◆第十話『妖精王たちの戦利品』
戦利品で確認できたレア品は2つ。
ひとつは装飾品、もうひとつは防具の交換石と思しきものだ。
そしてオークションを始めるにしても効果が判明してからにするべきとの意見で全員が一致。塔から一旦帰還することになった。
早朝から出発したこともあってか。
塔前の広場に戻ってきたとき、空はまだ青いままだった。
アッシュは緑の塔の管理人を務めるミルマにレア品を提示。その効果を教えてもらったのち、参加者が待機する場所へと戻った。
「どんな効果だったの!?」
クララが興奮気味に詰め寄ってきた。
彼女の額に手を当てて押しのける。
「そう焦るな。とりあえずどっちもかなり使えるレア品だってことはたしかだ」
おお、と感嘆するクララ。
周囲で話を聞いていた参加者たちからも歓声があがった。
彼らの熱が冷めないうちに、とアッシュは効果を説明する。
「ひとつは《オベロンの腕輪》。属性攻撃の飛距離上昇、また効果時間延長。もうひとつは《ティターニア》シリーズ一式。敏捷性大幅上昇。魔法、属性攻撃への耐性大幅上昇。《フェアリー》シリーズの完全上位で質は9等級相当だそうだ」
どちらも凄まじい効果だ。
予想どおり参加者たちが一斉にざわつきだした。
「おい、属性攻撃の飛距離上昇ってやばくないか……!?」
「効果時間延長ってなんだ? 9等級からのか?」
「てか防具のほうもあれひとつで一式って揃ってるのかよ」
「《フェアリー》シリーズの上位なら、ちょっと欲しいかもっ」
とくに《オベロンの腕輪》への反響が多かった。
ただ、女性に人気のある《フェアリー》シリーズの上位互換なうえ誰も着ていない防具とあってか、《ティターニア》シリーズの話題も多く上がっている。
そうして参加者が浮つく中、キノッツがてくてくと前に出てくる。
「ちょっといいかな?」
「どうした?」
「これから始まるオークションについてだけど、売り上げを分配するって今回の仕組み的に入札者以外、落札額は高ければ高いほうがいいよね」
「……まぁ、そうなるな」
「だからおそらく高くなるだろう《オべロンの腕輪》を先にしたほうがいいんじゃないかなってノンは思うんだけど、どうかな? あとに良品が控えてるとジュリーを温存して最初の品が安く落札されるかもしれないしね」
《ティターニア》シリーズも効果的に見て相当な良品だが、やはり《オベロンの腕輪》の効果には大きく劣る。
落札できるレア品は各ギルドにつきひとつのみ、という取り決めの関係上、すべてのギルドが《オベロンの腕輪》に照準を定めれば、キノッツの言うとおり《ティターニア》シリーズが本来の価値よりもはるかに低い額で落札される可能性は高い。
「異論がなければキノッツの提案どおりで進めようと思う。いいか?」
アッシュは参加者たちを見回しながら確認する。
多くの参加者が〝落札しない側〟となる状況だ。
安く落札したいから反対だ、なんて言える空気ではなかった。
「ってことでオークションは《オベロンの腕輪》から始めるが……少しだけ時間をくれ。チームで相談したい」
各ギルドのマスターたちに目で確認をとると、全員から首肯が返ってきた。やはり勢力ごとで参加しているとあって、彼らも相談する予定なのだろう。
参加者が各ギルドごとに固まり始める中、アッシュは自身のチームのもとへと合流した。
ルナとクララが早々に疑問を投げかけてくる。
「アッシュ、どうする?」
「どっちかしか落札できないんだよね?」
アッシュは両手に一個ずつ持ったレア品を見やる。
どちらも良品だが……。
「まぁ、《オベロンの腕輪》だな」
「まさに9等級装備に打ってつけの装備だもんね」
レオも同意見のようで大きく頷いていた。
「ああ。属性攻撃っていうより、効果時間延長が大きいな」
「ルナが装備すれば間違いなく戦力が上がるわね」
そう口にしたのはラピスだ。
ただ、どこか物欲しげな目で《ティターニア》シリーズのほうをちらちらと見ていた。
「ラピス、もしかしてティターニアが欲しいのか」
「べつにそんなことは…………ううん、少しだけ。でもオベロンのほうがチームに役立つことはわかってるから」
「悪いな」
気にしないで、と控えめに微笑むラピス。
そんな彼女へとルナが申し訳なさそうに言う。
「ありがと、ラピス」
「チームのためなんだから当然でしょ。でも、まずはその前に落札できるかどうかね」
ラピスの言うとおり落札するのは簡単ではない。
オークションの相手は島の上位陣ばかりだ。相当な額のジュリーで殴り合いになることは間違いないだろう。
ほどなくして他勢力も相談を終えたようだった。
アッシュは参加者を見渡せる場所へと戻る。
「それじゃ始めるぞ! まずは《オベロンの腕輪》から!」
「1000万っ!」
勇んで声をあげたのはベイマンズだ。
出品者がいないため、最低価格を設定していない。
にもかかわらず初めから大台に乗ったこともあり、場は騒然としていた。だが、混乱する間もなく次々に入札が入っていく。
「1100!」
「1150!」
「1300!」
先日のオークションではレリックが1400万ジュリーで落札された。あのときも凄まじい勢いだったが、今回は遥かにそれを上回っている。
ついていけないとばかりに幾人かの挑戦者は恐ろしげな顔をしている。クララに至っては「ひぇ」と声をもらしていた。
「1950!」
ヴァネッサによる入札がされた。
勢いが少し落ちついたか、少しの間、静寂が訪れる。
そろそろか、とアッシュはルナのほうへと頷いた。
「――2000万」
ルナの入札により、さらなる大台に乗った。
ヴァネッサがすぐに被せてくるかと思いきや、まるで下りたかのように肩から力を抜いていた。これは決まりか、と安堵しつつ、アッシュは締めに入らんと声をあげる。
「2000万。ほかに――」
「2100万っ!」
入札してきたのはキノッツだ。
「2150!」
「2200!」
「2250!」
50万ジュリー単位でどんどん跳ね上がっていく。
場は再び熱を取り戻し、主にレッドファングから「もっと行け!」とばかりに声があがりはじめた。もう入札できないと判断してか、完全に他人事といった様子だ。
盛り上がるのは大いに結構だが、こちらの資金は3000万。このまま長引けば簡単に超えかねない。周囲の空気とは逆に、アッシュは仲間とともに息を呑んで見守っていた。
その後も50万単位での入札が交互に続き、ルナが2950万ジュリーを入札した直後。ついにキノッツが変化を見せた。
「2999万」
以前、ミルマによって開催されたオークションを彷彿とさせる入札だ。
あからさまな誘導だが、落札するには乗るしかない。
「3000万」
「下りるよ」
言って、キノッツが可愛らしい小さな両手を挙げた。
さすがにこちらの資金を完璧に把握していたわけではないだろう。だが、そうだったと言われても頷けるほどのあっさりとした引き際だ。
「ほかにいないか? いなければ、これで決める。……よし、それじゃ《オベロンの腕輪》、3000万で落札だ!」
クララやラピスが手を取り合い、レオが満面の笑みを浮かべる中、ルナが代表して前へと商品の受け取りにきた。
「ぎりぎりだったね」
「完全に吊り上げられた格好だったけどな。ま、でも落札できてよかった」
この機を逃せば1年以上は入手できない可能性のある装備だ。3000万ジュリーは莫大だが、決して惜しくはない。
「さくさくいくぞ! 次は《ティターニア》シリーズだ!」
「300万!」
「350!」
「400万!」
いきなり勢いのある入札が始まった。
争っているのは2人。
ソレイユのオルヴィとアルビオンのリトリィだ。
効果的にヴァネッサやシビラが装備しても有用に扱えるはずだが、2人とも入札する気はなさそうだった。
おそらく妖精から出た品とあって、《ティターニア》シリーズも《フェアリー》シリーズに似た雰囲気――可愛らしい衣装であることが容易に想像できるからだろう。
「なんだい、ベイマンズ。入札しないのかい?」
「ああっ!? あんなヒラヒラしたもん誰が着るかっ!」
ヴァネッサとベイマンズによる煽り合いが行われる間にも、細かい刻みで入札額が上がっていた。
「1200万っ」
オルヴィの凛とした声が辺りに響き渡る。
悔しげに唇を噛むリトリィへと隣に立つシビラがなにかを話しかけていた。おそらく助力を申し出られているのだろう。しかし、リトリィは諦めたように首を振っていた。
「1300万」
静まりかけた場に新たな声が登場した。
入札したのは……キノッツだ
オルヴィが険しい顔のまま口を閉じた。
価格的にはソレイユなら充分に出せる額だ。おそらく攻撃を受ける機会が比較的少ない後衛とあってか、オルヴィにとってはこれ以上の価値がないと判断したのだろう。
「1300万ジュリー、ほかにいないか!? ……それじゃ1300万で決まりだ」
突き出した互いのガマルたちが舌でジュリーを交換する。しっかりとジュリーが支払われたことを確認したのち、《ティターニア》シリーズの防具交換石を手渡した。
「着るのか?」
「アッシュがこれを着たノンを見たいっていうならちょっとは考えるかもね」
「考えるだけだろ」
「ふふんっ」
キノッツがどこか得意気な笑みを見せたのち、戻っていく。
同じギルドとあってリトリィのために購入したのかとも思ったが、あまり彼女はそういった人間には見えない。ただ自身の利益のためだけに動いているような気がする。
とはいえ、《ティターニア》シリーズは軽装やローブに適した防具だ。重装備のキノッツには不要なものだと思われるが……普段着にでもするのだろうか。
そんなことを考えつつ、アッシュは残りの属性石と武器交換石をセットでオークションにかけ、早々にオークションを終了。ジュリーはマスターを介して勢力ごとに分配した。
「それじゃこんなところか。今日はみんなおつかれ! すぐには湧かないだろうが……また機会があれば開こうと思う。そんときはまた参加してくれ!」
もちろん、といった声が満足気な顔とともにあちこちから返ってくる。初めての開催とあって不手際もたくさんあったが、おおむね好評だったようでなによりだ。
ふと、「アッシュ!」とルナから大きな声で名前を呼ばれた。
「あれあれ、あれ言わなくていいのっ!?」
「ああ、そうだ。このあと、俺んとこのログハウスで打ち上げをしようと思ってるんだが、よかったら来てくれ! 適当に酒やら料理やら買い込んで騒ぐだけだけどな!」
夜を迎える前に終われば開こう、と予め相談していたことだった。とはいえ、大型レア種との戦闘後だ。疲労の関係上、あまり参加する者はいないかもしれない。そう思っていたのだが――。
「おう、酒盛りか! もちろんいくぜ!」
「あんたたちは自分とこのギルドで飲んどきな」
「うるせえっ、酒あるところにレッドファングありだ!」
「アッシュ、アルビオンからは4人参加予定だ」
「ファミーユからは5人参加です!」
全員とはいかないようだが、予想以上に多くの者がきてくれるようだった。やる気を出すように、ルナがにっと笑う。
「これは急いで準備しないとね。クララ、ラピス。手伝ってくれる?」
「うん、もちろんっ。ラピスさん、いこっ」
「え、ええ」
そうしてクララがラピスの手を引いた、そのとき。
「わたくしも手伝いますわ」
「わ、わたしもっ」
オルヴィやリトリィを皮切りにほかの女性参加者もルナたちに合流。一足先に中央広場へと歩きだした。
そんな微笑ましい光景を目にしながら、アッシュは残った打ち上げ参加者に向かって叫ぶ。
「そんじゃ俺らは酒でも買いに行くか!」





