◆第三話『合同討伐へ向けて』
「さすがにいやがられるのも無理ないか」
「6個分の9等級武器、それも属性石全入れ替えだからね」
「しかもこれが初回じゃないしな」
アッシュはレオと苦笑しあいながら、開店したばかりの鍛冶屋から出てきた。後ろからはチームメンバーのクララとルナ、ラピスもついてきている。
合同討伐を明後日に控えているため、本日は主要装備の属性石を特効となる赤へと交換しにきたのだが……。
最近は各塔80階攻略していたこともあり、短期間で行った同程度の入れ替えは4度。そんな経緯もあって鍛冶屋のミルマからはむすっとした顔で「外で待っててくれ」と言われたところだった。
「ま、のんびり待ってようぜ」
鍛冶屋前のベンチを女性陣に譲り、アッシュは近場の花壇の縁に腰を下ろした。レオがすぐ隣に座ろうとしてきたので距離をとったのは言うまでもない。
クララが足をぷらぷらとさせながら、「それにしても」と空を見上げる。
「ヴァネッサさんとシビラさんたちが組むのかぁ。まったく想像できないかも」
「そもそもべつのギルド同士で組むってこと自体が珍しいしね」
そう口にしたのはルナだ。
たしかに大抵のチームは同ギルド内で組んでいる。
理由としては、やはりギルド内で利益を独占できることが大きいからだろう。これが混合であれば利益の取り合いになりかねない。
またギルドが違えば掲げた理念も違ってくる。そうした思想のズレから、そもそもチームを組むことが難しいといった点も挙げられるだろう。
「まだ決まったわけじゃないけどな。実際、どっちが主導権を握るかで一触即発って感じだったし」
「……その光景、容易に想像できるわ」
ラピスが呆れたように息をついた。
どうやら彼女から見たヴァネッサとシビラの相性は最悪のようだ。実際、衝突しているあたり間違いではないかもしれない。ただ、2人とよく話す身としては意外と悪くないのでは、という想いもあった。
……なにかきっかけでもあればいいんだけどな。
そんなことを思っていると、視界の端に少し興奮気味なレオの顔が映った。
「でも、もし本当に実現したらすごいチームになりそうだね」
「魔術師2人のところがどうなるかはわからないが……ドーリエもいるし、バランス的には悪くない。間違いなく80階は突破するだろうな」
「これは僕たちもうかうかしてられないね」
「ああ」
戦っているのは塔の頂までに立ちはだかる魔物たちだ。ほかの挑戦者ではない。ただ、先を越されたくないという感情が湧いて張り合いが出るのは間違いなかった。
「そのためにも確実に出たものを手に入れないとね」
言いながら、クララがベンチからすっくと立ち上がった。くるりと振り返り、胸の前に運んだ両手でぐっと拳を作る。
彼女の言うとおり、今度の合同討伐でレア品を手に入れられるかどうかが勝負だ。
元の予算が1500万。先日のレリック分を加えて2900万。そこに今日までの狩りで貯めた200万ジュリーを追加。合計3100万ジュリーとなった。
ほかはギルドごとで入札してくることを考えれば、決して安心とは言えない額だが……それでもいまできる範囲で集めたチームの資金だ。必要なレア品が出た際は、なんとか競り落とせると信じて挑むしかない。
「もう明後日ね」
ラピスがしみじみと言った。
上位陣が妖精郷の大型討伐に出ることは、いまや島中で話題となっている。心なしか中央広場が活気づいているように見えるのも、もしかするとそのせいかもしれない。
「そういえば、ルナ。赤だけでいくのか?」
「そのつもりだけど……?」
「もしもんときのために白弓を作って持ってったほうがよくないか? 昨日ちょうど1個出ただろ。あれを使ってさ」
「クララに使ってもらったほうがいいんじゃ」
いま、クララが使用中の9等級装備は2つ。
杖と《バースト》系に使っているリングだ。《インフェルノ》や《レイ》、《ウォール》など、ほかにも9等級に引き上げるべきものは多くあるが――。
「それは俺も考えたんだが、妖精って魔法の耐性高いだろ。しかも今回の相手は大型だ。耐性が高いどころか、効かない可能性も考えられる」
「え~、また魔法効かない敵なのっ」
「あくまで可能性だ」
嘆いたクララにそう告げつつ、アッシュはルナへの話を継ぐ。
「しかも妖精ならすばしっこい可能性も高い」
「なるほどね。たしかにそう考えると追尾する白の特殊は有効かも」
白の9等級弓の特殊攻撃は、対象に当たるまで追尾する。かなり執拗な追い方をするのでおそらく妖精がどれだけ素早い動きを見せても命中するはずだ。
「通常なら魔法用に回すところだが、今回の合同討伐が成功しなけりゃ有用な装備を手に入れられる可能性がなくなるからな」
「9等級の武器交換石はいつでも狙えるものね」
ラピスの言葉に、アッシュは「ああ」と頷いた。
余った1個の武器交換石をポーチから取り出し、ルナに差し出す。
「だから万全を期したいんだ」
「そういうことなら2本でいくよ」
ルナが武器交換石をつまみ、握りしめた。
「もう1本の弓は現地まで俺が持つ。どうせ道中は乱獲状態になりそうだしな」
「了解。じゃあ明日の狩りが終わったあとにでも交換しにこようかな」
そうルナが答えたときだった。
鍛冶屋の中から「終わったぞー!」と声が聞こえてきた。わずかに怒気が混ざっているように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。
レオが顔を引きつらせながら提案してくる。
「アッシュくん、今度なにか差し入れでも持っていこうか」
「……だな」
 





