◆第十二話『レリックの真価』
黒の塔の2等級階層も、ほかの塔と同じく森林地帯を基盤にした構造だ。ただ、色は固有のもので草葉を彩るのは黒や紫。まさに腐った森といった光景が広がっている。
――黒の塔13階。
前方の茂みから4体のスケルトンファイターが飛び出してきた。紫の雑草を踏みつけ、カラカラと音を鳴らしながら突っ込んでくる。
「早速ちょうど良いのが来たな」
「ど、どんな感じなんだろ」
「楽しみだね」
クララ、ルナに注目される中、アッシュは逆手に持ったスティレットを振り上げる。と、虚空を斬った軌跡が光を持ち、まるで傷口が広がるように膨張。人間を軽く呑み込むほどまでになると、勢いよく放たれた。
光は、接触した4体のスケルトンファイターを粉砕し、一直線に突き進んでいく。ついには奥の大樹を弾き飛ばし、飛沫を散らすように消滅した。
軌跡を記録するかのごとく、光が通ったあとには風に揺られたカーテンのような光が漂っていた。しばらくして消えたが、神聖を感じる美しい光景だった。
スケルトン群をあっさり一掃したからか。
あるいは光の美しさに見惚れたからか。
少しの間、全員がぽかんと口を開けることしかできなかった。
「消し飛んじゃった……」
「これは……凄すぎるね」
いま放った斬撃は〝面〟だった。
属性石5、6はめの〝線〟の斬撃とはわけが違う。
アッシュはスティレットをまじまじと見る。
「これは2等級程度じゃ相手にならなさそうだな」
「アッシュくん、アッシュくん。あたしも試しに振ってみてもいい?」
「ああ、いいけど気をつけろよ」
「わかってるってー」
クララは両手で持ったスティレットを前方に突き出すと、「えいっ」と振り下ろした。先ほどよりも小さな光ではあったが、充分に巨大な発光体が放たれる。あまりの眩しさからか、クララが「うわぁっ」と声をあげて地面に尻をついていた。
「じゃあ、ボクも試しに」
今度はルナがスティレットを持った。
縦に横にと幾度もたしかめるように振る。そのたびに巨大な発光体が放たれ、ここが黒の塔だということを忘れるほど辺りに白色が溢れた。
「……凄いね。自分が放ったとは思えない感じだ」
「ねね、あの光のカーテンにも効果ってあったりするのかな? ほら、ラピスさんの槍で作った氷みたいに」
尻についた汚れをぱんぱんと手で払いながら、クララが言ってきた。
彼女が言っているのは、以前、ライアッド王国の手の者が襲撃してきたときの話だ。助けに入ってくれたラピスの一撃に付随して生成された氷の壁。あれは幻でもなんでもなく、実際に巨大な氷の壁として機能していた。
「試してみるか」
先へと進んで手頃な魔物を捜す。間もなくしてスケルトンファイター2にスケルトンウィザード1。黒色のスピリット2と遭遇した。検証するにはうってつけの構成だ。
アッシュは敵の集団とを区切るように地面を薙いだ。カッと短い発光とともに軽く地面が抉れたあと、想定どおりに光のカーテンが生成される。
うっすらと映り込む魔物の集団。
実際にカーテン越しに見ているような光景だ。
ウィザードが杖をかかげて黒球を放ってきた。だが、光のカーテンに着弾するなり、黒球はすっと音もなく消滅する。
今度は2体のスピリットが踊るように空を舞い、無数の燐光を飛ばしてきた。だが、それもまた光のカーテンに吸い込まれるように消えた。
燐光が通じないとわかったからか、スピリットが突撃をしかけてくる。
アッシュは身構えるが、剣を振ることはなかった。スピリットが光のカーテンに触れた瞬間、ぼぅっと音を鳴らして消滅したのだ。
「すごいすごいっ! 無敵状態だよ!!」
クララが興奮した声をあげる中、アッシュは光のカーテンが薄まってきたのを見てスティレットを振って上書きした。
ウィザードは最初の攻撃から諦めずに何度も黒球を放ちつづけている。それに背中を押されてか、2体のスケルトンファイターが突っ込んできた。
スピリットのように消滅するかどうか。
警戒を強めて注視していると、2体とも何事もなかったように光のカーテンをすり抜けた。そのまま剣を振り上げながら向かってくる。
クララが「えぇっ」と動じる中、アッシュはスティレットを払ってスケルトン2体に斬撃を放った。まるで突風にあおられたかのごとく、後方へ弾き飛んだ敵2体は空中でばらばらになって散った。
「なるほどね」
そう言って、ルナが矢を放った。
光のカーテンをすり抜けて飛んだそれは奥のウィザードの首に刺さった。敵の体が後方へ倒れる前に両腕、両脚にも矢が刺さる。その胴体が地面に落ちてから間もなく、ウィザードは無数の燐光と化して跡形もなく消え去った。
魔物の気配がなくなり、光のカーテンも消滅する。
それを機にルナが検証の見解を話しはじめる。
「全塔共通のスケルトンには効果なし。ほかのスピリットやウィザードの魔法には効果あり。となるとカーテンが通用するのは闇属性の肉体を持った相手。または魔法の類だけかもね」
「それでも充分過ぎるぐらいだな」
レリックの強大な力には驚かされたが、いまはその力をどのように自分の戦闘に組み込むか。その活用方法を考えることで頭が一杯だった。
「等級が設定されてるぐらいだ。下級の魔法だから無効にできてるだけで、上級の魔法になってくると無効にできないかも。気をつけてね」
「了解だ」
アッシュは先を見据えながら、スティレットをぐっと握りしめた。
「うっし、今日はこいつを最大限活かして一気に昇るぜ……!」





