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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【妖精大祭】第一章

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◆第四話『特別措置』

 その日の夕刻。

 チームで揃って中央広場へと繰り出したところ、すでにベヌスの館前には大勢の挑戦者が集まっていた。


 さすがにすべての挑戦者が集まっているわけではないようだが、それでも200人前後はいるだろうか。おかげでベヌスの館の入口がほとんど見えない。


「すごい数だな……」

「これだけ集まったところを見るのは僕も初めてだよ」


 古株のレオですら初めての経験らしい。

 本当にいったいどんな連絡なのか。

 想像がつかないこともあって好奇心だけが先行している感じだ。


 と、そばでクララがぴょんぴょんと跳ねはじめた。


「前っ、まったく見えないんだけどっ」

「抱っこでもするか?」

「い、いやだよ。子どもっぽいじゃん!」


 クララが頬を膨らましながら睨みつけてくる。

 そうして騒いでいたからか、周囲の挑戦者たちがこちらに目を向けた。途端、一気に辺りがざわつきはじめる。


「おい、アッシュチームだぞ」

「こんな近くで全員見るの初めてだ」

「場所、あけたほうがいいんじゃないか」


 あちこちから聞こえてくる小声。

 気づけば目の前に1本の道が出来ていた。


「お、なんか勝手にどいてくれたな」

「注目されるのは苦手だけど、これは助かるね」

「アッシュ、行きましょう」


 せっかくだからと周囲の挑戦者に見守られる中、前へと進む。途中、「レオに近づいたらやばいぞ」やら「女はアッシュに近づくな」なんて言葉も聞こえていたが……後者だけは気のせいだと思うことにした。


 前まで出ると、ほかの挑戦者の顔がよく見えた。

 べつの最前列に陣取っているのは大体が三大ギルドの幹部連中だ。同ギルドのメンバーたちも彼らの脇や後ろを固める形で集まっている。


 と、少し離れたところに立っていたソレイユのメンバーたちと目が合った。ヴァネッサを始めとして多様な反応を返してくれる。


 ばたん、と館の扉が開けられた。


「お、お待たせしましたっ」


 中から出てきたのはウルだった。

 多くの挑戦者を前に緊張しているようだ。

 視線を巡らせるなり身を縮めながら深呼吸をしている。


「事前にお伝えしたとおり、これからお知らせすることは塔の攻略に関することです」


 そう切り出してからは緊張が解れたか。

 ウルが流暢に話しはじめる。


「神アイティエルの意向により、ベヌスの館にて60階を突破した挑戦者のみ〝リセット〟を選択することが可能となりました」


 新たに出された要素。

 その言葉からも内容に大体の見当はつくが……。


「リセットとは、踏破印を1階に戻すことのできる特別措置です。当然ながら装備の等級も踏破印に準じたものとなりますのでご注意ください。また、すでに討伐したことのある主から戦利品がいっさい出ません。これはチームで討伐した際も同様です」


 その内容が説明された瞬間、周囲がざわついた。


 無理もない。


 突破した試練の階には2度と挑戦できない仕組みのため、これまで挑戦者たちの等級を合わせることが非常に難しかった。それがリセットを使用すれば簡単に等級を合わせることができるのだ。


 また1階から昇らなければならないが、選択する挑戦者は少なからず出てくるだろう。それほどまでに大きな変更だ。


 ただ、ひとつだけ気がかりなことがあった。


「おいっ! 7等級からってのはどういうことだよ!」

「そうだ、不公平だろ!」

「そ、それはっ……ですね……」

「ちゃんと説明しろよっ」


 予想どおり7等級未満の挑戦者から不満があふれていた。飛んでくる荒い声を一身に受けたウルがあたふたとしている。……とても黙って見ていられない。


 アッシュは周囲を見回しながら牽制するように言う。


「決めたのは神様なんだろ? ウルに言ってもしかたないだろ」

「……アッシュさん」


 いまでは最高の挑戦者チームとして名を挙げているからか。あるいは幾つかの事件を解決してきたという話が知られているからか。ウルへと向かっていた声は一瞬にして収まった。


「わたしが代わりに説明します」


 場が静まり返ったとき、凛とした声が響いてきた。

 挑戦者の間をすり抜けるようにして前へと出てきたのは《スカトリーゴ》の看板娘――アイリスだった。


 彼女はウルの隣に立ち、厳しい表情で話しはじめる。


「神アイティエルが望むのは塔の頂への到達……60階すら突破できない挑戦者にはチームを変更したところで頂に達する可能性はなく、手を差し伸べる意味はないとの判断です」


 あまりに容赦のない言葉だった。

 アイリスは睥睨しながら言う。


「まだ不服のある方はいらっしゃいますか?」


 島から追い出されるかもしれない。

 そんな威圧感がアイリスからひしひしと伝わってきている。

 文句を言っていた挑戦者たちも総じて悔しげに口を閉じていた。


「さあ、ウル」


 アイリスから声をかけられ、はっとしたウルが「は、はいっ」と応じた。


「お伝えすることは以上となります。もしこの場にいないお知り合いの方がいましたらお伝えしていただければ幸いです。……それではみなさん、今後も塔の頂を目指して頑張ってくださいっ」


 彼女の元気な声で解散となったが、相反して空気はどこか重かった。それでも少しずつ話し声が増え、気づいたときにはもとの騒がしさが戻っていた。


「これはいい流れだね、アッシュ」


 ルナが潜めた声で言ってきた。

 ああ、とアッシュは頷く。


「レリックほどリセットの際に役立つものはないからな。価値が跳ね上がる」


 これ以上ないというタイミングだ。

 予想しているよりもはるかに高額で売れるかもしれない。


 そうしてほかの挑戦者とは違った考えで高揚していた、そのとき。


 視界の端で、思いつめたような顔をする知り合いの挑戦者が目に入った。



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