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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【悪鬼螺旋】第一章

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◆第六話『新型オートマトン』

 階段を上がった先に待っていたのは直線の幅広通路だ。


 両側に手すりなんてものはない。

 地表より遥か上空に位置する場所とあって落ちれば間違いなく命は潰えるだろう。ただ、本当の脅威は通路内に潜んでいた。


 アッシュは顔を強張らせながら、その脅威を見つめる。


「見るからにやばそうだな、あれ」


 通路の両端に等間隔で並べられた高い柱。

 その先端で青白い光がバチバチと炸裂音を鳴らしていた。


「少し様子を見てみるよ」


 言うやいなや、レオが一歩踏み出した。

 直後、両側手前の柱の先端から一筋の光が迸った。


 レオが慌てて後退する。と、先ほどまで立っていた足場に命中。バシンッと鞭打つような音を響かせた。


「これは……当たったらかなりまずそうだね」


 足場に焦げあとは残っていない。

 だが、音からして相当な威力を秘めていることは間違いなかった。


 下がったレオと入れ替わる格好でアッシュはすぐさま通路に立つ。次の雷撃が放たれるまでの時間を計測するためだ。隣からルナのカウントが聞こえてくる。


「――4……5」


 瞬間、再び雷撃が襲ってきた。

 放たれてから間近に迫るまでの時間が恐ろしく速い。ほぼ反射で体が動き、通路から後退する。と、1回目と同様の短い炸裂音が鼓膜をついてきた。


 背中にいやな汗が流れる中、アッシュはふぅと息をつく。


「いまは注視してたから回避できたが、戦闘中じゃ放たれてから避けるのは厳しいな」

「各自で数えて動くしかないわね」


 淡々と口にするラピス。

 その顔からは悲観的なものをいっさい感じない。

 反してクララは怯えたように顔を歪ませている。


「あれと戦いながらだよね。あたし、忘れてくらっちゃいそう……」


 通路の先には当然とばかりにシヴァとオートマトンが配されている。これまでのようにただ眼前の相手に集中するだけでは床を舐めることになるだろう。


「意識することがひとつ増えるだけだ。そう難しく考えることはない」

「う、うん」

「最悪、ずっと動き続けてりゃいい」

「それはそれですぐにバテちゃいそうだよ……」


 ただの雑魚ならまだしも相手は10等級の魔物だ。

 耐久力を除けば、その強さは上層の試練の主にも匹敵する。


 そんな相手に意識することをひとつ増やす、というのは実際のところ簡単なことではない。戦闘にいまだ不慣れなクララならなおさらだ。しかし、それでもやってもらうしか前には進めない。


 アッシュは全員の顔を見回す。


「みんな準備はいいか? ……よし。レオ、好きなタイミングで出てくれ」

「了解、それじゃ行くよ!」


 鎧の重々しい音に似合った力強い1歩から一気に駆けだすレオ。彼が通りすぎたあとに2発の雷撃が落ち、炸裂音を響かせる。


 目の前の明滅が収まるやいなや、アッシュは仲間とともに通路へ飛びだした。視界の中、もっとも手前に見える敵はオートマトン。その後ろにはシヴァ。


 と、オートマトンがその背から10発の《ミサイル》を発射した。上空に打ちあがったそれらが放物線を描いてこちらの後続に襲いかかってくる。アッシュはラピスとともに属性攻撃を放ち、クララは魔法、ルナは矢で迎撃。上空で爆発させた。


「止まるな、走れ!」


 爆風に見舞われながらも足を止めずに前へ駆ける。最中、敵はさらに突き出した右拳をそのまま射出してきた。レオが盾で弾いたのち、いち早くオートマトンに肉迫。交戦状態に入る。


「1発目、来るよ!」


 ルナが声を張り上げたのとほぼ同時、全員が体の位置をずらす。と、両側の柱の先端で青白い光が膨張。雷撃を全員に1発ずつ撃ちこんできた。あちこちで響いた炸裂音に耳が痛み、思わず顔を歪めてしまう。


 全員が無傷だ。クララも怯えつつではあったが、なんとか避けている。アッシュはラピスからわずかに遅れてオートマトンとの距離を詰め、一撃を加えつつ、そのまま通り過ぎる。


「ラピス、任せる!」

「了解っ」


 目標はさらに奥で陣取っているシヴァだ。

 すでに第三の目を開眼しようとしている。


 このままでは《メテオストライク》を放たれかねない。柱からの雷撃がある中に《メテオストライク》級の攻撃を受けては回避も困難になる。それだけは避けたい。


 すぐそばを鋭い風切り音を鳴らして1本の矢が通りすぎた。ルナの矢だ。


 シヴァは掲げようとしていた三叉槍を下げ、矢を弾き返そうとする。と、10等級弓の特性もあり直前で矢が2本に分裂。さらに赤の属性矢とあって衝突時に轟くような音を響かせ、爆ぜた。


 シヴァが上半身を仰け反らせる。黒煙に紛れてその姿はうっすらと見えるが、損傷はほぼない。だが、《メテオストライク》の牽制にはなった。アッシュは一気に接近し、シヴァとの撃ち合いを始める。


 またも放たれた柱の雷撃から身を躱した、その直後。

 通路に影が差した。


 いやな予感に見舞われながらわずかに視線を上向けると、やはりソレが顔を出していた。後方からクララの悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。


「顔も出てくるとか聞いてないよっ」


 階段を上がるときにも散々邪魔をしてくれた《トール》がまさかこの空中通路にまで現れるとは。顔に続いて覗かせた右手を振りかぶり、お馴染みの巨大なハンマーを通路に叩きつけようとしてくる。


「しつこすぎだろ……ッ! クララ、ルナ! あれは最優先で頼む!」


 2人とも体に染みついていたのか、指示を出すよりも早く《トール》へと攻撃を開始していた。さらにレオの《ミサイル》も加わり、上空で激しい爆発音が響きはじめる。


 低い呻き声とともに《トール》が早々に引き上げていく中、アッシュは《ソードオブブレイブ》を発動し、眼前のシヴァの首を飛ばして屠る。すぐさま振り返ると、ラピスとレオもオートマトンの排除を終えたところだった。


「いまのうちに進めるだけ――」

「アッシュ、なにか近づいてる!」


 ラピスの切羽詰まった声にいま一度視線を進路の先へ戻す。と、オートマトンと同じ質感の球形のなにかが勢いよく転がってきていた。


 ただそれだけならオートマトンの変形型だと思ったかもしれない。だが、それはなにやら外殻が近づけば近づくほど赤くなっていた。いやな予感しかしない。


「近づかせるな! 迎撃しろッ!」


 前衛組は10等級武器の特性を活かし、虚空を3度斬りつけて属性攻撃をストック。一斉に放つ。が、オートマトン特有の硬さを発揮、まるで止まる気配がない。ただわずかに遅れてルナの矢が命中した、途端。


 球形型のオートマトンは停止。凄まじい轟音とともにその身を弾けさせた。クララの《フレイムバースト》の比ではない範囲の爆発だ。通路の両端まで軽く届いている。


 巻き起こった赤黒い煙が突風とともになだれ込んでくる。


「アッシュくん、下がって!」


 レオの声に促されるまま、アッシュは大きく後退する。

 入れ替わる形で最前線に立ったレオが盾を足場に打ちつけた。きぃんと耳鳴りに近い音が響く中、青の障壁が盾を拡大するように展開される。


 風こそ抜けてきたが、脅威となる衝撃はほとんど感じなかった。レオの血統技術である《虚栄防壁》のおかげだ。ただ、レオの顔は苦痛に歪んでいる。


「無事か、レオ!?」

「……大丈夫。衝撃はすごかったけど、これぐらいなら――って」


 黒煙が晴れ、通路の様子が再び窺えるようになった。

 直後、レオが顔をひくつかせる。


「さ、さすがにあの数は僕も覚悟を決めないといけないかもね……」


 球形型オートマトンが追加でころころと転がってきていた。それも1体ではない。少なくとも10体は確認できる。


 あれの対応策に思考をすべて割きたいところだが、そうはさせまいと柱から雷撃が飛んでくる。アッシュは身を投げて回避したのち、舌打ちする。


 シヴァとオートマトンにトール。これだけでもあまり余裕はないというのに、そこに柱の雷撃。さらに自爆する球形型オートマトンまで加わるとなると、いよいよもって壊滅の文字が脳裏を過ぎりはじめた。


 だが、まだなんとかできる範囲だ。

 そんな気持ちがわずかに残っていたが、次の瞬間には打ち砕かれた。


 右方から聞こえてきた、耳をつんざくような高い鳴き声。見れば、飛行するなにかが迫ってきていた。近づいたことでそれの正体が鳥であることがわかる。だが、それはただの鳥というにはあまりに巨大過ぎた。


 ジュラル島よりも大きいと言われても信じてしまうかもしれない。それほど巨大な鳥だ。


 巨鳥は上空を驚異的な速度で通過していく。呆気にとられてしまいそうになる中、アッシュは次に襲いくるものを瞬時に予測。喉が痛むほど叫んだ。


「クララ、全員の左側に《ストーンウォール》ッ!」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
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