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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【頂の守護者】第ニ章
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◆第五話『ひたすらオーバーエンチャント』

「よかったな、2人とも」

「これで僕もみんなの仲間入りだよ」

「ほんと心臓に悪いよこれ~……」


 レオとクララが心底ほっとしたように息をついた。


 1ヵ月後、湧きなおしたばかりのクリスタルドラゴンを討伐。エネルギーコアを製作し、いまいちどオーバーエンチャントに挑戦していた。


「でも、また1回失敗しちゃった。あたしって運悪いのかな……」


 クララが安堵から一転してしゅんと肩を落とした。

 1度目で成功したレオとは違い、クララは2回目での成功だ。前回の挑戦も合わせれば2回失敗したことになるため、余計に気にしているのだろう。


「こればっかりはしかたないだろ。な、ルナ」

「アッシュはボクを定期的にいじめてくるよね。まあ、笑い話にしてくれたほうがこっちとしても助かるけど」


 ルナが拗ねながら言ったのち、困ったように笑った。


「あと2回分、余ってるけどどうする?」


 受付に座るリリーナが訊いてきた。


 今回の挑戦はレオが1回。クララが2回で計3回。エネルギーコアは5回まで使用できるため、リリーナが示したとおり残りは2回となっている。


「まあ、順当にレオの防具強化だろ」

「い、いいのかい?」


 レオが目を瞬かせていた。

 先ほど挑戦したばかりとあって完全に予想外だったのだろう。


「いいもなにも、レオの防具が強化されればチームの活動も色々と捗るしな」

「盾役が生き残ってくれたほうがこっちも動きやすいし」

「それにボクたちと違ってレオは攻撃を受けることが前提だしね」

「うんうん、レオさんが挑戦する、であたしも賛成! ……あたしがまたやると失敗しそうだし」

「みんな……っ!」


 仲間の賛同を得て、顔を一気に綻ばせるレオ。

 誰かが失敗を恐れて譲ったにしか思えない発言をしていたが、聞かなかったことにした。


「ただ、ひとつだけ提案だ。この前、ちょうど揃った《フェニクス》シリーズに替えないか? って、そこまで絶望したような顔するなよ」

「い、言ったはずだよ。僕はこの《エンシェント・0》シリーズが気に入ってるんだ。どれだけみんなの感性に合わなくても僕は着続けるよ!」

「いや、見た目も気に食わないのはたしかにそうだが」

「やっぱりそうなんだ!」

「ただ、それだけじゃない。セット効果、どう考えても《フェニクス》のほうがいいだろ」


 アッシュは言い終えるや、リリーナに目を向ける。と、彼女は人差し指を立てながら《フェニクス》シリーズのセット効果を説明してくれる。


「移動速度上昇、魔法耐性大幅上昇、さらに常時微量回復効果つきだね」

「オルジェは魔術師型って言ってたもんね」

「聞けば聞くほど、いまのレオにぴったりだね」


 クララとルナが素直な感想を述べた。

 レオも理解しているようで反論できず、「う、うぅ……」と唸るしかないようだった。


 アッシュはここぞとばかりにレオに肩を回し、真剣に声をかける。


「なあ、レオ。俺はみんなと一緒に100階を突破したいんだ。そのためにも、できるかぎりのことをしたい。なあ、わかってくれ」

「……アッシュくんがそこまで言うなら」

「よし、なら決定だ。いますぐに交換しにいこうぜ」

「え、あのまだはっきりとは――」

「そんじゃリリーナ、またあとでな!」


 レオの気が変わる前に、すぐさま交換屋に移動。《フェニクス》シリーズを交換し、レオに装備させて戻ってきた。


「いいね、すごく似合ってるよ」


 リリーナがレオを見るなり感嘆しつつそうこぼした。


《フェニクス》シリーズは、赤の塔10等級に出現するフェニクスを題材にしたものとあって、赤が基調となっている。そこに等級の高さを現すように黄金の意匠があちこちにあしらわれている。まさに10等級の装備として相応しい見た目だ。


「だろ。やっぱレオにはこういう鎧が似合ってるよな」

「うんうん。こっちのが断然かっこいいよ!」

「前のは……一緒に歩いてて少し恥ずかしかったしね」

「変態にも衣装って感じね」

「そ、そうかい? あはは……そこまで言われちゃうと、照れちゃうね」


 変態と言われたことは気にしていないのか、あるいはすでに受け入れているのか。いずれにせよ、仲間からの絶賛にレオは顔を思い切り綻ばせていた。


 ただ、いつまた戻したいと言いだすとも限らない。

 早々に目的の話題へと移すことにした。


「で、どこを強化するかだな。やっぱ一番重要な胴か?」

「そうだね。当たる部分も多いし、最初は胴以外にないと思う」


 早速とばかりにレオが脱いだ鎧の胴部位を手渡し、オーバーエンチャントに挑戦した結果――。


「……まさか1回目で成功するとはね」


 レオが着なおしたばかりの胴部位をぺたぺたと触りながら呆けていた。


「防具には10個目まで特殊効果はつかなかったけど、11個目もないのかな?」


 ルナがそう疑問をこぼすと、リリーナがにっと笑った。


「あるよ。たしか胴は……あらゆる魔法攻撃に対して耐性が大幅に上昇する、だね。きみのは青の属性石をはめてるから、とくに炎系に強くなるよ」

「オルジェくん対策にぴったりじゃないかっ」


 レオが目を見開きながら歓喜の声をあげた。


 聞いただけでも強力な効果だ。

 ただ、驚きよりも先にあるひとつの疑問が浮かんだ。


「さっき胴〝は〟って言ったよな? もしかして部位ごとに得られる効果が違うのか?」

「……さ、さてどうだろうね」


 リリーナが言葉を詰まらせたうえ、顔をそらした。


「思い切り動揺してるわ」

「当たりだね」


 ラピスが目を細め、ルナが苦笑しながら頷く。

 対するリリーナはしまったとばかりに顔を歪めていた。


 どうやら当たりのようだ。

 ほかの部位ごとに特殊効果が設定されているとなれば、検証のためにも挑戦するしかない。


「レオ、もう1回挑戦してみようぜ。次はどこにする?」

「それじゃあ……今度は試しに足をしてみようかな」


 遠慮がちに応じたレオが足部位をリリーナに差しだした。いつものごとくエネルギーコアを使ったオーバーエンチャントが始まり、結果を示す灯が緑色に染まった。


 足部位をレオに手渡しながら、リリーナが困惑気味に口を開く。


「一応、3回に1回程度の成功率なんだけどね……」

「今日は色々気をつけながら1日を過ごすことにするよ。反動でなにか起こらないか心配だからね」


 言いながら、レオがそばに置かれた椅子に腰を下ろしながら足部位を装着する。その顔は嬉しさ半分、戸惑い半分といった感じだ。


 そんなレオを見ながら、クララが顔を強張らせていた。


「あたし、このあとに絶対したくない……」

「逆に勢いに乗って成功するかもな」

「そ、そうかな? じゃあ、次はあたし行っちゃおうかな」


 一転して乗り気になるクララ。

 ……本当に彼女の将来が心配だ。


 ラピスが早速「効果は?」とリリーナに問いかける。


「足の11個目で得られる恩恵は《ヘイスト》が常時かけられる、だね」


 その効果を聞いた瞬間、アッシュは思わず目を見開いてしまった。

 仲間たちも同様に驚いている。


「たしかバゾッドがかけてくれた魔法だよな。運動能力が大幅に上昇するっていう」

「自分の体じゃないみたいに早く動けたんだよね。あれが常時って……や、やばくない?」

「凄まじい恩恵だね」

「僕も素早くなるのは本当に助かるよ」


 興奮するクララの言葉に、ルナとレオが感嘆しながら頷く。


「ええ、これならいけるわ」


 ラピスは手に拳を作りながら、真剣な顔でそう口にした。

 クゥリの素早さについていけなかったことを悔いていた彼女だ。対抗手段を得られる可能性があるとわかり、やる気に満ちているのだろう。


 ただ、敏捷性を求めていたのはこちらも同じだ。

 あの《ヘイスト》がかかった状態であれば、アイリス相手にもついていける。


 リリーナが困ったように笑いかけてくる。


「また来るんだね?」

「当然だろ。全員分ができるまで挑戦しにくるぜ……!」



     ◆◆◆◆◆


 リリーナに宣言してから、実際に全員分のオーバーエンチャントをした足部位を用意するまで約3ヶ月のときを要した。ただ、得られたのはそれらだけではない。


 レオの防具を全身オーバーエンチャント品とすることに成功したのだ。

 アッシュはレオの全身を目にしながら、その効果を口にする。


「脚は毒、麻痺、石化、沈黙への耐性大幅上昇。腕は属性攻撃の威力増加。盾は衝撃を大幅軽減……か。完全に要塞と化したな」

「いまならどんなレア種の攻撃だって受け止められる気がするよ」


 腕は守備的とは言えない効果だが、ほかは完全に防御寄りだ。


 上層の魔物ほど攻撃に生じる衝撃が強く、レオが受け止めた際に吹き飛ばされることが多かった。それに際して陣形が崩れ、後衛に敵の攻撃が飛んでくるといった事態に発展することもあった。それがなくなる、もしくは軽減できるのであればかなり大きな効果だ。


「でも、よくこれだけ成功させたものだね」

「といっても、223回だったかな。それだけの数を自力挑戦したからね」


 ルナがそう答えると、リリーナが呆れたように肩を竦めた。


「それで2回も成功させてるんだ。かなり運がいいほうだよ」


 この約3ヶ月の間に成功したオーバーエンチャントは6回。そのうちの2回はエネルギーコアを使わずに成功させた。挑戦回数は恐ろしいが、それでもリリーナの言うとおりかなり少ない数で成功させたとも言える。


 反面、エネルギーコアを3回使ったにもかかわらず、4回しか成功しなかった。先の2回で成功率が高かったこともあり、その反動かもしれない、と仲間内では話していた。


 と、リリーナが真剣な眼差しを向けてきた。


「そろそろまた100階に挑戦するのかい?」

「そのつもりだ」


 これからベヌスの館に向かい、100階戦への再挑戦を申し込む予定だった。前回と同じ流れだとすれば、おそらく挑戦日は3日後あたりになるだろう。


「ま、頑張ってとだけ言っておくよ」

「いいのか? 俺たちの応援をしても」

「べつに構わないさ。むしろ突破してくれたほうがいい。なにしろこんなにも面倒なことに付き合わされたんだからね。苦労が報われるってもんだよ」


 面倒なこと、とはオーバーエンチャントのことだろう。

 ただ、言葉ほどいやがっているようには見えなかった。


 リリーナに見送られる中、アッシュは仲間とともに鍛冶屋をあとにした。その後、ベヌスの館に向かい、100階戦を申し込んだところ、予想どおり3日後の早朝となった。



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