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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【妖精大祭】第一章

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◆第三話『緊急連絡』

 ああ、とアッシュは力強く頷いて応じる。


「まだ誰も討伐できてないなら絶対にいるだろ」

「アルビオン、レッドファングともに一度失敗したって聞いてるよ。道中ですでに半壊状態だったって」


 しかもアルビオン、レッドファングともに主要なメンバーが脱退する前――相当な戦力があった頃の話だ。それでも失敗したというのだから、いかに苛烈な出迎えかがわかる。


 ルナが顎に指を当てながら難しい顔をする。


「もし挑むとしても人数的に厳しいかもね。それに等級的にもリッチキングより間違いなく強いだろうし」

「じゃあいっそほかのギルドも誘うか」


 ルナにきょとんとした顔をされた。

 見回せば、ほかのメンバーも同じような顔をしている。


「幸いでかいギルドとは知り合いだしな。話せばいけるだろ」

「たしかにアッシュが声をかければいけそうだけど……ほかのギルド同士があんまり仲が良くないのがね」

「でも以前ほどギクシャクしてない感じはあるね。きっとアルビオンが変わったことが大きな理由だろうけど」


 ルナの不安げな言葉に、レオがそう意見する。


 ニゲルが起こした事件によりアルビオンは人数を大幅に減らした。そのせいでいまや三大ギルド、と呼んでいいのかわからない規模になってしまったが……。


 代わりにギルドの空気が一新された。以前のように自分たちが勝手に作った秩序を強引に押しつけるようなことはせず、ただ島の安全を守ろうとしてくれている。


 そうした変化もあって以前ほどアルビオンを毛嫌いする挑戦者は減った。むしろ好意的にとらえる者も増え、いまではぽつぽつとメンバーも増えている。新たなマスターであるシビラの功績だ。


「ま、面白そうだしちょっとやってみないか」

「……アッシュくん、絶対それが一番の理由でしょ」

「よくわかってるな」


 呆れ気味に細めた目を向けてくるクララに、アッシュは得意気な笑みを返した。


 リッチキング戦のことを思い出せば決して簡単な相手ではないことは間違いなく、危険が伴うことは必至。だが、いまだ誰も討伐できていない、なんて言葉以上に心躍るものはない。


「ま、不安要素を挙げただけでボクも反対する気はないよ。天使を何千体狩るよりいい装備が出る可能性は高いし、いいんじゃないかな」


 難色を示していたように見えたルナからも快諾を得た。

 ほかのメンバーも賛成してくれるようだ。


「ただ、そうなると問題なのは資金ね」


 言って、ラピスがカップにそっと口をつけた。


「戦利品はオークションってことになるだろうしな。個人的にはメンバーの誰かに有用そうな装備があったらチームで買うってことにしたいんだが、構わないか?」


 もちろん、と全員が頷く。


「ただ個人で負担するようなことはあまりしたくない。全員が余裕ある範囲で同じ額ってなるといくらぐらい出せるのか知っておきたいんだが……よければ所持金を教えてもらえないか?」

「じゃあ、たぶんいま一番所持金が少ないボクから。370万ジュリーぐらいだね」

「あたしは……420万ですっ」


 ルナに次いで所持金を口にするクララ。彼女に両手で突き出されたガマルが相変わらずの間抜け声をあげ、舌を伸ばしている。


「俺は大体450万だ」

「わたしは1100万ぐらい」

「僕は2800万だったかな」


 ラピスに続いて明かされたレオの所持金。ラピスに関しては大体予想どおりだが、レオのものは予想を遥かに上回るものだった。


 アッシュは思わず目を見開いてしまう。


「前にベルグルシネックレスを買ったのに、まだそんなにあるのか」

「これでも古株だからね。といっても僕以上に持ってる人はいるけれど」

「そんな奴いるのか」

「たぶんアッシュくんも見たことがある挑戦者だよ」


 この言い方だとさして親しい人間ではなさそうだ。

 ただ、三大ギルド以外となるとまるで予想がつかなかった。


「ま、とりあえずひとり300万ジュリーぐらいか」

「5人で1500万だと少し不安ね……って、べつにルナのことを悪くいったわけじゃないから」

「うん、わかってるから大丈夫だよ」


 慌てるラピスに、ルナが優しく微笑み返す。


 以前、ルナは自身の実力不足からオーバーエンチャントに何度も挑戦し、所持金を一気に失くしたことがあった。所持金がもっとも少ないのはそうした経緯があってのことだ。


「ほかの上位陣たちは1000万ぐらい持ってるだろうから、本当にいい装備が出れば2000万は軽く超えるかもね」


 うーん、と難しい顔で唸ったのち、レオが話を継ぐ。


「アッシュくんは嫌がるだろうけど、チームのためになるなら僕は喜んで自分のジュリーを出すつもりだよ。そもそも塔を昇るために貯めたジュリーだからね」

「レオさんの場合、お酒のためも入ってるんじゃ……」

「ク、クララくんっ、それはいまは言わないでおくれっ」


 レオが乾いた笑みを浮かべつつ、こほんと咳をした。


「ま、まあ……アッシュくんがお金のために僕を仲間にしたわけじゃないってことはわかってるから。大丈夫だよ」

「わたしもべつに構わないわ。っていうか遠慮されるほうがいや」


 レオの真摯な言葉に、ラピスの真っ直ぐな言葉。

 2人がべつのところで貯めたジュリーを使うのはズルではないかという思いがあったが、ここまで言われると断れはしない。


「……わかった。ひとつの手段として考えておく。ただ、規模が規模だ。たぶんすぐには討伐には乗り出せないだろうから、並行して資金繰りもしていこう」

「いまの戦力で狩れるだけのレア種を狩って戦利品を売るのが一番でしょうね」

「ああ、あとひとつ相談がある」


 ラピスの意見に頷いたのち、アッシュはクララとルナのほうを見やった。2人が首を傾げる中、腰裏のスティレットをさする。それは最近までずっと持ち歩いていたレリックではなく通常の交換石から変換したものだ。


「……レリックを売らないか?」


 いまや武器は9等級。レリックと同じく属性石も確定で9個装着できる。そのうえ武器の質も高いため、レリックを使用する利点がない。それなら売って資金にしたほうが今後に役立つはずだ、との決断だった。


「あたしはまったく問題ないよ。チームのためになるし」

「ボクも売るのは構わないけど、でもどうやって売るつもり? 委託販売所はすでに変換し終わった武器は売れないはずだけど」

「それなんだが、オークションを考えてる」


 いずれ使わなくなるだろうレリックをどうするか。

 以前から考えていたことだが、これが一番だと思った。

 レオが眉根を下げながら訊いてくる。


「もしかして自前で開くのかい? 大変そうだけど……」

「そこはミルマ主導でやってもらえるように頼み込む。ついでにほかの品も出す感じでやれば島も活気づくだろうし、たぶん賛成してくれるだろ」

「なるほど、たしかにそれは盛り上がりそうだね。みんな売れない装備とかたくさんあるだろうし、オーバーエンチャント品を売って儲ける人も出てきそうだ」


 スティレットは少し特殊な武器だが、それでも3等級から9等級の属性攻撃を使えるとあって需要は高いはずだ。賑わって人が集まれば集まるほど価格も上がるに違いない。


 そうしてオークションについて話していたとき、こんこんとログハウスの扉が小突かれた。


「あたしが出てくるっ」


 たたたっとクララが扉のほうへ走っていく。

 場所が場所なだけに予定のない来客は珍しい。

 いったい誰だろうか。


 相手がわからないことを直前で気づいたのか、恐る恐る扉を開けはじめるクララ。ただ来客が見知った人物だったからか、途中で顔を綻ばせ、一気に扉を開け放った。


「ウルさん、こんにちはっ」

「こんにちはです、クララさんっ。みなさんもこんにちはですっ」


 招かれて姿を見せたウルが、いつもの屈託のない笑みを向けてきた。手を上げて応じていると、ラピスがぼそりと一言。


「まるで見計らったかのようなタイミングね」

「ほんとちょうどいいところだ。なあ、ウル。ちょっと相談が――」

「って、そうです! みなさんにご連絡ですっ」


 こちらの声を遮るようにウルが声を張り上げた。

 真剣な顔からしてなにやら重要な話のようだ。


 全員に見守られる中、もったいぶるように一拍置いてから彼女は言う。


「今日の夕方、塔の攻略に関してお知らせがありますので中央広場……ベヌスさまの館前にお集まりくださいっ」



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