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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【英雄の血】第二章

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◆第十三話『軍翼の蹂躙』

 前衛に盾型が約20。

 中衛に槍型が約40。

 後衛に弓型30と魔術師10程度。


 遠いために数は正確ではないが、おおよそ間違いない。


 そんな圧倒的な戦力を前に仲間が揃って戦慄していた。無理もない。これまでの試練の間とはまるで違う。これは戦闘というより――戦争だ。


 王が剣をこちらへと緩やかに傾ける。

 応じて40もの槍型天使たちが弾かれたように動きだした。


 槍を突きだしながら横一列に並んで猛進してくる。乱れはいっさいなく、まさに圧巻の一言。このままでは波に呑まれるように蹂躙される未来しかない。


「全員、いますぐに切り替えろ! 敵はこれまでとは違う! クララ、さっき言ったこと全部撤回だ! 全力で数を減らしにいくぞ!」

「わ、わかった!」


 クララが早々に《フレイムバースト》を10発生成し、放った。さらに追いかけるようにルナの放った矢が続く。敵も向かってくる魔法と矢を感知していないわけではないだろう。だが、隊列を乱さないことを優先したのか、まるで回避行動をとる気がない。


 ついにはそのまま衝突し、あちこちで轟音とともに黒煙が巻き起こる。が、すぐさま黒煙を貫く格好で槍型たちが姿を現した。転がったのは3、4体程度か。ほかは多少の傷を負っているものの、気にした様子もなく猛進を続けている。


「うげぇ……か、数が多すぎるよっ!」

「それでもやるしかない……っ!」


 そうしてクララとルナが槍型の迎撃に当たる中、王がまた剣を振り下ろしていた。弓型30体が流れるような動きで一斉に放った矢。それらが鋭い軌道を描き、槍型の頭上を通り越してこちらへと勢いよく飛んでくる。


 見上げた先の視界を埋め尽くすほど矢が散らばっている。9等級の緑矢が持つ特殊攻撃は落雷。地面に接触するとともに周囲へと影響を及ぼすため、あれほどの数が落ちればまず逃げ場はない。


 すでにルナが迎撃せんと矢を放っていた。敵の1本の矢と衝突すると同時、赤の属性矢が持つ特殊攻撃――爆発が巻き起こる。周囲の2、3本が爆風で吹き飛んだものの、それだけだ。


「ごめん、迎撃は無理だっ!」

「僕が止める!」


 レオが叫びながら地面に盾を打ちつけた。

 閃光が走り、こちらと敵を完全に隔てるよう展開された青い光の壁。そこへ飛んできた敵の矢すべてが衝突するなり、属性効果を発動させることなく落ちていく。


 レオの血統技術――《虚栄防壁》の力だ。

 だが、衝撃が発動者であるレオへと返ってくる。


 想定以上の衝撃に襲われたのか、レオがその場で膝をついた。すぐさま杖を掲げたクララがぴたりと止まり、助けをこうような目を向けてくる。


「ヒ、ヒールはどうしよう……!」

「この状況でずっと使わずにいるのは無理だ! 気にせず使っていい! ラピスはクララの護衛をしつつ可能なら攻撃に参加してくれ!」

「アッシュはっ!?」


 ラピスの詰問するような声が飛んでくる中、アッシュはレオの前へと躍りでる。このまま槍型すべてを相手にするのはとうてい不可能だ。ゆえに――。


「俺は前でかき乱して敵の戦列を間延びさせる!」

「危険だ!」


 そう叫んだのはレオだ。

 クララの《ヒール》を受けながら、剣を支えにいまいちど立ち上がっている。


 アッシュは肩越しに振り返り、叫ぶ。


「あの数をまともに受ければ死ぬだけだ! やるしかない! レオはみんなの前で張り続けてくれ! きついだろうが、また矢が飛んできたときは頼む!」

「……了解だ。絶対にみんなは守りきるよ!」


 レオは盾としてチームの最前線に立っていたいだろう。だが、いまはそうした役割にこだわっていてはまず乗り切れない状況だ。我慢してもらうしかない。


「ルナは落とせる奴から頼む! ただレオの両脇だけは見てやっててくれ!」

「了解っ!」

「陣形だけは崩すな! 一気に呑み込まれるぞ!」


 指示を出している間にも槍型はすぐ近くまで来ていた。


 クララとルナの攻撃ですでに7体が消滅している。

 いまも彼女たちの攻撃で2体が沈み、残りは31体。


 敵は浮いているため、不気味なほど静かに迫っている。だが、1体1体が持つ存在感が凄まじいからか、まるで何千、何万もの大軍を前にしているかのような迫力だ。


「全員、気を引き締めろッ! 来るぞッ!」


 アッシュはスティレットを振り、属性攻撃をまき散らしながら疾駆。自ら槍型の波へと飛び込んだ。こちらの頭部を貫かんと迫る穂先をすれすれで躱しながら、さらに敵の懐へと潜り込み――側面から正面の1体を突き刺した。


 すでに後衛組の攻撃で削れていたのか、スティレットを引き抜いた拍子に敵は消滅する。が、息つく間もなく視界の端から異なる敵の槍が迫ってきた。


 ソードブレイカーをそえ、受け流しながら身をそらす。そのまま攻撃に転じようとするが、叶わなかった。新たに別方向から穂先が襲ってきたのだ。それもひとつではない。


 頬、太腿の皮膚を軽く削られながらも致命傷をなんとか回避。アッシュは転がるようにして離脱する。が、逃がさないとばかりに槍型の猛攻は続けて襲ってくる。


 先ほど倒した敵を抜いて釣れたのは8体か。

 思ったよりも少ない。


 敵の攻撃が激しすぎて確認できないが、すでにレオたちも槍型と接触した頃だろう。こちらが引きつけた敵を除いて22体。相手にするにはあまりにも多い数だ。一刻も早く増援に向かいたい。


 アッシュは回避を優先しつつ、時折無茶な攻撃を繰り出しては1体目、2体目と敵の数を確実を削っていく。敵の位置や繰り出される槍の把握と予測で、頭が破裂しそうなほど窮屈な感覚に見舞われていた。処理能力がまるで追いついていない。


「矢、来てるよ! アッシュ、一旦こっちに!」

「このままでいい!」


 飛んできたルナの声にそう応じながら、アッシュはとっさに近くの敵へと飛びかかった。そのまま絡みつく格好で肩に乗り、敵のいない場所へと跳躍する。その間に周囲の地面に4本の矢が落下。ばちばちと炸裂音を響かせた。


 空中に浮いている間、周囲を確認する暇があった。敵から放たれた残りの矢はレオが一瞬だけ展開した《虚栄防壁》によって無力化されているようだった。槍型の数は13体まで減っている。


 これまで散々天使と戦ってきたかいあってか、余裕はないようだが、確実に減らせている。ただ、状況は好転するばかりではなかった。盾型20体がすぐそこまで詰めてきていたのだ。


「盾が来てる! 盾を優先排除! クララに近づかせるな!」


 魔法を使わない選択肢はすでに捨てている。

 魔法使用者に異様なほど反応する20体の盾型すべてが標的をクララに定めていた。槍型とは違い、クララを我先に潰さんとばかりに駆け抜けていく。


 アッシュは《光の笠》を繰り出し、なんとかして盾型の気を引こうとするが、まるで振り向いてくれなかった。その目にはもうクララしか映っていないようだ。


 クララも攻撃するしかないと腹を決めたようだ。轟々と渦巻く炎を纏う大火球――《インフェルノ》2発を生成し、盾型の両翼へと放った。着弾とともに激しい火炎を迸らせたそれは周囲にいた5体を呑み込み、沈めた。


 さすがの威力だが、まだ15体が残っている。

 盾型たちが槍型の中をかきわけながら、ついにクララへと接近する。


「うわぁっ」


 クララがたまらず《テレポート》で逃げた。標的を失った盾型たちだが、勢いを落とさずにぐるりと転身。姿を現したクララへと再度突進していく。護衛役であるラピスがクララの援護に向かおうとするが、レオがそれを止めた。


「ラピスくんは僕と背中合わせで! ルナくんはその場でクララくんの援護を!」


 レオの指示に従ってラピスとルナが陣形を変化させる。クララの《テレポート》を追いかけながら戦うのは近接のラピスでは難しいうえ無駄に体力を消耗しかねない。反面、遠距離攻撃可能なルナならばその場で援護ができる。


 最良の判断だ。

 レオの機転に感謝しつつ、アッシュは残り4体となった槍型との戦闘を続ける。


 なんとか維持しながら敵の数を減らせているが、まったくといっていいほど息つく暇がない。いまだかつてないほど綱渡りな状況だ。


 これでもまだ主と思われる王が参戦していない状態だ。

 もし参戦すればいったいどうなるのか。


 それに敵はまだ残っている。


 ふいに、ぴしっと地面に亀裂が入った。

 体が傾いたと思った瞬間にはすでに空中へと打ち上げられていた。これは9等級緑魔法――《アースクエイク》だ。


 アッシュは全身に走った衝撃に顔を歪めながら、滞空中に広間の奥側へと目を向ける。


 ついに来たか……っ!


 ここから大股20歩程度の距離。

 そこに王のもとを離れた魔術師型10体が杖をかざして並んでいた。



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