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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【機巧戦線】第ニ章

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◆第四話『野営地までの道のり』

 穴の先はこれまでよりも天井が低かった。


 またより多くの泉が配され、そばには青色の結晶が群生していた。人間の腰程度の太さを持った柱が根元から連なった形状で、1本の高さは様々。ただ、高い柱でも人間の身長よりは低いものが大半だ。


 クリスタルドラゴンの棲家に至る道としては、これ以上ないほど相応しい光景と言えるだろう。


 と、結晶が群生する一部分の地面が隆起しはじめた。

 地中から姿を見せた竜によって持ち上げられたのだ。


 形状は地竜型とほぼ同じだが、その外殻は多くの結晶で覆われている。この隠し通路に入ってから現れたはじめた、特有の魔物だ。


 眼前の竜――結晶地竜が前足を振るい、外殻についていた結晶を飛ばしてきた。全員が散開し、回避する。と、今度は大口を開けて結晶を混ぜた水のブレスをなぎ払うように吐いてくる。


 魔術師組の《ストーンウォール》が敵との間に何枚も並べられ、結晶のブレスが遮断される。凄まじい数の結晶が混入していたことがわかるほど、鈍い連打音が聞こえてきた。


 結晶のブレスが止んだのを機に、先頭にいたレオが距離を詰め、結晶地竜に剣で斬りかかる。が、甲高い音を鳴らすだけで大きく弾かれてしまう。反撃とばかりに結晶地竜から繰りだされた前足をレオが盾で難なく受け止める。


「相変わらずの硬さだねっ」

「ハンマーなら破壊可能だよっ」


 レオと入れ替わる格好で前に出たドーリエが、ハンマーを結晶地竜の後ろ足に叩きつけた。外殻を覆う結晶を砕くだけでなく、その先の外皮まで徹す強烈な一撃だ。


 腹に響くような衝撃音が鳴り、結晶地竜が体勢を崩した。さらに横回転したドーリエが敵の横腹に一撃を加え、吹っ飛ばしてしまう。


「相変わらず厳ついな」

「うちのドーリエは力だけなら誰にも負けないからね」


 アッシュはヴァネッサとともに駆けだし、結晶地竜に肉迫。結晶が砕け、あらわになった外皮目がけて剣を突き刺した。いまだ立ち上がろうとしていたが、最後にラピスが悠々と頭部を貫いた一撃で消滅をはじめる。


「こんなに長い隠し通路、初めてだよ……」


 クララが疲れたように息を吐いた。

 行く手を阻む敵は硬いだけでそれほど脅威ではない。ただ、すでにかなりの距離を進んでいることもあり、単純に疲労が溜まっていた。


「わたしが知る限り、この隠し通路が間違いなく最長だ」

「だろうね。僕もこんなの見たことがないよ」


 シビラの言葉に、レオが肩を竦めながら応じた。


「みなさん、野営地点まであと少しですから頑張りましょう。ほら、あそこに見える横穴がそうですよ」


 リトリィが指差した先、壁の少し高いところに横穴が開いていた。結晶地竜が絶妙によじ登れなさそうな高さだ。たしかにあそこに魔物がいないなら安全地帯となりえるだろう。


 その後、辺りの安全を確保してから横穴に入った。

 中は地竜が2体入れる程度の大きさで泉も結晶もない。気になるのはわずかに気温が低いことぐらいだが、支障をきたすほどではない。


 全員が疲労困憊といった様子であちこちに腰を下ろす。


「付き合ってもらって悪いな」


 アッシュは向かいに座ったヴァネッサ・シビラチームの面々にそう言った。


 まさかここまで長いとは思ってもみなかった。ほかのレア種の居場所を教える、という対価を支払ったが、彼女たちからしてみれば割りに合わないことをしているのは間違いない。


 だが、彼女たちはいやな顔ひとつしなかった。

 それどころか嬉しそうな顔をしているぐらいだ。


「気にする必要はない。理解したうえで我々も話を持ちかけたのだからな」

「それにここは入り組んでるからね。案内なしじゃ行き止まりばかりで面倒だよ」

「ほんと助かる」

「そもそも困っている夫を助けるのは妻として当然のことですからっ」


 自身の胸に右手を当てながら誇らしげに言うオルヴィ。

 そんな彼女にリトリィが目を細めた目を向ける。


「夫ってまだ言ってるんですか? 結婚もしてないのに」

「お父様のお許しはいただいているのですから、もう夫婦も同然ですっ」


 まるで堪えた様子のないオルヴィを前に、リトリィがもどかしそうにしていた。ちらりとシビラのほうを見やったのち、対抗しはじめる。


「でしたら、シビラさんもすでにアッシュさんの妻ということになりますよね」

「リ、リトリィッ! そこで張り合わなくてもっ」

「ダメですよ、シビラさん。こういうときははっきりと意思を示しておかないと」

「だからといってこんな大勢の前ですることはないだろうっ」


 決意に満ちた顔のリトリィに、顔を真っ赤にしながら抗議するシビラ。疲れ果てた挑戦者たちとはとても思えないその明るい空気に当てられてか、ルナが楽しそうに笑みをこぼしていた。


「ほんと賑やかだね」

「こんな人数で野営まで挟むなんて初めてだからな。なんか新鮮な気分だ」

「これでエールがあれば最高の宴になったんだけどね」


 そばでレオがくいとカップをあおるしぐさを見せた。

 ヴァネッサが意地の悪い笑みを浮かべながらレオに提案する。


「いまからひとりで酒樽を持ってきてくれてもいいんだよ」

「さ、さすがにひとりは無理だよ」

「いまのあんたなら突っ走ればいけるだろう」

「たしかに、いまの僕なら……」

「ヴァネッサも冗談で言ってるからな。本気にするなよ」


 本気で行きかねない気がしたのでさすがに釘を刺しておいた。「そ、そうなのかい?」とレオが驚いた顔でヴァネッサに問いかける。と、目をそらされていた。どうやら半分……それ以上は本気だったようだ。


「リフトゲートみたいに簡単に戻ってこられる魔法があればいいのになぁ。そしたら野営とかしなくてすむのに」

「そんなものがあったらなによりも先に入手すべきね」


 クララの願望にラピスが真っ先に食いついた。

 野営が大嫌いな彼女にとって至高の魔法だったらしい。


 リトリィが眉根を下げながら会話に入ってくる。


「さすがにそこまでとなると、想像もつきませんね。もちろん、あったらすごく便利だと思いますけど」

「だよね~」


 現実を突きつけられたクララがしょんぼりと肩を落とす。


 たしかに想像もつかない魔法だが、〝あってもおかしくない〟と思えるほどに神アイティエルのとんでもない力を目の当たりにしている。


 とはいえ、100階近くまで到達したいまでもそういった魔法には出会っていない状況だ。期待の大きさとは裏腹に望みはかなり薄そうだ。


 シビラがふぅと静かに息を吐いたのち、自身の長い脚を揉みほぐしはじめる。


「もう少し休んだら野営の準備をしないとな」

「あとは見張りの組み合わせと順番決めも、ですね」


 リトリィが何気なくそう口にした直後。


 一瞬にしてのほほんとした空気が殺伐としたものとなった。なにやら多くのものが視線をぶつけ合っている。……さすがに原因が自身にあると気づかないほど鈍感ではない。


 アッシュはレオの肩に手を置きながら宣言する。


「俺はレオと組むぜ」

「「なっ」」


 女性陣が驚愕の声をあげる中、ひとりレオだけがきょとんとしていた。ただ、指名されたことをようやく呑み込めたのか、これ以上ないほど顔をほころばせていた。


「う、うん、よろしくだよ、アッシュくん!」



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