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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【覚醒の矢】第一章

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◆第五話『青の塔78階』

 拳程度の氷刃を無数に含んだ猛烈な吹雪が正面から襲いかかってきた。アッシュは右方へと身を投げ、間一髪のところで回避する。


 顔をあげると、大口を開けて吹雪を吐いている地竜が映り込んだ。その鱗はくすんだ青で彩られ、塔の特色を余すことなく表している。


 ――青の塔77階。

 地竜が4頭並んでもとおれる程度の幅広通路の中、アッシュは仲間とともに敵と交戦していた。


 敵は2頭の地竜。


 1頭は眼前にいるが、もう1頭は通路のさらに奥。

 奥の1頭はいまもレオがひとりで受け持ってくれている。


 ただ、さすがのレオでも竜種相手では余裕はない。

 眼前の地竜を素早く処理する必要がある。


 眼前の地竜によるブレスが止み、その口が閉じられようとしていた。そこへ緑の風をまとったルナの矢が1本。また1本と入れられ、地竜がわめくように鳴き声をあげた。


 地竜がその場でたたらを踏んで暴れる中、アッシュは側面から接近せんと駆ける。敵を挟んだ向こう側からはラピスも向かってきていた。


 アッシュはハンマーアックスの刃側を、ラピスはウィングドスピアで虚空を一閃。生成した緑の斬撃に続いての2連撃を両側から見舞った。敵が頭部を跳ね上げて慟哭に近い咆哮をあげる。


 そんな敵に猛然と迫るものがあった。

 ばちばちと炸裂音を鳴らす球体。

 クララによって放たれた《ライトニングバースト》だ。


 8等級の腕輪となってその威力は属性石7個分。

 いまや地竜の頭部に匹敵する大きさとなり、その威力も相応に増加していた。


 衝突と同時に《ライトニングバースト》はカッと辺りに閃光を走らせた。炸裂音が止み、入れ替わるように耳をつんざかんばかりの轟音が鳴り響く。まるで共鳴するかのように地竜がけたたましい声をあげ、痙攣したように体を震わす。


 瞬きするうちにその巨躯を持ち上げていたたくましい四足が折れた。ずしんと重い音を鳴らし、敵は腹を地面につけると、その姿をジュリーへと変換させる。


 クララの《ライトニングバースト》が命中したと同時に、アッシュはラピスとともに駆け出していた。向かう先はレオが相手にする地竜だ。脇からはルナの矢が追い越し、残った地竜へと攻撃をしかけている。


 視界の中、レオは右手側の壁を背にして敵と対峙していた。

 偶然ではなく、ブレスがほかの仲間に向かないようにするためだ。と、ちょうど敵が口を大きく開き、ブレスを吐きはじめた。猛烈な白の奔流がレオへと襲いかかる。


 ――急がなければ。

 アッシュはラピスとほぼ同時に速度を上げる。


「3発だ! ラピス!」

「わたしが先に行く……!」


 敏捷性向上の《フェアリーシリーズ》の効果もあってラピスが先に到達し、敵の右側面へと槍を勢いのまま突き刺した。彼女は追撃をしかけることなく即座に槍を引き抜き、後退する。


 入れ替わる形でアッシュは先ほどラピスがあけた穴をほじるようにしてアックスを突き込んだ。さらにえぐるようにして鱗を剥がす。ぱっくりと傷口が開き、赤々とした肉が顔を出す。


 アッシュは体を横回転させながら得物を引き抜いた。再びラピスと場所を入れ替えると、すでに繰り出されていた彼女の槍が敵の肉に深々と突き刺さる。


 生々しい刺突音が鳴った直後、地竜が慟哭をあげた。その口から放たれていたブレスが勢いをなくし、ついに完全に止んだとき。地竜もまたその活動の終わりを迎えた。


「無事か、レオ!?」


 ブレスによって生まれた白い霧が晴れると、ようやくレオの姿が露になった。彼は鼻水を垂らし、両掌を前に突き出しながらこちらに迫ってくる。


「手が、手がかじかむよ~! アッシュくん、温め――って、避けるなんてひどいじゃないか!」

「その尻に向かいだした手をどうにかしてから抗議してくれ」


 見たところ寒そうなだけで傷もない。

 とりあえず無事なことはたしかなようだ。


「しかし、あのブレスをもろに食らっても無事っていまでも信じられないな」

「まあ、さすがに肌は寒さでひりひりするけどね。でも、戦闘に支障がでるほどじゃないかな。これも《ベルグリシネックレス》のおかげだよ」


 レオが誇るように胸元をとんとんと右掌で叩いた。


 鎧に隠れていまは見えないが、そこには以前、合同で討伐したベルグリシから得た《ベルグリシネックレス》がさげられている。その効果は緑の属性石4個分の耐性増加。


 レオは金にものを言わせて各種塔にあわせて《レガリア》シリーズの重鎧を揃えている。今回は4部位すべての穴に緑の属性石を装着していることもあり、竜のブレスも大幅に軽減できているようだった。


「後ろ、湧きはじめてるみたいだ!」

「急がないとまずいかも~っ!」


 そんな声をあげながら、後方からルナとクララが焦った様子で走ってきた。


 彼女たちの後ろのほうに目を向けても敵の姿は見えない。ただちに襲われる心配はなさそうだが、もたもたしているとまた戦闘になるかもしれない。


「ってことだ。先を急ごう」


 後衛組と合流し、通路の奥へと走って進んでいく。

 アッシュは最後尾につけながらルナの背中をじっと見やる。


 2日前、精神的に不安定だった彼女だが、いまはとても落ちついている。今回の狩りでも失敗はないどころか、その質は普段どおりだ。全体を広く見渡し、かゆいとこにも手が届くような活躍を見せてくれている。


 少しでも彼女の気晴らしになればと思い先日は1日付き合ったが、その効果が少しでもあったのだろうか。だとしたら本当によかった。


 そうしてひとり安堵していると、前方に通路の終わりが見えてきた。まるで滝のような、水を打つ激しい音が聞こえてきている。


「止まって」


 通路を出る直前、先頭を走っていたレオが急停止した。

 後方に止まるようにと機敏な動きで左手を横に伸ばす。


 クララを除いた全員がすぐに足を止めたが、クララだけがこけそうになりながらレオのすぐそばまで行ってしまう。その彼女が通路先の空間を見た瞬間、圧倒されたように驚愕の声をもらした。


「な、なにここ……っ」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
(公式ページは↓の画像クリックでどうぞ)
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