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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【悪鬼螺旋】第一章

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◆第十二話『空中通路攻略』

 夜空に輝く星々が見えなくなった。

 星が光を失ったわけでも、ましてや朝が訪れたわけでもない。


 空を覆うほどの巨大な鳥──ジズが現れたのだ。


「くるぞ!」


 緑の塔91階の空中通路に挑戦し、敗走してから15日後。


 いま一度この場所に戻ってきていた。

 アッシュは振り返り、続けて叫ぶ。


「クララ、頼む!」

「任せて!」


 彼女が左手を突きだしたのとほぼ同時、ジズが上空を通過。数瞬後に強烈な風が右手側から襲ってきた。支えなしにその場に留まるなんてことはとうていできない風だ。


 脳が揺れるほどの衝撃に見舞われ、軽々と身体が飛ばされる。が、すぐさま勢いが止まった。クララによって生成されたストーンウォールが阻んでくれたのだ。


 通路の先ではまともに風を受けた球形型オートマトンが次々に通路から投げだされていた。なにもできずに潰えたからか、まるで抗議でもするかのように空中で自爆している。


 突風が押し寄せてくる時間は長いようで短い。

 ただ、完全に収まる前からルナの切羽詰まった声が飛んできた。


「みんな、早めに動いて! 雷撃くるよ!」


 そばにそびえる柱の先端が光を膨張させていた。


 忘れてはいなかったが、激しい状況の変化に対応せんと常に頭を全力で回転させているところだ。何度も注意を促してくれるのはありがたかった。


 アッシュは突風の勢いに負けじと頭から飛び、床を転がった。直後、強烈な炸裂音が背後から聞こえてきた。


 相変わらずの痛々しい音だ。

 叶うなら一度足りとも当たりたくはない。


 風が止んだ中、辺りを見回す。

 どうやら仲間たちもなんとかやり過ごしたようだ。

 身体能力に不安のあるクララも安定の《テレポート》で躱しきったらしい。


 ただ、その安堵よりもいまだ《ストーンウォール》が屹立したままなことへの喜びのほうが大きかったようだ。ぱぁっと笑みを弾けさせる。


「壊れなかった!」

「ああ、10等級にした甲斐があったな!」


 今回、この通路に再挑戦したのも武器交換石をクエストで新たに入手。クララの《ストーンウォール》を10等級リングにはめて最大強化をしたからだった。


「アッシュくん、人形3くるよ!」


 最前線に立つレオが叫んだ。

 ジズの突風攻略に歓喜する暇はないらしい。

 通路の先に通常型オートマトン3体が現れていた。


「前衛で1ずつ持つぞ! クララはレオを、ルナはラピスの援護頼む!」


 中央をレオ、右側をラピスに任せ、アッシュは左側のオートマトンへと駆ける。


 敵ががしゃんがしゃんと音を響かせながら進めていた足を揃って止め、両拳を突きだしてきた。おそらく拳を放とうとしているのだ。


 頑丈すぎて破壊が困難なうえ、標的を追尾する機能を持っている。オートマトンが有する攻撃の中でもとくに強力なものだ。


 それが3体から同時に放たれようとしている。

 このままでは被害はまぬがれないが──。


「ラピス、アッシュ! 避けて!」


 後方から聞こえた声に応じて、ラピスともどもアッシュは横へと身を投げた。直後、先ほどまで立っていた空間を一本の矢が凄まじい勢いで翔け抜けていった。


 赤の属性矢でありながら緑の風を伴ったそれは、まさしくルナの《レイジングアロー》だ。


 どうやら即座に2発、放ったらしい。

 右側のオートマトンに命中後、わずかな間を置いて左側のオートマトンにも命中。爆発を起こし、およそ矢とは思えない重い音を響かせた。


 オートマトンは少なくない損傷を受けたようでよろめいている。仕留めるには至らなかったが、拳の発射は止められた。充分すぎる成果だ。


 ルナの思い切りのいい判断に感謝しつつ、アッシュは正面のオートマトンに接近。交戦を開始する。


 最中、視界の右端で2つの拳を盾で受け止めているレオが映った。


《レイジングアロー》は体力を消耗するため、戦闘に支障のない範囲で使うには1度に2発が限界だ。そうした経緯もあり、唯一単独で拳を受け止められるレオには援護射撃をしなかったのだろう。


 ルナがラピスの援護をしつつ、叫ぶ。


「レオ、ごめん!」

「だいっ、じょぉぉうぶっ! なんたって僕にはこれがあるからねっ」


 レオが背中──というより尻付近から光を噴射。一気に前へと前進し、拳ごとオートマトンに体当たりをかました。外見こそ最悪だが、なかなかどうしてレオにはぴったりの防具のようだ。


「顔きたぁっ!」


 クララの声に釣られて視線をわずかに上向ける。

 と、そこには馴染みのあるトールの顔が出現していた。ようやくオートマトンに対して攻勢に出たというのに、本当に息つく暇もない階層だ。


「クララ、先にトールやるよ!」

「りょーかいっ!」


 指示するまでもなく、トールを最優先で処理しはじめる後衛組。その最中にアッシュはオートマトンの四肢を切断して排除。最後に串刺しにし、爆発する前に空中通路から放り投げた。


 落ちたオートマトンが自爆し、轟音を響かせる中、アッシュはすぐさま首を振って仲間たちの様子を確認する。


 後衛組によるトールの迎撃は完了。ラピスもちょうどいまオートマトンを空中通路から放り投げたところだ。レオはいまだ交戦中――。


「クララ、ルナ! レオの援護は一旦置いて前に詰めろ! 後ろ湧くぞ! ラピス、レオのをやるぞ!」

「了解!」


 アッシュはラピスと交差する形でレオが対峙するオートマトンを排除し、駆け抜けた。レオが盾で思い切り弾き飛ばし、離れたところでオートマトンが自爆する。


 爆風が押し寄せる中、クララとルナが合流する。


「このまま一気に進むぞ!」


 これまでの階層の敵と比べても攻撃手段が多彩なうえ、規模や威力も段違い。しかも種類が豊富で同じ構成で現れることが少ない。臨機応変に対処することをこれまで以上に求められていた。


 身体的だけでなく精神的にも窮屈な感覚に見舞われながらも少しずつ、ときには豪快に前進していく。どれだけの敵を倒しただろうか。そんな疑問が浮かぶほど進んだとき、それは見えてきた。


「アッシュ、奥のあれ!」

「ああ、おそらく転移門だ!」


 ラピスに促され、目を向けた通路の先。

 虹色の光膜を張った門が鎮座していた。


 前方を阻んでいるのはオートマトン1体のみ。

 あれを排除すればようやく塔内を突破できる。


「後ろ、シヴァ3体! もう目が開いてる!」

「ここにきて背後かよッ!」


 ルナの報告を受け、アッシュはすぐさま振り返る。

 と、報告どおりすでに《メテオストライク》の発動状態に入ったシヴァが3体映り込んだ。


 シヴァに遠距離攻撃を単独で当てるのは非常に難しい。ゆえに《メテオストライク》を止めるには誰かが接近し、気を引くか。あるいは直接攻撃をしかけるしかないが――。


 戻れば湧きなおした敵ともう1度戦うことになる。そもそも転移門前に達した瞬間、見計らったように現れた3体のシヴァだ。また同じように転移門前にきたとき、湧く可能性は充分にある。


「鳥もきてるよっ」


 追い討ちをかけるようなクララの報告で腹が決まった。いや、もとより現状でとれる選択肢はひとつしかなかった。アッシュは声を張り上げる。


「転移門に突っ込むぞ! 走れッ!」


 アッシュは自ら先頭を突っ切り、先を阻んでいたオートマトンに接近。ちょうど溜まっていた《ソードオブブレイブ》で腹を横薙ぎに切断した。不快音を鳴らしてオートマトンが早速爆発しようとする。


 駆け抜けて離れはしたが、距離が近い。多少の損傷は覚悟していたが、心配は必要なくなった。クララが生成した《ストーンウォール》でオートマトンの残骸を跳ね上げたのだ。


 上空で爆発が起こり、黒煙が巻き起こる。

 最中、《テレポート》で前進中のクララがほっとした様子でそばに現れた。


「間に合ってよかったぁっ」

「助かったぜ、クララ!」


 礼を言ったところ、彼女は得意気な顔でピースを返してきた。10等級階層にきて彼女の対応力もぐんと上がっている。もう《青塔の自縛霊》なんて言われていた頃の面影はどこにもない。


 ただ、いまは彼女の成長を喜んでいる暇はなかった。


 すでに上空には3つの魔法陣からそれぞれ《メテオストライク》が顔を出していた。ごごご、と骨まで響くような重い音を鳴らしながら、触れるものすべてを呑み込まんとばかりに頭上から迫ってくる。


 ひとつだけでも相当な大きさだというのに、それが3つ並んでいる状態。もはや世界の終わりを連想してしまうほどの迫力だ。


 ただ、あとは走るのみ。

 このまま順調にいけば逃げ切れるはずだ。

 そう思ったとき、すっと前方に1体のシヴァが現れた。


 シヴァ1体なら問題はないが、一瞬で倒すのは難しい相手だ。時間にいっさい余裕がないいま、もっとも相手にしたくない相手だった。


 これは《ソードオブブレイブ》を残しておくべきだったか。いや、あのとき使ったことで時間の短縮に繋がったのは間違いなかった。そもそも準備が整ってから発動するまでに時間制限のある血統技術だ。いまのシヴァ相手に放つ前にはすでに効力を失っていた。


 アッシュは意味のない後悔を交えた逡巡を経て、シヴァと肉迫。三叉槍と撃ち合いを開始する。と、すぐそばからばちばちと炸裂音が聞こえてきた。


「アッシュ、あとはお願いっ」


 ラピスが一気に加速して黄金色の光を纏った槍を繰りだした。彼女の血統技術、《限界突破》だ。とっさに割り込んできたシヴァの三叉槍を豪快に粉砕。その弱点である首を貫き、四散させた。


 勢いのままラピスが駆け抜け、少し離れたところで倒れ込んだ。圧倒的な攻撃力を誇る彼女の《限界突破》だが、使用後は体力のほとんどを失ってしまう。ゆえに、先ほど彼女が告げた〝お願い〟とは使用後の補助のことだった。


 アッシュはすぐさま彼女のもとに駆け寄り、掬うようにして抱きかかえた。止まらずに駆けつづけ、顔を上げた、そのとき。


 転移門の両側から自爆型オートマトンが1体ずつ現れた。ころころと勢いよく転がってくるが、ルナがすぐさま《レイジングアロー》を当て、その場で爆発させた。さすがの反応だ。


「ついたら飛び込め! 後ろは気にするな!」


 転移門が黒煙で覆われる中、まずはもっとも先に到着したクララが《テレポート》を使いつつ、転移門へと入っていった。続いてルナが駆け込んでいく。


 アッシュは転移門前で振り返る。

 もうすぐそばまで《メテオストライク》が迫っていた。


 空中通路から溢れるほどの範囲だ。

 落ちればまず逃げ場はなく、押し潰される未来しかない。


「レオ、急げ!」

「あと少し……あと少しでまた使えるように……!」


 もう時間がない。

 はやる気持ちが爆発しそうになった、そのとき。

 レオの背後から光がシュッと音をたてて噴射した。


「きたぁああっ!」


 レオが歓喜の声をあげたのを機に身体を浮かせた。かと思うや、なにかに弾かれたように一気に加速する。どうやら《エンシェント0》シリーズの特徴でもある《ロケット噴射》を再発動させたようだ。


 その外見には顔をしかめるしかないし、性能にも多くの疑問は残る。だが、いまこのときだけは最高の防具と認めざるをえなかった。


 ともあれ、もう心配はない。


 上空が巨岩で埋めつくされた中、アッシュは不恰好な体勢で突っ込んでくるレオを置いて一足先に転移門の中へと飛び込んだ。



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
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