◆第十六話『鉄と砲弾の雨』
腹の底まで響く音が鳴った。
確認せずともわかる。
飛空船から大砲が発射されたのだ。
「逃げろっ!」
アッシュはドナーズの腕を掴み、引きずる格好で全力疾走する。が、まともに地を蹴られたのは3度。あとはただ前方に飛び込むしかできなかった。
後方で轟音が響いたと同時、地面が上下に大きく揺れた。わずかに遅れて凄まじい突風が全身を叩いてくる。大砲の弾が落ちたのだろう。前髪が荒れ狂う中、振り返る。と、先ほどまでいた箇所が広範囲に渡って黒こげになっていた。
先ほど飛び込む際に一瞬垣間見えたが、10等級の《フレイムバースト》を上回る威力だった。当たれば防具ごと肉体を破壊されるかもしれない。
「みんな、無事かい!?」
レオの問いかけに仲間たちが声をあげる。
どうやら全員、回避に成功したようだ。
「こっちも問題ない! ドナーズも元気に煙を出してるぜ!」
「コショウチュウ、コショウチュウ!」
「すぐに合流――」
しよう、と言おうとした、瞬間。
あちこちから追撃の砲弾が飛んできた。
通常のオートマトンたちから放たれたものだが、その数は30を超えている。さらに後ろからも同様に放物線を描いて多くの砲弾が向かってきている。
「ちぃっ」
アッシュは舌打ちしつつ、またもドナーズを引きずって駆けた。近くの四角い建造物を盾にする格好で逃げ込む。と、建造物に命中した砲弾たちが爆発しはじめた。
脳を揺さぶられているような感覚に思わず顔を歪めてしまう。さらに休む間もなく砲弾が建造物に当てられ、爆発が起こりつづける。まるで途切れる気配がない。
「ハッケン、ハッケン!」
「シンニュウシャ、コロセ!」
この砲弾の中、合流するのは自殺行為に等しい。
隙を見て顔を覗かせ、周囲の様子を確認する。
どうやら仲間たちも建造物の陰に隠れて爆風をしのいでいるようだ。
「戦うしかないよっ」
ルナが切羽詰った声で提案してくる。
警報音とでも言うべきか。
発見された瞬間からけたたましい音が鳴り響いている。
おかげで大声で叫ばなければ互いの声が届かない状況だ。
「でも、あとで仲間になってくれるんでしょ!?」
「こっちが死んだら元も子もないわっ」
困惑するクララに、ラピスが即座にそう返す。
どちらの意見も重要だ。
ここは間をとるほかない。
「この際、多少傷つけるのはしかたない!」
「コワレテモ、ナオセバイイ。ワタシタチ、シュウリ、トクイ」
「多少どころか思い切りやって大丈夫らしいぞ!」
「ア、アマリ、ヤリスギハ――」
ドナーズから戸惑いの声があがる中、前衛組が物陰から一斉に飛びだした。
オートマトンが首か胴体を破壊すれば消滅することは、これまでの戦闘でいやというほど理解している。アッシュは近くまで来ていたオートマトンたちの両手足を切断し、消滅させずに戦闘不能へと追いやった。
ほかの場所でもラピスとレオも同様の手法でオートマトンに対応している。
ルナはそこかしこに散在する建造物を上手く使って砲弾をやり過ごしながら、最小限の動きでオートマトンたちの動きを封じていた。クララは飛空船の大砲から放たれる弾と、いまも宙を飛び交う砲弾の迎撃を担当してくれている。
なんとかまともに動き回れる程度にはなったが、以降はまるで好転する気配がない。と、新たに現れた飛空船から大量のオートマトンが降下しているのが見えた。どうやらオートマトン側にはまだまだ増援を送る余裕があるようだ。
「このままだとジリ貧だな……!」
「ワタシガ、ミナヲ、ヒキツケル。ソノスキニ、コントロールタワーヲ、ハカイ、シテクレ」
そう発言しつつ、ドナーズが壊れた車輪を胴体に収納。足場に自らの体を固定し、頭頂部をぱかっと開けると、そこからナニカを発射した。
ひゅるひゅると間抜けな音をたてながらそれは空高く舞い上がり、弾けるように四散。夜空に緑の花を描いた。
すぐに消えてしまったが、思惑どおり注目を集めることには成功したようだ。多くのオートマトンたちがドナーズに向いている。ただ、彼は大きな問題を忘れている。
「って、そんな状態で引きつけてどうする!?」
「ドウニカ、ナル」
「元気が出る返事をありがとなっ」
そう嫌味を放ちつつ、接近してきたオートマトンを撃退する。が、そばにいるドナーズが注意を引きつけたこともあって次々に新手が襲ってきた。
そのうちの1体がそばを駆け抜け、ドナーズに接近し、拳を突きだす。が、それがドナーズに触れることはなかった。レオが横合いから突進をかまし、オートマトンを吹っ飛ばしたのだ。
レオがドナーズの前に立ちはだかりながら叫ぶ。
「僕は残るよ! このままだと彼が破壊されかねない!」
「たしかにクエストの主旨的にドナーズがやられるのはまずい! 頼む!」
ただ、戦力的にレオだけで守りきるのは難しい。
そう考えたとき、ドナーズを囲むように多くの《ストーンウォール》が生成された。さらに飛んできた砲弾が爆発矢によって撃ち落とされる。
「あたしも残る! っていうか、ついていけない気がするし!」
「ボクは駆け回って敵をかく乱しつつ、みんなの援護をするよ!」
クララはテレポートでドナーズのそばまで移動してくると、追加で《ストーンウォール》を生成し、防衛を強化。ルナは周辺の建造物の上を目まぐるしく移動しながら、矢を射つづける。
厳しい戦いになることは間違いないだろう。
だが、3人なら必ずドナーズを守りきってくれるはずだ。
「ってことだ、ラピス! 2人でアレを破壊するぞ!」
「ええ! ついていくわ!」
アッシュはラピスとともにコントロールタワーを目指して駆けだした。多くのオートマトンがドナーズに集中しているとはいえ、すべての視線から逃れることはできない。気づいたオートマトンたちが四方八方から襲いくる。
「ニガスナ、コロセ」
「こっちもやられるわけにはいかないからな! 恨むなよ!」
接近した個体から順に四肢を切断し、戦闘不能に追いやっていく。ときおり飛んでくるオートマトンの拳や砲弾は基本的に属性攻撃を放って迎撃。それが難しければラピスと状況を伝え合って回避する。
いっさい足を止めずにアッシュはラピスと頻繁に位置を変え、互いの隙を消していた。幾度も互いの肌のそばを裂くような軌道で得物を振り回しているが、躊躇はいっさいしない。なぜなら当たる気がまるでないからだ。
ともに敏捷性に傾けた戦闘スタイルなこともあり、ラピスとはチームの中でも一緒に行動する機会が多い。そのうえ感覚的な面でも近いものを持っているからか、戦い方をほぼ完璧に共有できていた。
以降もこれ以上ない連携をもって敵の包囲網を突破。そのまま一直線に駆け抜け、ついにコントロールタワーの近くまで辿りついた。途端、アッシュはラピスとともに目を瞬いてしまう。
「な、なにあれ」
「……またおかしなのが現れたな」
前方に現れたのは3体のオートマトン。だが、どれもがその身を覆うほどの大きな盾を構え、死角を隠すように背中を合わせていたのだ。
「ココデ、クイトメル」
正面のオートマトンが構えた盾の中心部に穴が開くと、そこから拳が飛んできた。さらに3体分の砲弾が発射され、弧を描きながら向かってくる。
おかしな外見に驚かされたが、攻撃はほかのオートマトンとあまり変わらない。
アッシュは属性攻撃を素早く何度も放ち、幾つかの砲弾を迎撃する。その間にラピスが相手の拳を躱しつつ前へ出て、3体の縦型オートマトンに肉迫。正面の盾に穂先をぶつける。
が、ガンッと音が鳴るだけで押しやることもできずに弾かれてしまった。
「硬いっ」
「時間がない! ここで使う!」
ラピスの槍が通用しなかったのを見て、アッシュは即座に判断した。剣を右後ろに流しながら敵に接近する。





