◆第五話『緑の塔91階攻略開始』
轟々と音を鳴らしながら《メテオストライク》が地表に激突し、四散。無数の岩塊となって降り注いでくる。
レオだけが受け切り、あとの全員は回避を選択して岩塊をやり過ごす最中──。
アッシュはひとり前へ駆け、発動者であるシヴァをすれ違いざまに一閃。その首を跳ね飛ばした。
「急げ、次が湧いてくる!」
仲間を急かし、レオを先頭に前進。
長らく見つめるだけだった門へとどんどん近づいていく。
聖騎士たちと一悶着あった翌日。全員の武器が揃ったこともあり、ついに本格的な緑の塔91階の攻略へと乗り出していた。
「アッシュ、上!」
ラピスに警告される前から気づいていた。
アッシュは走りながら上を仰ぎ見る。
星々で彩られた美しき夜空を遮るように現れた歪み。
そこから巨大な顔──トールがぬっと覗き込んできた。
まるで人間が小さな虫を探すかのように目をぐりぐりと動かし、こちらを捕捉。トールは歪みから右手を出すと、握ったハンマーを地表に叩きつけんとしてくる。
あのハンマーが地表に接触した直後、幾つもの雷が落ちてくる。雷はとても強力でまともに受けるのは無謀だ。かいくぐって回避することはできなくないが、シヴァやオートマトンを相手にしながらでは困難を極める。
これまでの経験から必ず攻略法は存在する。
その確信から、どう対処するか。
予め仲間と話し合い、辿りついた答えは──。
「クララ、ルナッ!」
こちらが呼びかけるよりも早く後衛組がトールに攻撃をしかけていた。
先に到達したのはルナの矢だ。
10等級の弓から放たれた赤の属性矢は途中で2本の矢にわかれ、どちらも対象に命中。2本分の爆発を発生させた。
10等級の弓から放たれた矢は、2本にわかれるという特殊な強化が施されている。単純に威力が2倍となるため、すさまじい強化だ。
ほんのわずかに遅れ、クララの《フレイムバースト》も激突する。こちらも10等級の腕輪にはめられたものとあって威力が相応に上昇している。ただ、弓のようにわかりやすい変化はない。
ただ、大きな変化はあった。
それは魔法を発動させるために必要な魔力が大幅に減少している点だ。おかげでクララは一度に30発の《フレイムバースト》を支障なく撃てるようになっていた。
そうした後衛組の10等級武器で底上げされた攻撃がトールへと次々に命中。凄まじい爆発と轟くような音を響かせる。
巻き起こった黒煙に隠れて一部しか見えないが、その奥ではトールがいやがるように顔を歪ませている。怯んだか、振り下ろそうとしていた手も止まっている。
と、少し離れたところにシヴァが出現し、早々に第三の目を開眼。《メテオストライク》を放とうとしていた。ここで放たれれば後衛組が攻撃を中断しなければならない。そうなればトールの雷を受けることになり、壊滅は必死。
アッシュはすぐさまシヴァに肉迫し、飛びかかった。
最中、視界の右端ですっと現れた影が色を持つ。
オートマトンだ。
「こっちはわたしがやるわっ」
「僕も加勢するよ!」
「任せたっ」
オートマトンの対処をラピスとレオに任せ、アッシュはシヴァと得物を交える。相手は天使とは比較にならないほどの戦闘能力を誇っている。だが、すでに1ヶ月以上もやり合っている相手だ。瞬時とまではいかなかったが、早々にその首を飛ばした。
ふと腹に響くほどの低い唸り声が聞こえてきた。
見上げれば、トールが歪みの中へと引っ込んでいた。
「やった、追い返せたっ!」
「アッシュッ!」
クララの歓喜の声に続いて、ルナの催促の声が飛んでくる。
アッシュは急いでラピスとレオのほうを確認する。
と、ちょうど2人もオートマトンを屠ったところだった。
一気に前進するならいまをおいてほかにない。
「走れ! いまのうちに門を突破するぞ!」
レオを先頭に門をくぐり抜け、ついに階段の前に辿りついた。
階段と言っても一段一段が駆け回れるほどに広々とした造りだ。また1段ごとに敵が待ち受けているのがこちらからも確認できる。1段目にはオートマトン2体だ。
ここ最近、転移門の周辺でずっと狩りを続けてきた。
ずっと視界に映り込んでいた場所とあって、ようやくといった気持ちで感慨深い。だが、その気持ちに浸っている余裕はない。
「一気に行くよ!」
止まらず1段目に上がったレオに全員が続いた。
待っていた2体のオートマトンを難なく処理し、早々に2段目へと上がる。
次に待っていたのはシヴァ2体。
さすがにシヴァは瞬時に倒せる相手ではなく、1段目よりも処理に時間をかけてしまった。次の敵が湧きかねない。
アッシュは仲間を急かさんとした、そのとき。
2段目の床全体にうねうねと根が発生。
全員の足首に巻きついてきた。
「なにこれ、気持ちわる……ッ」
「斬っても斬っても絡みついてくるわっ」
《フレイムレイ》で根を焼ききるクララに、槍で斬り落とすラピス。簡単にはがせるものの、またしばらくするとゆっくりと絡みついてくる。
「おそらく時間経過で発動する仕組みだっ」
レオが剣で根を切り落としながら言った。
早々に駆け抜けた1段目で出なかったことから察するに、おそらくその可能性が高いだろう。
そうして全員が足をとられている間にオートマトンが追加で出現し、突進してきた。レオが盾で受け止め、轟音が鳴り響く中、また空に歪みが訪れた。《トール》の出現だ。
「げぇっ、あの顔また来たぁっ!」
「最悪のタイミングだね……っ!」
クララとルナがすぐさま《トール》に攻撃を開始する。
アッシュは足に絡みついた根を斬りつつ、声を張り上げる。
「レオは時間を最優先で! 場合によっちゃ無理やりにでも次の段に移って前線を上げてくれ! ルナ、《トール》の相手しつつで悪いが《レイジングアロー》で調節頼む!」
レオとルナから揃って「了解!」と返ってくる。
「ここで使うしかないね!」
レオは対峙していたオートマトンの腕を掴むと、《エンシェント0》に搭載された機能のひとつ――《ロケット噴射》を使用。背中側から光が噴出したのを機に、猛烈な勢いでオートマトンごと次なる階段に上がった。
ただ相変わらずの勢いで双方ともに不恰好に着地していた。先に立ち上がったレオがオートマトンを警戒しつつ、今度は《ミサイル》を背中の矩形部分から発射。5発の《ミサイル》が高く舞い上がり、頭上の《トール》へと見事に命中する。
想像を絶する威力のようで鼓膜が痛むほどの爆発が起こった。《トール》の顔が一気に歪んだ。クララやルナによってすでに大幅に削られていたこともあってか、早々に《トール》が引っ込んでいく。
「見たかい、みんな! この装備の凄さを!」
オートマトンを相手にしながら勝ち誇った声をあげるレオ。
たしかに認めるべき部分はあるが、認められない部分もあった。奇しくもその考えはほかの仲間と同じだった。
「性能だけはな」
「ええ、性能だけは認めるわ」
「見た目はアレだけど……ね」
「きっと、レオにはあれが一番なんだよ」
「どうしてっ、見た目も最高じゃないかっ」
絶叫しながら抗議しつつ、レオがオートマトンを弾き返す。
その間にアッシュは仲間とともにいそいそと根を処理しながら3段目へと上がり、レオに加勢。3段目の攻略へと乗りだした。
新調したレオの《エンシェント0》や、全員の武器が10等級に格上げされたこともあってか。余裕こそないが、その後も詰まることなく階段を上がっていき――。
「あと少しだ!」
アッシュはラピスとともに眼前のシヴァを排除。最後にもう1体のシヴァが残っているが、そちらは対峙したレオが気を引いていた。
ルナが《レイジングアロー》を放ち、シヴァの頭部を豪快に粉砕した。クララが「うわぁ」と舞い散るシヴァの肉片から逃れる。
約23段。
ついに階段を上りきった。
本来なら達成感に見舞われるところかもしれない。
だが、次に待っていた光景を前にアッシュは思わず目を見開いてしまった。クララにいたっては顔を引きつらせている。
「こ、これ突破できるの……!?」





