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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【機巧戦線】第一章

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◆第十八話『立ちはだかる小さな壁』

 緑の塔から帰還し、真っ先に向かったのは鍛冶屋だ。

 目的はもちろん、入手したばかりの《メテオストライク》の装着だ。すでに受付の向こう側では鍛冶屋のミルマ――リリーナによる装着作業が始まっている。


「でも良かったの? 残り1個だったのに」


 クララが申し訳なさそうにこぼした。

 10等級の武器交換石について言っているのだ。


「良いもなにも全員に行き渡ってるからな。あとはクララの魔法用だろ」


 10等級の交換石はほかの等級に比べて圧倒的に出にくい。それでも長く滞在していたことや、豊富なクエストを利用したこともあり、合計で10個入手している。


 全員が1個ずつで残り5個。それらは今回、《メテオストライク》で使ったものも含め、すべてがクララのものとなっている。


 装着した魔法の内訳は《ヒール》、《サンクチュアリ》、《ストーンウォール》。そこにバースト系を攻略する塔に合わせて入れ替えている形だ。


「でも、前みたいにスティレットとかソードブレイカーとか持たないのかなって」

「余れば使うかもしれないが、それでもやっぱクララの魔法より優先度は低い」

「補助系の魔法も10等級にして損はないものね」


 そう言ったラピスに、レオが頷きながら続ける。


「《プロテクション》と《マジックシールド》がなかったら今頃、僕はここにいないよ」

「ボクも《インテュイション》、《アキュレイト》がないと10等級は厳しいかな」


 補助魔法がない状態を想像したのか、ルナがまなじりを下げながら言った。


 物理攻撃軽減の《プロテクション》に魔法攻撃軽減の《マジックシールド》。そして直観力上昇の《インテュション》と、攻撃精度上昇の《アキュレイト》。


 どれも変化が地味なので忘れがちだが、戦闘で大きな恩恵をもたらしてくれている。


 これまでぎりぎりで突破した試練の間は少なくない。そうしたところでもし補助魔法がなければと思うと、ぞっとする。


「ってことだ。クララの魔法は全員のためになる。だから気にするな」

「う、うん」


 クララが遠慮がちに頷く。

 昔も同じことで遠慮していたことがあったが、今回はとくに出にくい10等級の武器交換石とあって余計に気にしてしまったのだろう。


「早く試しうちしたいなぁ」


 クララが鍛冶場のほうに視線を戻したのち、そう呟いた。


 すでに装着用の腕輪は窯に入れられている。

 あとは待つのみだ。


 窯の上部に取りつけられた管からもれる煙が換気口から外に流れていく中、ラピスがさらりと口にする。


「いつもみたいにそこの変態相手に使ってみたら?」

「いいのっ!?」

「よくないよ!」


 歓喜まじりに驚きの顔をするクララに、レオが即座に返した。慌てて――というよりも必死になって喋りはじめる。


「《グラビティ》ならまだしも、あの《メテオストライク》だよ!? シヴァのを何度も見てはいるけど、あれをまともに受けるのは……」


 レオも《メテオストライク》の直撃を受けたことはない。最初の大きな巨岩が地面に激突し、散った破片を受けるぐらいだ。それでも人の何倍もある大きさなため、相当な威力を持っているが。


 アッシュは冗談まじりに言う。


「じゃあ訓練ってことでどうだ?」

「せ、せめて日常だけは穏やかに暮らしたいよ……」


 そうしてレオが恐怖に顔を歪める中、リリーナが窯を開けていた。取りだされた腕輪が受付台に置かれる。穴にはしっかりと《メテオストライク》と緑の属性石9個が埋め込まれている。


「相変わらずやかましい奴らだな。ほら、できたぞ」


 クララが腕輪を受け取ると、早速右腕に装着した。

 初の10等級魔法を入手した喜びからか、興奮したように目を輝かせている。


「ありがとう、リリーナさんっ」


 そうクララが満面の笑みで礼を口にした、直後。


 リリーナが慌てて鍛冶屋の入口を確認。誰もいないと知ってほっと息をつくやいなや、眉を吊り上げながら受付台に身を乗りだしてくる。


「その名前で呼ぶなって言っただろっ」

「えぇ、せっかく可愛い名前なのに……」


 心底残念そうにクララが眉尻を下げる。

 その無垢な顔には、さすがのリリーナも「うぐ」とたじろいでいた。


「よ、用は済んだだろ。さっさと出てけっ」


 先ほどよりも言葉に力が感じられない。

 アッシュは仲間と顔を見合わせ、こっそり笑いつつ鍛冶屋をあとにした。


 通りに出たときには、すでに空から赤味が薄れていた。


 黒ずみはじめた空気に滲む黄金色の灯。

 塔から帰還した挑戦者で溢れはじめる通り。

 中央広場が夜の景色へと移り変わろうとしている。


 本日は外食で場所も《プルクーラ》と決まっている。厳しい戦闘のあととあって、腹も早く肉を入れてくれといまにも鳴きだしそうだが、その前にするべきことがあった。


 アッシュは北側通りの委託販売所を見つめる。


「さて、問題の硬度強化石を見にいくとするか」



     ◆◆◆◆◆


 アッシュは委託販売所から出てくるなり、呆れ気味に息をついた。

 こちらの顔を見たルナが困り気味に言う。


「ダメだったみたいだね」

「ああ。それも昨日より悪化して最低額が3万5千ジュリーだ」


 売りだされているのは29個とかなり多い。

 にもかかわらず、すべてが以前の相場をはるかに超える価格設定だった。これでも買えなくはないが、やはり元の相場を知っている分、手を出しにくいのが本音だ。


 クララがほんのわずかに顔を引きつらせながら訊いてくる。


「やっぱりそれって……」

「ああ、間違いなくいまも後ろでニヤニヤしてる奴のせいだな」


 肩越しに振り返り、さらに視線を下向ける。

 と、そこにキノッツが立っていた。


 見計らったように委託販売所から一緒に出てきたのだ。

 彼女は得意気な顔で悠々と横に移動し、姿をさらした。


 途端、ラピスが槍の石突をドンッと石畳に打ちつけた。その無言の威嚇にキノッツがびくりと体を震わせ、こちらの背後に身を隠す。


「お、脅しても無駄だよっ」

「ラピス、やめてやれ」


 渋々ではあるが、体から力をわずかに抜いてくれた。

 ただ、キノッツに向けた目は鋭いままだ。


「……わたしがしなくても、いつか誰かに刺されそうだけど」

「そうならないための《アルビオン》さ」


 キノッツは自分の身を守るために、《アルビオン》に入ったのだろう。逆に同ギルドのマスターであるシビラは、なにかと面倒事を起こすキノッツを《アルビオン》に入れることで制御したかったのだろう。


 結果としてシビラの目論見は失敗だ。

 制御できずキノッツに好き勝手されている。


「さて、どうするんだい。こっちはいつでも、いくつでも売れるよ」

「あのぼったくり価格でだろ」

「ぼったくり? なにを言ってるんだ。委託販売所の価格が相場そのものだよ」


 価格設定を自由にいじれる自分こそが相場だ。

 そう言わんばかりの勝ち気な顔を向けてくる。


 クリスタルドラゴンの討伐が終われば、バゾッドの依頼はエネルギーコアの製作のみとなる。急ぐ必要はないとはいえ、トントン拍子で目的を達成して勢いに乗っている状態だ。そこで足止めを食らうのはやはり気分的にも避けたい。


 とはいえ、やはりここでキノッツの話に乗るのは癪だ。

 どうしたものか、と悩んでいた、そのときだった。


「あ、いたいた! アッシュく~ん」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
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