。


「俺はエルフとか分からん。ロード・オブ・ザなんとかって言う映画で見たぐらいだ」

「指輪物語ですか。あれもいい作品ですよ」

「そうか。まあ、異世界ってそんな感じなんだろう?化け物とか出るのか?」

「出るんじゃないですかねぇ‥‥あれ?私も向こうに行くこと確定ですか?」

 ふと、朝の話を思い出す赤城。


「まあそうだろうなぁ。三笠の旦那が上司だから問題はないだろうが、なにかあったら相談に来いよ」

「なんでしょう。すぐに来そうな気もしますけど」

 などなどと話していると。

「赤城さん、女王様がお帰りらしく、ご挨拶をと言う事ですよ」

「はい、今すぐ向かいます」

 慌てて立ち上がると、谷口マネージャーの方へと向かう赤城。

 そのまま客室に向かうと、室内からは温和な空気が流れている。

 みな笑顔で楽しそうに歓談していたのであろう。


「失礼します。本日はありがとうございました」

「こちらこそ美味しい料理をありがとう。また来るので、その時はお願いします」

「はい。私は明日付で部署が変わりますが、リクエストがありましたら対応させていただきますので」

 その言葉には、マチュアだけでなく阿倍野総理や蒲生大臣も驚いている。

「ほう、明日付で変わるのか。次は何処に行くのかな?」

 阿倍野総理が赤城に問いかけるが。

「北海道庁総合政策部・異世界政策局です。北海道における異世界関連の専門局ですので、必然的に女王様の対応は私が務めることになりますので」

 そう土方知事に言われているので、その通りに返答した。

「そうか、なら大丈夫だな。後日連絡するが、近いうちに君には異世界に行ってもらうので。今日はありがとうな」

 蒲生大臣が赤城の肩を叩きながら告げる。

「はい‥‥って?」

「それでは。今度は私の国でお会いしましょう」

 そう告げると、ミナセ女王は騎士と職員を伴って部屋から出て行った。

 そして総理大臣達も部屋から出て行くと、室内には呆然としている赤城だけが残っていた。


 赤城、異世界カリス・マレス行き、確定。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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