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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【光輝なる軌跡】第二章

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◆第三話『さらなる奥へ』

 ルナの矢によって凍結した天使の顔面。続く形でアッシュは体を横に開いた。右手に持ったスティレットを突き出し、即座に引く。


 と、切っ先から青色に輝く光の笠(ピアシングショット)が撃ちだされた。それは命中した鼻先から根のようにヒビを広げると、天使の頭部を派手に破砕する。


 仰け反るように倒れはじめた天使。すでに消滅は始まっていたが、追い討ちとばかりにラピスによって振られた槍が、その胴体を上下真っ二つに引き裂いた。


 いま倒れた天使が1部屋目最後の剣型天使だった。

 待っていたとばかりにレオが1部屋目に駆け込んでいく。


「行くよ! クララくん、ルナくん!」


 レオと後衛組による弓型排除が始まった。

 魔法と矢の激しい衝突音が響きはじめる。


「……いままで一番早いわね」

「さすがに全員の武器等級が上がっただけあるな」


 通路前で待機中、アッシュはラピスとともに成長を噛みしめていた。


 赤の塔81階で狩りはじめてから約30日。


 クエストを3周し、報酬で9等級の武器交換石を3個獲得。その最中、運よく敵が落としたものが2個。あわせて5個。気の遠くなるような数の天使を狩ったこともあり、ようやく全員に9等級の武器交換石が行き渡った形だ。


 クララが等級を上げたのは《フロストバースト》を装備したリング。そのおかげで弓型を倒すのに必要な攻撃数が3発から2発に減り、殲滅時間も大幅に短縮できていた。


「アッシュ、ラピス!」


 聞こえてきたルナの合図。

 アッシュはラピスとともに中へと踏み込む。


 すでにレオは2部屋目に至る通路へと入っていた。


 以前までは部屋に入ってからわずかな時間で剣型の天使が湧きなおしていた。だが、今回はまだ湧く気配はない。


「いまのうちにできるだけ槍を倒すぞ! 湧きなおしが始まったら剣型は俺とクララで当たる! いいな!?」

「う、うんっ」


 指示を出す最中、クララと視線が交差する。

 が、慌てたように目をそらされてしまった。


 その挙動にわずかなもやが胸中に生まれたが、前方から聞こえてきた凄まじい衝撃音に意識が引き戻された。


 先ほど2部屋目に侵入したレオが弾き出されていた。

 追って飛び出てきたのは槍型の天使。

 重量級のランスを得物とする敵だ。


 以前までは距離をあければ9等級の槍が持つ特殊攻撃――足場を覆い尽くす炎を繰り出してきたが、今回は放つことなく距離をつめてきていた。レオの盾と敵の槍がまたも衝突、腹に響くような衝突音を響かせる。


「属性攻撃を撃たれないのは最高だねっ」


 再び距離があいても槍型は特殊攻撃を放ってこない。

 すべては9等級となったレオの盾による能力だった。


 レオの盾は等級が上がったことで硬度を確保する必要がなくなり、9個の穴すべてを青の属性石に戻していた。


 そうすることで発動した特殊効果が、接触した敵の得物を一定時間凍結。その間、属性攻撃を使用不可とするものだった。


 派手な能力ではない。

 ただ、属性攻撃を多用する天使相手には抜群の効果を発揮する能力だ。


 レオの弾かれ具合からしても、その攻撃力が剣型を遥かに上回ることは間違いない。だが、長物とあってか攻撃速度は剣型に劣っている。


 初戦こそ面食らったが、接近戦では剣型よりも戦いやすかった。レオが釣り出してきた敵を1体ずつ、確実に仕留めていく。そのまま流れるような戦闘で7体目の槍型を倒した、直後。


 後方からルナの《レイジングアロー》独特の衝突音が聞こえてきた。


「アッシュ、湧きなおし!」


 振り返った先、壁際で剣型の天使が倒れていた。

 すでに1体目はルナが処理してくれたようだ。


 予定どおりアッシュはすぐさま後退。剣型の天使が湧きなおすたびに接近し、標的を自身に固定せんと攻撃を繰り出していく。


 スティレットが9等級に上がったことで天使の体を削りやすくなった。だが、それでも魔法のほうが火力は圧倒的に高い。《フロストバースト》が当たるたびに敵がクララへと向かおうとする。


 アッシュは間に割って入るように位置を修正しながら声を張り上げる。


「クララ、もう少し1発目を遅めでもいい!」

「ご、ごめんっ」


 これまでもあったやり取りだ。

 なにもおかしくはない。

 だが、どこかぎこちない感覚がついて回った。


「アッシュくん、2部屋目の槍型、殲滅完了だ!」


 3体目の剣型と戦闘中、レオの叫び声が響き渡った。

 アッシュは敵の剣を躱しながら指示を飛ばす。


「よし、クララとルナはレオと次の部屋の弓型を! ラピスは俺とここで湧きなおした剣型を! 時間はないぞ! 急いでくれ!」


 クララとラピスが入れ替わるようにして交差する。

 アッシュは合流したラピスとともに湧きなおした剣型を排除していく。その最中、レオと後衛組は次の部屋の弓型の排除に当たる。


「殲滅完了だ! アッシュ、ラピス!」

「こっちは12体目! そろそろ弓が湧く! 入れ替えだ!」


 アッシュはラピスと揃って2部屋目に飛び込むようにして入った。入れ替わる形で1部屋目側に戻ったレオに続いて、クララとルナが湧きなおした弓型の殲滅へと再び移る。


 すでに2部屋目では槍型の湧きなおしが始まっていた。背後から後衛組の攻撃音が聞こえる中、アッシュはラピスと2人で槍型の排除に当たる。


 倒してもすぐに次の湧きなおしが出現する。処理が少しでも遅れれば一気に瓦解する窮屈な状況。まだかまだかと待っていたルナの声がようやく飛んでくる。


「1部屋目の弓型、排除完了だ!」


 これでどうにか退路は確保できた。

 となればあとは――。


「レオ、3部屋目の確認を頼む!」

「了解だ!」


 レオが3部屋目の確認に向かう中、残った4人で湧きなおす槍型をすぐさま処理していく。間もなくして、3部屋目の確認を終えたレオがあっさりと戻ってくる。


「矢が飛んできたけど2本だけだ! おそらく近くに近接型はいない! あとこれまでと違って中は狭いと思う!」


 1、2部屋目と比べて敵の数は少ないようだ。

 だが、もたらされた情報からではまだ進むかどうかを判断しにくい。


「ラピス、頼めるか!?」

「ええ、任せてっ」


 アッシュは前衛をラピスひとりに任せ、盾を構えたレオに続いて3部屋目へと踏み込む。


 たしかにこれまでより飛んでくる矢の本数が少ないようだ。少々、拍子抜けな衝突音が鳴っている。敵の正確な数、位置はどうなっているのか。また部屋はどんな構造か。確認しようとするが、顔を出すには少し隙間が足りなかった。


「レオ、もう少し前に出られるか!?」

「了解っ、ゆっくりいくよ!」


 矢が後ろに抜けないよう慎重に位置を選びながらレオが前へと出た。


 アッシュは矢が飛んできた直後を見計らって顔を出す。


 中はレオの予想どおり箱型の狭い部屋だった。

 上方へと伸び、隙間を埋めるように折り返し階段が設けられている。


 その先を辿るように視線を上げていく。と、踊り場に到達したところでこちらの額目がけて矢が飛んできた。アッシュは慌てて頭を引っ込める。


「折り返し階段があって段数は11。弓2体は最初の踊り場だ!」

「次の踊り場にもいる可能性は高いね……どうする、アッシュくんっ」


 狭いこともあり、敵が布陣するにも限界がある。

 いたとしてもせいぜい1、2体だろう。


「……引くような数じゃないな」

「ははっ、そう言うと思ってたよ!」


 レオが楽しそうに笑うと、わずかに腰を落とした。

 準備万端といった様子で肩越しに振り返ってくる。


 アッシュは勝ち気に笑み返し、応えるように叫ぶ。


「話が早くて助かる! 次の踊り場を警戒しつつ距離を詰めてくれ!」



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