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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【悪鬼螺旋】第一章

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◆第一話『初の10等級防具』

「武器も1個ずつだが、ようやく全員に行き渡ったな」

「うんうん、あとは――」


 正午前にアッシュは仲間とともに塔から帰還し、交換屋を訪れていた。


 ブランが島を去ったのが約1ヶ月前のこと。

 あれからも緑の塔91階で狩りつづけ、ついにひとつの防具シリーズを揃えることができた。最初に着るのは、もちろんチームの盾役であるレオだ。


 レオの体を包み込むように漂っていた燐光が弾けるように四散。硬質な重鎧と化した。これまでの上層装備とは違い派手な光沢はない。ひどく地味というより古びた印象がある。


 もっとも特徴的なのは背中だ。

 矩形のリュックを背負ったように角ばっている。はっきり言って邪魔にしか見えないが、いったいなんの役割を持っているのか。激しく謎な外見だ。


「ひどい見た目ね」

「うん、これはちょっと……」

「あたし、これのローブは絶対に無理かも……」


 レオの新たな防具は女性陣にひどく不評のようだった。

 揃って彼女たちは顔を引きつらせている。


「み、みんなひどくないかい? アッシュくんからもなにか言っておくれよ。せっかく集めた10等級の防具なんだよっ!」

「いや、悪いけど俺もみんなと同じ感想だな。どれくらいひどいかって言うと並んで歩くのがかなり苦痛なぐらいだ」

「そんなぁ……っ」


 絶望したように泣き崩れるレオ。

 彼には悪いが、今回ばかりは擁護しかねる。


 以前、彼が集めた黄金鎧の《アウレア》シリーズもなかなかひどかったが、今回はあの装備のひどさを圧倒的に上回っている。


「いいよ。僕はみんなと違って結構気に入ってるからね。誰がなんと言おうと僕はこの防具を愛して着続けるよ」


 レオは涙を拭って早々に立ち直った。

 それを機に、交換屋のミルマ――オルジェが無駄に色気を振りまきながら話しはじめる。


「えーっと、そのシリーズは《エンシェント0》って言ってね。2つの特殊な装置がついてるんだけど……説明する?」

「お願いするよ」


 オルジェが長い人差し指をピンと立てた。

 瑞々しい唇を動かして説明をはじめる。


「まずひとつ目はミサイルね」

「……みさいる? ってなんだろう」

「誘導弾よ。背中のところから飛びでて白の9等級弓と同じく狙った相手を追尾するの」


 立てた人差し指でそのままレオの胸をついた。


「オートマトンが放つのと同じってことかな?」


 オルジェから思わせぶりな視線を向けられる中、レオがそう聞き返した。


 まるで相手にされていないとわかってか。

 オルジェが拗ねたように一瞬唇を尖らせたのち、答える。


「少し違うけど、似たようなものね。ただ、あんなに多くは出ないからね。こっちは5発だけ」

「物足りないね」

「増やしたいならオーバーエンチャントでもするといいわ。強化石の種類問わず11個目から1個成功するごとに5発ずつ増えるから」

「一気に5発もかい? それはなんとも気前がいいね」


 途端に目を輝かせはじめるレオ。

 そんな彼とは反対にクララとルナは顔を曇らせている。


「でも、11個目のオーバーエンチャントって……」

「いまでもたまに挑戦してるけど、全然成功しないよね」


 10等級に到達したチームはほかにないため、装備をほかから購入することはない。必然的に生活費を除けばジュリーの使い道がオーバーエンチャントに限られてくる。


 そうした経緯もあって以前にも増して挑戦しているが、結果はルナの言うとおり散々なものだった。


「ラピスが8等級武器に成功したぐらいで、それ以外に大きな成功ってないよな」

「あれも本当に奇跡みたいなものだと思ってるわ」


 ラピスのほかに成功した者はひとりしか聞いたことがない。

 旧アルビオンの幹部であり、神聖王国ミロの聖騎士でもあったジグラノだ。もっとも彼女の場合は2本も成功していたらしいが。


 いずれにせよ8等級からオーバーエンチャントの成功率が凄まじく低くなっていることは間違いない。しかし、レオはそんな確率をも吹き飛ばすようにぐっと右手に拳を作る。


「なにはともあれ挑戦してみないことにはね。僕は狙うよ、100発のミサイルをね!」

「次、説明してもいいかしら」

「あっ、どうぞ」


 退屈そうに待っていたオルジェが気だるげに息を吐いた。

 レオにはまったく相手にされていないとわかったからか、さも億劫だと言わんばかりの顔だ。なんともわかりやすい。


「えーっと2つ目は……ロケット噴射ね」

「またまた謎の単語が出てきたね」

「背中辺りに下向きの管があるでしょ。そこから空気を噴射して空を飛べるらしいわ」

「空をっ、飛べるっ!?」


 またもレオが興奮したように目を大きく開いた。

 これまで散々バカにしてきたが、空を飛べるのはなかなか面白そうな機能だ。アッシュはほかのメンバー同様にわずかな感嘆をもらしてしまう。


「でも、まったく想像がつかないね」


 言いながら、体をひねって背中の管をさするレオ。

 そんな彼を冷めた目で見つめながらオルジェが言う。


「試しに外で使ってみたら? 属性攻撃と同じで意識を向ければ発動するわ」

「そうしてみようかな」

「少し難しいらしいから気をつけてね」


 手をひらひらと振るオルジェに見送られる中、交換屋前の通りに出てきた。正午近くとあって中央広場には少なくない数の挑戦者やミルマが歩いている。ただ、ちょうどタイミングがよかったようで近くには誰もいない。


 レオから少し離れ、アッシュはほかのメンバーと通りの端に立つ。


「見た目はださいけど、本当に空を飛べたら面白そうだな」

「ええ。見た目はださいけど、少し興味は湧いてきたかも」

「ださいって言いすぎだよ2人ともっ」


 本当に不恰好なのだからしかたない。

 気を取り直したレオが軽く膝を曲げて、腰の位置を落とした。


「それじゃ行くよ……!」

「わくわくっ、わくわくっ」

「レオ、気をつけてっ」


 純粋に興奮するクララと心配するルナ。

 彼女たちの声から間もなく――。


 レオの背中付近、下に伸びた管の先から軽い火花が散った。かと思いきや、直後にごうと重苦しい音を響かせ、人間の腕よりも太い光を噴射。レオの足が地面を離れた。


 たしかにレオの身体は浮いている。

 だが、角度の問題やとてつもない推力のせいで、前方へ頭から突進する形になってしまっていた。


 噴射する光が消滅し、石畳に落ちるレオ。幸い受身はしっかりと取っていたが、勢いが収まることなく転がっていき――ついには通りの先に建っていた委託販売所の壁にドンッとぶつかってしまう。


 近くを歩いていた挑戦者も何事かと驚いていた。

 アッシュは声を張り上げる。


「大丈夫か、レオ!?」

「いたた……だ、大丈夫だよ。防具のおかげでね! 防具のおかげで!」


 レオが飛び起きるなり、手を振って無事を報せてくる。


 頑丈なレオのことだ。

 実際にあれぐらい大したことはないだろう。

 ただ、衝撃がなかったわけではないはずだ。


 彼の姿と言葉はまるで自分に言い聞かせているようにしか見えなかった。


「もともと着ないつもりだったけど、もう絶対に着ないと誓ったわ」


 隣でラピスがそう決意していた。

 アッシュは力強く頷き、「ああ」と同意する。


「シヴァのほうから出た天破(アマハ)シリーズだっけ。そっちを集めることになりそうだね」

「ほかにもっと可愛いのがあればいいんだけどなぁ」


 そうしてルナとクララがほかシリーズへと思いを馳せはじめたとき。


 中央広場に悲鳴が響き渡った。



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