◆第三話『対聖騎士』
アッシュは騒ぎの中心――舞台に歩みでた。
女聖騎士に踏まれたまま、ダリオンがねめつけてくる。
「てめぇ、なにしにきた……? 助けなんて頼んだ覚えはないぞ……っ!」
「純粋に遊びにきただけだ」
そう肩をすくめて応じつつ、聖騎士たちの前に立つ。
と、先ほどまで静まり返っていた周囲が途端に沸きはじめた。
「アッシュが行くのかよ」
「アッシュなら余裕だろ」
「やっちまえアッシュ!」
「挑戦者の意地を見せてやれ!」
調子がいいというかなんというか。
アッシュは苦笑したのち、観衆へと声を張り上げる。
「誰か1等級の長剣を持ってたら貸してくれ! できれば2本あると助かる!」
「あるぞ!」
注文どおりに抜き身の長剣が2本放られてくる。
どちらも正統的で癖のないものだ。
1等級挑戦者の数はあまり多くはない。
そんな中で2本も借りられたのは運がよかった。
と、所有者の顔をよく見れば2人とも《ブランの止まり木》に泊まっている挑戦者だ。
「助かる。もし壊れたら弁償するから安心してくれ」
「おう、属性石つきで頼むぜ!」
手を上げて応じつつ、アッシュは振り返った。
剣を収めた鞘を仲間に向かって放り投げる。
「これ、頼む」
「わっ」
危なっかしくはあったが、クララが両手で受け取ってくれた。
その姿を横目で確認しつつ、今度は女聖騎士のほうへと借り受けた長剣2本のうちの1本を投げた。女聖騎士が危なげなく剣の柄を掴んだのち、大げさに首をかしげる。
「これはなんのつもりですかぁ?」
「双剣使いなんだろ。こっちも1等級に落としたから、元から持ってる奴もそうそう折れないと思うぜ。その剣の質、かなり高いみたいだしな」
「聖騎士用の特別製ですからねぇ」
ジュラル島の武器を持つのが初めてだからか。
興味深そうに借りた長剣を観察しはじめる女聖騎士。
男聖騎士が理解できないといった様子で声をかけてくる。
「装備の優位性を自らなくすとはな」
「圧倒的に有利な状況で戦っても面白くないだろ。とりあえず一撃を与えたほうが勝ちってことでいいよな」
「構わない」
「あとこっちは1人だが、そっちは2人できてくれよ。遠慮はいらないぜ」
先ほどのダリオンのチームが数的優位であっさりと破れたあとだからか。周囲の観衆からは正気を疑うような声があがった。
「アッシュくん、煽るねぇ」
「アッシュの悪い癖が出てるね」
仲間たちには心配されるのではなく呆れられていたが。
男聖騎士が静かな怒りを宿した声を放ってくる。
「《ミロの加護》を見てもなおその自信を抱けるとはな」
「たしかにあれは厄介だが、攻撃と認識されなきゃいいだけだろ」
シビラがジグラノの《ミロの加護》を破った際の話を聞いたこともあり打開策については知っていた。おそらく障害となるのは〝攻撃と認識されない攻撃すること〟だが、それも長剣を使えるいまなら問題はない。
「どうやら無知というわけではないようですね~」
女聖騎士がだらりと両腕を垂らし、2本の長剣を構えた。
呼応するように男聖騎士も戦闘態勢へと入る。
「そのようだ。ならば、望みどおり本気でいかせていただく……!」
男聖騎士が踏みだした。
開始の合図となったその瞬間、アッシュは自らも前へと出た。すれ違いざま、相手が反応するよりも早くに剣を鎧の分厚い胸部へとぶつけた。かんっと音が鳴る。
「なっ」
「まずはひとり目――」
アッシュは即座に方向転換、女聖騎士のほうへと向かう。勢いのまま突きを繰りだす。わかりやすい攻撃だったからか、相手も反応していた。左手側の剣でこちらの突きを上方へ弾こうとしてくる。
石畳を強く蹴りつけつつ、剣を引いて急停止する。と、相手はこちらの動きを読んでいたとばかりに右手側の剣を振り下ろしてきた。このままでは脳天が裂かれてしまうが――。
アッシュは余裕を持って剣を割り込ませ、外側へそらす格好で弾いた。体勢がわずかに崩れたところを狙い、相手の右手首に剣の腹を当てる。その指の力が弱まった瞬間、剣を蹴って飛ばした。
多くの戦士ならばこの時点で少しは動揺するが、女聖騎士は違った。息つく間もなく残った左手側の剣を薙ぐように繰りだしてくる。まるで本当の決闘でもしているような錯覚を抱いてしまうほどの必死さだ。
ただ、いくら必死でも実力に開きがあれば覆ることはそうそうない。アッシュはまたも相手の剣を受け流し、今度はそのまま巻き込むようにして弾いた。剣が宙を舞う中、相手の胸部へと剣の腹を当て、思い切り振り抜く。
女聖騎士は細身だが、重装備とあって決して軽くはなかった。そのため吹き飛ばすことはできなかったが、ダリオンの上からどかすことはできた。
「俺の勝ちだな……って」
勝敗は喫したが、女聖騎士は止まらなかった。
ひどく興奮した息遣いを発しながら突進してくる。
初めて見たときから兆候は見えていたが……。
どうやら女聖騎士のほうは戦いに飢えているようだ。
アッシュは突進を躱しざまそっと足を引っ掛けて転がした。すぐさま起き上がって飛びかかろうとしてくる。が、そうはさせまいと顔面に足裏を押しつけて制した。
「悪いなっ」
「ふーっ、ふーっ!」
少しの間、足をどかそうともがき続ける女聖騎士。だが、「ルグシャラ!」と男聖騎士の制止の声を受け、ようやく落ちつきを取り戻した。降参したように手足を石畳に張りつける。
「……この人、強いです」
「ああ、我々の負けだ。まさかこれほどの男がいようとはな」
男聖騎士のほうが潔く負けを認めた。
直後、周囲の挑戦者たちが一斉に歓声をあげた。
「さすがアッシュだぜ!」
「見たか! これがジュラル島の挑戦者だ!」
「……ほんと調子のいい奴らだな」
そうしてひとり呆れつつ、アッシュは女聖騎士の兜から足をどかした。
だが、女聖騎士は倒れたまま起き上がろうとしない。
敗北感に打ちひしがれているのだろうか。
と、男聖騎士が神妙な様子で問いかけてくる。
「きみが島で1番強いのか?」
「そうよ!」
誰よりも早くにそう反応したのはラピスだ。
振り返ると、彼女はなぜか誇らしげに胸を張っていた。
彼女に続いて周囲の挑戦者たちも肯定するように声をあげる。
自ら答える前に周りが示してくれたが……。
アッシュは改めて男聖騎士に返事をする。
「まあ、誰にも負けるつもりはないな」
「……やはりか」
言うやいなや、男聖騎士が片膝をついて頭を垂れた。
その姿を見て女聖騎士も慌てて隣に並ぶ格好で倣う。
「いったいなんの真似だ?」
まさか再戦を願っているのか。
大方、そんなところだろうと思っていたところ予想外の答えが返ってきた。
「どうか我々に……ミロに力を貸していただきたい」





