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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【機巧戦線】第ニ章

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◆第十ニ話『定められた犠牲』

 慌てて振り返ると、肌が赤い巨大なオートマトンが戦場のど真ん中に立っていた。どうやら飛空船の一隻に載っていたようで飛び降りてきたようだ。着地した地面が思い切りへこんでいる。


「マタセタナ、シンユウ!」

「ボニー!」


 バゾッドが歓喜の声をあげる。

 赤の塔96階にいた協力者ボニーだ。


「ヒュージモ、イルヨ!」


 ボニーの肩に座った格好で青色のオートマトンが手を振っている。彼もまたバゾッドの協力者の1体――ヒュージだ。


「ココハ、オレノ、デバン!」


 ボニーが軽い助走から一気に駆けだした。

 どすどすと重い足音を響かせながら向かってくる。


「うわぁ、このままじゃ踏み潰されちゃうっ」

「みんな端まで逃げろっ!」


 各々が門の前から逃げ延びた、直後。

 ボニーが勢いのまま肩から門に突進をかました。


 大砲の発射音を遥かに凌ぐ大きい衝突音が鳴り、門の中央がひしゃげるようにして破壊された。勢いあまってボニーが門の中に倒れこんでいく。


 その光景を見たルナがきょとんとしている。


「め、めちゃくちゃだ……」

「でも開いたことには変わりない! みんな、ボニーのあとに続け!」


 オートマトンの大軍や城壁の大砲をドナーズが対応ししてくれたときと同じだ。この門の破壊もボニーがいなければできない仕組みなのだろう。


 門から中を覗き込むと、ボニーがのそのそと起き上がろうとしているところだった。そばにはヒュージが転がっている。大方、ボニーの荒々しい突進で振り落とされてしまったのだろう。


 バゾッドがヒュージのもとに駆け寄り、起こすのを手伝いはじめる。


「ヒュージ、ブジカ」

「ダイジョウブ。チョット、チガ、デタダケ」

「ワタシタチ、チナンテ、デナイ」

「チョット、ニンゲンノ、マネヲ、シテミタ」

「ハッハッハ、スコシ、ニテタ」


 2体のオートマトンによる棒読みの会話。

 その現実離れしたやり取りにラピスが「……なにあれ」と怪訝な目を向けていた。


 たしかに違和感はあるが、あれが彼らにとっての交流の仕方だ。拳やミサイルを飛ばしてくるよりはよっぽどいい。


 と、左右から大量のミサイルが飛んできた。

 バゾッドとヒュージがこちらに回避し、不恰好に転がってくる。


 間一髪のところだったが、倒れたままのボニーは直撃を食らってしまっている。ただ、彼のおかげで多少の爆風が襲ってくるだけでこちらに被害はない。


「げぇっ、やっぱり中にもまだたくさんいる~……!」


 クララが嘆く中、アッシュはいま一度中を覗き込んだ。


 爆発の煙のせいでうっすらとしか見えないが、だだっ広い場所だ。特別に高い建物はない。ただ、奥に真っ直ぐ延びた左右の壁沿いの床が開くたび、新たなオートマトンが飛びだしてきている。


「クララ、ルナ! 左右に敵が出てくる穴がある! そこを潰せるか!?」

「でも、煙であんまり見えないかも……っ」

「ボクが狙った先に撃てばいい!」


 ルナがボニーの足に身を隠しながら、すかさず矢を射はじめた。1本1本丁寧な撃ち方にもかかわらず、とてつもなく早い。相変わらずの凄まじい技量だ。


 煙を射抜いて飛んでいった矢が対象に命中したのだろう。遠くで幾度も爆発音が鳴りはじめる。


「ありがと、これなら!」


 クララがルナの矢が飛んでいったほうへ《フレイムバースト》を5発ずつ撃ちはじめる。それを横目にちらりと確認したルナが声を張り上げる。


「どうせ中には敵しかいないし、もっといっちゃって大丈夫だよ!」

「それじゃっ!」


 18発ずつのとんでもない数を撃ちだした。10等級リングの効果〝魔力量軽減〟があればこその奮発具合だ。手前だけでなく、あちこちで爆発が起こり、さらに煙が濃くなっていく。


「たぶん、これで全部壊せたと思う!」


 ルナがそう叫んだとおり、こちらに飛んでくるミサイルがなくなった。


 煙が晴れると、左右の壁沿いに設けられていた穴がことごとく潰れているのを確認できた。ただ、オートマトンたちがあちこちで黒こげ状態のまま転がっている。消滅していないところからして、まだ生きているようだ。


 ただ、ゆらゆらと起き上がるさまはもう死に体だ。


「レオ、2人の護衛を頼む。ラピス!」


 ラピスに左方を任せ、アッシュは右方からオートマトンの排除に向かった。担当するオートマトンはおよそ20体。反撃にはあったが、ルナとクララによる援護もあり、難なく撃破した。ラピスのほうも少し遅れる格好で無事に処理しきったようだ。


 入口でずっと寝転がったままだったボニーがゆっくりと立ち上がっていた。あちこちに黒い焦げあとや傷が見られる。ひどい損傷なのかと思いきや、ボニーはしかと両の足で立っている。


 レオがボニーの足をさすりながら声をかける。


「ボニーくん、無事かい!?」

「オレ、カタサト、チカラハ、ダレニモマケナイ!」

「ははは、羨ましくなるほど素敵な体だね!」


 戦場に似つかわしくないレオの笑い声が響く中、空に光が迸った。ドナーズ軍の飛空船がまた敵の飛空船から放たれた光線で射抜かれたのだ。門の外の荒地に飛空船が墜落し、轟くような音が鳴る。


 残るはドナーズが乗る1隻のようだ。

 甲板に残り、勇敢に敵の飛空船に応戦しつづけている。だが、状況はあまり芳しくない。混戦状態だった地上も見たところ敵の勝利で落ちつきはじめている。


「急げ! 時間がないぞ!」


 バゾットにボニー、ヒュージを連れ、アッシュは仲間たちとともに要塞内を駆ける。ただただ真っ直ぐな道が続き、阻むように何体ものオートマトンが出現しては襲いかかってくる。


 また変わった個体も現れた。全高は人間の身長の3倍程度。細い腕や脚で箱を繋いだような形状で、胴体に当たる箇所になんとオートマトンが乗っていたのだ。


 棒状の取っ手に当てた手を忙しなく動かしていたところからして、オートマトンがオートマトンを操縦していたのだろう。


 腕から光線を出してきたり、やけに小さな粒状の弾を飛ばしてきたりとかなり厄介だったが、機動力に関しては粗末なものだったため、先制することで難なく処理できた。


 その後もほぼ足を止めることなく進み、やがて行き止まりに辿りついた。


「アソコダ。アソコニ、ハイレバ、ゼロ・マキーナノ、トコロダ!」


 バゾッドが正面を丸い手で示しながら叫んだ。

 よく見れば、中央に縦の亀裂が入っている。

 城壁の門と同じく、左右に開く形だろうか。


「イソゲ! イソゲ!」


 ヒュージがひと足先に進みだした、瞬間。

 正面の門前の床が開き、中から1体のオートマトンがせり上がってきた。形状こそ通常の個体と同じだが、なにより違う点がひとつだけあった。


「……ここにきて規格外な奴が出てきたな」

「こんなのって……」


 隣に立つラピスが顔を強張らせながら、口にしようとした言葉を呑み込む。


 立ちふさがったオートマトンはとてつもなく大きかったのだ。ボニーの2倍近くはあるかもしれない。その圧に意気揚々と進んだヒュージも逃げ帰ってきている。


「オレヨリ、デカイヤツ、ハジメテミタ。ココハ、オレニ、マカセロ」


 ボニーがゆっくりと2歩ほど前に出た。

 言葉に抑揚はほとんどないが、意を決したように感じられた。

 ヒュージもまた前に出てボニーのそばに立つ。


「ボクモ、ノコル。アレ、ゼッタイ、ツヨイ」

「ダメダ」


 言い聞かせるようにそう発すると、ボニーは続けて言う。


「バゾッドヲ、タノンダゾ」


 敵の超巨大オートマトンがこちらに向かって突進してきた。

 ボニーも応じて駆けだした。まるで人間が雄叫びをあげるかのように叫びながら勢いよく敵に上半身をぶつけにいく。


 互角か。だが、やはり体格的にも敵に分があるようだ。ボニーがずるずると押し戻されている。


「イケ!」


 それはボニーから苦しげに発せられた。

 ヒュージとバゾッドが切なげに「ボニー……」と声をもらす。そんな〝ココロ〟のあるオートマトンたちを見て、クララが悲しげな顔をしていた。


「これって、たぶん決められた攻略法だよね」

「ああ。とはいえ、くるものがあるな」


 わかってはいるが、やはり誰かを犠牲にするのはあまり気持ちのいいことではない。ただ、だからといっていまは正規と思しき流れに逆らえるほどの余裕はなかった。


「先を急ぐぞ!」


 アッシュは必要以上に力を込めて叫び、先頭を切って走りだした。



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
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