◆第十話『待ち構える矢』
先の言葉には若干の挑戦的な意気込みも混ぜていた。
だがその後、一旦完全に湧きなおしをさせてから戦闘を再開。多少の無茶はしたものの、12体の剣型の天使を素早く排除することに成功した。
レオが通路に足を踏み入れながら振り返って叫ぶ。
「近接の天使はもういないみたいだ! アッシュくん!」
「頼む!」
アッシュはレオのあとを追って通路へと駆け込む。
次の部屋内の様子がわからなければ攻略もできない。とはいえ、踏み入れば多くの矢に迎えられる非常に危険な場所のため、レオの盾に隠れる格好で代表して確認することにしたのだ。
レオが部屋へと飛び出したようだ。
矢が盾に当たった音が前方から聞こえてくる。
「少しだけ前に出るよ! その間に確認を!」
矢はやむことなく射られているようだ。なおも凄まじい衝突音が響いている。レオが自身の体を盾に隠しながら1歩前へと歩み出た。
アッシュはレオの背後にぴたりとつき、わずかな隙間を通じて部屋の中を確認する。と、思わず乾いた笑いをもらしてしまった。
「これは……思った以上だな……っ」
高さはちょうど大の大人2人分といったぐらいか。部屋の奥まで両側の壁沿いに設けられた足場――そこにずらりと弓型の天使が並んでいた。
飛んでくる矢の数から少なくない数がいるだろうとは予想していた。だが、まさかその数だけ待っているとは思いもしなかった。
片側10体ずつ。
合計20体の弓型の天使が待ち構えていた。
◆◆◆◆◆
「まさか本当に20体もいたとはね」
「しかも高所からだと、わたしとアッシュの攻撃参加は難しいわね」
剣型の湧きなおしを警戒し、アッシュはレオとともに早々と後退。入口の広間で休憩がてら仲間と作戦を練っていた。
「ただ、幸いなのは攻撃しても動かなかったことだな」
「僕が敵の矢を受けさえすれば、クララとルナくんが攻撃をしつづけられるね」
「っても近接型がすぐに湧きなおすからな。そう時間はない」
「さっきの感じだと、剣型を3体倒すのと同じぐらいの時間しかなかったね」
「ああ。だからまともに1体ずつ倒してたら絶対に間に合わない」
まさしく後衛の火力にかかっているわけだ。
と、クララが難しそうな顔をしていた。
「20体……無理すれば一気に《フロストバースト》を撃てるけど……」
「無理してってまた倒れるつもりか」
「うぐっ……」
以前、この広場で倒れたときのことを思い出したか。
ばつが悪そうにクララが身を縮めた。
アッシュは嘆息しつつ忠告する。
「前に言ったとおり同時に使っていいのは15発までだ。あと、おそらく1発じゃ沈まないから繰り返すことになるだろうが、次に撃っていいのは魔力が完全に回復してからだからな。いいか、絶対だぞ」
「う、うん。そんなに言わなくても大丈夫だよ」
本当か、とアッシュは問い返そうとして口をつぐんだ。
いまだにクララは危なっかしいところがある。
戦闘中に回避が遅れたり、こけたりなんてことも少なくない。そうした場面を何度も見ているからか、どうしても不安な気持ちが心の隅にあった。
ただ、それでもともに塔を昇ってきたのだ。
仲間として信頼するべきだと思った。
そんなこちらの心境を知ってか知らでか。
ルナが生まれた間を消すように話しはじめる。
「とりあえず5体ぐらいならボクだけでも充分に倒せると思う。いまは属性矢の特殊効果もあるしね。いざとなったら《レイジングアロー》を使うって手も」
「いや、それは温存しておいてほしい」
アッシュはすかさず待ったをかけた。
ルナが訝るような目を向けてくる。
「……なにか考えでもあるの?」
「部屋内を一掃するだけなら使っても問題ないんだけどな。次の部屋に進む際、安全に狩れる場所があるかどうか確認する必要があるだろ」
「あ~……確認するまでの間、湧きなおした近接型を素早く倒せるようにってことだね」
「そういうことだ。だから仮に上手く弓型を排除できても次の――2部屋目の確認が済むまでは進むつもりはない」
「ほんと、9等級階層に入ってから慎重だね」
「さすがに相手が相手だからな」
8等級階層までも決して易しいわけではなかったが、9等級階層の前ではどうしてもかすんでしまう。それほどまでに立ちはだかる天使たちは強く、またひとつの部隊として完成されていた。
レオが左手に持った盾を軽く持ち上げる。
「それじゃ、また僕の出番かな」
「頼む。ただ、無理に正面を確認する必要はないからな。敵がいるかどうか、矢が飛んでくるかどうかだけ確認できればいい」
「了解」
もし2部屋目に敵がいなければ安心して進むことができる。そこを狩場として引き狩りが再現でき、次の部屋を攻略することも、また引き返すことも可能だからだ。
だが、もし敵がいた場合――。
引き狩りが必須の現状、さらに殲滅速度を早める必要がある。そうして1部屋目を完全に安全地帯とし、引き狩りを再現するしかない。
つまり装備のさらなる強化が必要になってくるわけだ。
アッシュは首を振って立ち上がった。
判明する前からあれこれと考えてもしかたない。
いまはなによりも1部屋目の攻略に集中するべきだ。
「ひとまずこんなところか」
仲間たちも立ち上がった。
全員が準備万端といった様子だ。
アッシュは軽く体を動かしてほぐしたのち、スティレットとソードブレイカーを抜いた。いまや見飽きた門を横目に見つつ、配置につく。
「そんじゃ1部屋目の攻略、今日中にケリをつけるとするか……!」





