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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【英雄の血】第一章

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◆第八話『特異生体①』

 アッシュは仲間とともに階段を駆け下り、広場へと躍りでた。


 先行したレオが広場中央に達した瞬間、最奥で待ち構える黒の天使――敵が垂らした両腕をゆらりと持ち上げた。こちらが敵意を持って接近しているにもかかわらず、そこに焦りはいっさいない。


 敵は両腕を横に伸ばしたまま目にも留まらぬ速さで回転。両手に持った2本の剣から1発ずつ黒い斬撃を飛ばしてきた。どちらも挑戦者が放つ属性攻撃とは比較にならないほど太い。……跳躍で飛び越えるのは難しいか。


 レオが盾で1発目の黒の斬撃を受け止めたものの、すぐさま襲ってきた2発目に大きく体勢を崩されていた。重鎧のレオであれほどとなると、軽鎧以下では致命傷に繋がりかねない。


 黒の斬撃はレオに触れてもなお、勢いを止めることなく向かってきていた。さらに距離を経るごとに広がり、すでに左右の壁を抉るほどに達している。


 左右の回避も無理となれば、どう避けるか。そう逡巡しはじめたとき、足下が光りはじめた。後方からクララの声が飛んでくる。


「みんな乗って!」


 アッシュは促されるがまま、せり上がってきた石壁――《ストーンウォール》へと飛び乗る。見れば、レオ以外のメンバーにも生成されていた。


《ストーンウォール》が上がりきったと同時、黒の斬撃が下方を通り抜けた。衝突の音もなくあっさりと斬り裂かれた《ストーンウォール》が早々に崩れていく。その鋭さに戦慄しながら着地した、瞬間。


 がんっと重厚な衝突音が聞こえてきた。敵が突進の勢いに任せた剣の切っ先をレオの盾へと押しつけたのだ。さらに敵が残ったもう1本の剣で追撃し、盾ごとレオを弾き飛ばした。


「レオッ!」


 床に体を荒々しく打ちつけながら、レオが勢いよく転がっていく。その一撃で意識を失ったか、動かなくなってしまった。クララがすぐさま《ヒール》をかけはじめる。


 時間稼ぎのためにとアッシュはラピスとともに疾駆、敵との距離を詰めようとする。と、敵が両手の剣を1本ずつ投げつけてきた。眼前の床にぐさりと突き刺さった剣が、まるで稲妻のような形状のもやを発生しはじめる。


「ラピス、下がれっ!」


 いやな予感がした瞬間に飛び退いていたが、間に合わなかった。鼓膜が潰れるのでは思うほどの破裂音が響くと同時、体がハンマーで叩かれたような衝撃に見舞われた。勢いよく後方へと押し返され、床の上を跳ね転がる。


 上手く受身をとったので体への損傷は大したことはない。ただ、激しい揺れに脳が耐え切れず、少しばかりフラついてしまった。ラピスも上手く凌いだようだが、やはり同様にフラついている。


 辺りは爆発後の黒煙のごとく巻き上がった黒い靄で支配されていたが、すぐさま晴れた。敵がはためかせた翼によって起こった風が一掃したのだ。


 敵が立ち位置を最奥に戻すと、両手を広げた。呼応するように2本の剣がすーっと戻っていく。剣を手にした敵は再び回転し、黒の斬撃を放ってきた。


 先と同様にクララによる《ストーンウォール》でやり過ごす。その最中、ルナが幾度も矢を放って応戦していたが、あっけなく敵の剣に弾き返されていた。


 動きひとつとっても、これまでの敵とは違う。

 まるで自分で考えて行動しているようだった。


 その異質さを見極めんとアッシュは《ストーンウォール》から飛び降り、2発目の黒の斬撃を飛び越えた、そのとき。


 敵が右手の剣をそばの床に突き刺した。

 空いた右掌をこちらへと向け、握りつぶすような挙動をとる。


 直後、クララの短い悲鳴が聞こえてきた。

 振り返った先、後衛のクララとルナの周辺に数えきれないほどの黒点が出現していた。


 黒の塔の魔術師型天使が放つ《グラビティ》と同じだ。ただ、あまりにも数が多すぎる。逃げることなく《グラビティ》を受けたクララとルナがその場に固定されてしまう。


 それを見越してか、敵が左手の剣。次いで持ち直したもう右手の剣をクララたちへと放り投げた。矢のごとく鋭い軌跡を描いて飛んでいく2本の剣。質量、勢い的にもクララとルナが受ければ即死級の威力であることは明らかだ。


「僕が防ぐッ!」


 レオが意識を取り戻し、迫りくる2本の剣に立ちはだかった。

 ただ、あの勢いの剣を2発も受ければまたレオが離脱しかねない。


「ラピス、2本目落とすぞ!」

「ええっ」


 互いに繰りだした属性攻撃を2本目の剣へと当て、軌道をわずかにずらした。レオもまた盾で弾くことに成功していた。くるくると回転した2本の剣が後方の隅へと落ちる。と、またも黒い靄をまき散らして爆発した。


 離れているにもかかわらず凄まじい衝撃波が襲ってくる。敵がはためかせた翼によって黒いもやが晴れる中、レオがいち早く駆け出して敵との距離をつめていた。


 敵が黒の斬撃を放たんと回転しようとするが、レオが盾を割り込ませたことで詰まった。苛立ったように敵が力任せに剣を振り切り、レオを弾き飛ばす。


 その隙にアッシュはラピスとともに敵へと接近。入れ替わり立ち代わりで攻撃をしかける。2対1とあってこちらが数的優位だが、敵は動じることなく1本ずつ剣を割り当てて迎えてくる。


 人間の域を遥かに超えた敵の力と速度を前に、まるで大人が子どもを相手にするかのごとくあしらわれてしまう。


 そうして上手く攻めきれない時間が続いていたが、一筋の光明を発見した。敵の剣に入ったヒビだ。それは剣をぶつけるたびにどんどん広がっている。


「ラピス、見えてるか!?」

「壊れてるっ、みたいねっ!」

「破壊するぞ!」

「僕も手伝うよ!」


 クララの《ヒール》によって回復したか、レオが戦線に復帰。刃と刃の接触音がさらに激しく辺りに響きはじめる。


「クララ、いまならっ」

「うんっ」


 前衛3人に接近された状況ではさすがに敵も余裕はないようだ。ルナが放った白の矢が幾度も敵の頭部を捉えていた。さらにクララの《フレイムレイ》も頭部を削っている。


 ようやく優勢となったが、序盤の状況を思い出せば油断はできない。


「このまま押し切るぞッ!」


 アッシュは回転数をあげ、さらなる連撃を繰り出した。呼応するように仲間たちも攻撃の手を早め、ついに――。


 ラピスが繰り出した薙ぎの一撃で敵の剣1本を。

 レオが振り上げた長剣でもう1本を破壊した。


 アッシュはここぞとばかりに敵の懐へと潜り込み、がら空きの腹部へとスティレットを突き刺した。余韻に浸ることなくさらなる一撃を繰り出そうとした、そのとき。


 敵が耳をつんざくような奇声をあげた。

 黒いもやをまとった衝撃波が放心円状に幾度も迸り、アッシュはそばにいたラピスとレオともども後方へと吹き飛ばされてしまう。


 敵の追撃を警戒して即座に跳ね起きた。

 直後、視界に映りこんだおぞましい光景に思わず戦慄してしまった。ほかのメンバーも同様に顔をしかめ、クララにいたっては「うぇ……」ともらしている。


「まさかそれを武器にするのかよ……」


 敵が背中側へと回した両手で自身の翼をもいでいた。翼の根元からは血のような黒い液体がしたたり落ち、床に斑点を描いている。


 まるでなくなった剣の代わりにと両手に片翼を1本ずつ持つと、敵は威嚇するような咆哮をあげた。


 入口で観戦中のディバルから発破をかけるような声が聞こえてくる。


「……さあ、こっからが本番だぞ」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
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