表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【朽ちた遺物】第二章
66/492

◆第十一話『ガマルご満悦』

 リッチキング戦に参加表明をしてから4日で30階を突破。その後、アッシュは仲間とともに6日間、白の塔でひたすら魔物を狩りつづけていた。


 ――39階。

 多くの石柱に天井を支えられ、奥に女性の彫像が飾られた、いかにも聖堂といった広い空間の中。射し込む陽光が埃の舞う姿を映し出し、静謐な空気を演出していた。


 がしゃんがしゃんという音が広間に響く。

 石柱の陰から飛び出るように姿を現したのは、全身を純白の鎧で包んだ人型の魔物。白の塔10階の主を、そっくりそのまま人間と同程度の大きさに収めた形状だ。


 その外見から挑戦者の間ではナイトと呼ばれているらしい。ナイトの種類は現在確認できているだけで3種。剣、槍、魔術師型だ。その中で剣だけが盾を持っている。いま、向かってきている敵もまた剣型だった。


 敵が盾を前面に構えながら接近してくる。あの盾には10階の主が持っていたものと違って反射効果はない。破壊不可でもないが、かなり頑丈で壊すのは面倒だ。


 アッシュは敵が盾を持っている側――右側を通る形で敵の背後へと回り込んだ。敵が素早く反転し、剣を振り下ろそうとしてくる。それを後退して躱したところで、ドンッと背中を押されたように敵が前のめりに倒れ込んできた。


 視界の中、敵が塞いでいた箇所がなくなり、片手を突き出したクララが遠くに映り込む。彼女のフロストレイが敵に命中したのだ。


 敵がすぐさま立ち上がろうとするが、そうはさせまいとアッシュはスティレットを後頭部に刺してトドメを刺した。鎧もろとも消滅していく。


「アッシュ、背後に魔術師!」


 ルナの忠告が飛んでくる。

 アッシュは弾かれたように近場の石柱に身を隠した。直後、背中を通して石柱になにか衝突したことが伝わってくる。魔術師の魔法だ。しかし2回目の衝撃はなかった。


 代わりに低い呻き声が辺りに響く。石柱から顔を覗かせると、杖持ちのナイトが仰向けになって倒れていた。顔面にはルナの矢が突き刺さっている。


 さすがの処理の早さに脱帽するが、のんびり驚く暇もなかった。がしゃんがしゃんと2つの大きな足音が近づいてきていた。左右から(ランサー)が1体ずつ。馬上槍と酷似した傘型の長槍を脇に構え、一直線に向かってくる。


 アッシュはその場から逃げるようにして走り出す。と、先ほどまで身を預けていた石柱に敵2体の槍が交差する形で激突。荒々しく砕け散った。


 石柱の破片が飛び散る中、すれ違った2体の敵は勢いそのままに駆け抜けていく。構えた槍を下ろすことなく石柱の間を抜けて方向転換。またもこちらに向かってくる。


「右手側を頼む! 俺はこっちをやる!」


 アッシュは1体を後衛2人に任せ、もう1体へと向かった。ソードブレイカーを剣帯に収め、左手を空ける。


 破壊力こそ凄まじい槍型だが、その動きは単純。限界まで近づいてから槍の下に潜る形で滑り込む。敵の足首を掴んで勢いを止めると、そのまま地面を蹴って背後から襲いかかった。


 敵が槍を持ち上げ、どうにか反撃しようとするが、もう遅い。アッシュは敵の脳天にスティレットを突き刺した。ごと、と重い音を鳴らして敵の手から槍が落ちる。


 クララとルナももう1体を倒したのか。

 ほぼ同時、2つの慟哭が重なる形で広間に響き渡った。


「いまの魔術師で300体目だね」


 ルナが自身の手の甲を確認しながら言った。

 300体目とは受けていたクエストの話だ。


 剣、槍、魔術師。それぞれ300体討伐で3千ジュリーと白の属性石1つを入手できるというものだ。剣が終われば槍。槍が終われば魔術師といったように順番でしか受けられないせいで面倒ではあったが、その苦労に見合った報酬を得られた。


「やっと終わったー! 長かったぁ~」


 クララが大きなため息をつきながら、その場にへたり込んだ。

 普段なら咎めるところだが、ここの広間は一度制圧してしまえば次に沸くまで時間がある。仕方ないな、と思いながらも大目に見ておいた。


「これで白の属性石は揃ったな」

「クララの分も集められたのは大きいね」

「だな」


 4等級階層で狩りはじめてから3日目で運良く白の属性石を4つ入手できた。これでルナの弓分が早々に揃ったので、これならと予定になかったクララのヒール強化分も集めることにしたのだ。結果はクエストのおかげもあって無事に集めることができた。


「強化してもらった分、頑張ってヒールするよ! って言っても、2人とも全然攻撃受けないから、ほとんど機会がないけど……」

「そりゃあ世話にならないのが一番な魔法だからな」

「そうだけどー。あたしとしてはもっと活躍したいなって」


 クララが杖を抱きながら口を尖らせる。

 攻撃魔法で活躍しているが……やはり彼女としてはヒールが本来の役割という思いが強いのだろう。


「もしものときに回復してくれる仲間がいるってのは心強いもんだぜ」

「そうそう。クララが思ってる以上に頼りにしてるんだよ、ボクたち」


 ルナと揃ってそう告げると、クララが途端に頬を緩ませた。


「2人があたしを頼りに……えへへ」


 本当のこととはいえ、ここまで態度を変えられる辺りさすがだ。そこが彼女のいいところと言えばそうなのだが、悪い人間に騙されないかと時々心配になる。人見知りなので大丈夫だとは思うが。


「4等級の防具はアッシュもボクも胴と脚の2箇所ずつ。クララは足の1箇所か……」


 ルナが全員の格好を見ながらそう零す。


 彼女と同じくアッシュは胴と脚に《ブラッディ》シリーズを身に着けていた。赤を基調に多くが黒で模様づけされているため、白の塔ではひどく目立つ衣装だ。


 ローブ以外の防具交換石は初めに重鎧か軽鎧、軽装を選択。その後、望んだ形状に変換できる仕組みとなっている。


 極端に面積を減らすこともできるし、すべてを覆うこともできる。それ次第で守れる範囲ももちろん違ってくるので当人の戦闘スタイルと相談といったところだ。


 ちなみにアッシュはルナと同じで軽装を選んだ。

 やはり攻撃を受けない前提で動きやすさを重視したかったからだ。


 クララのほうは白味の強いブーツを履いただけで見た目的に大きな変化はなかった。


「防具だけは部位の関係もあってさすがに自力で揃えるのは難しいな」

「残りは出たらいいなぐらいで、当初の予定通り委託販売所で購入かな」


 大量に魔物を狩ったり、クエストをこなしたりしたおかげでジュリーは約2万まで回復していた。幾つか防具を購入しても余裕があるので当分は生活費に悩むことはないだろう。……高価なものを購入しなければの話だが。


「ひとまず最低限の装備は整ったことだし、そろそろ黒の塔を昇りはじめてもいいかもね」

「あ、じゃあじゃあ、ついにあれ使うの!?」


 ぴょんっと立ち上がったクララがきらきらした目を向けてきた。


 どうせ使うなら最高の効果を出せる黒の塔で。

 そんな理由でずっとお預けにしていた武器――。


「ああ。最大強化レリックのお披露目だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
(公式ページは↓の画像クリックでどうぞ)
cop7m4zigke4e330hujpakrmd3xg_9km_jb_7p_6
ツギクルバナー
登場人物紹介
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ