◆第三話『ウィグナーの決意』
なにやら込み入った話になりそうなので《スカトリーゴ》に腰を落ちつけることにした。昼食時には少し遅い時間とあってか、客は少ない。代わりに食器を片付けているミルマの姿が多く見られた。
4人でテーブルを囲んで座るなり、ウィグナーが申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にいきなりですみません……」
「気にしないでくれ。それより詳しい話を聞かせてくれないか?」
はい、と頷いたウィグナーがゆっくりと話しはじめる。
「レオさんを含むわたしたちのチームの到達階についてはご存知でしょうか」
「たしか全部70階の試練の間まで行ってるんだよな」
次に8等級に到達するチームとして島にきて間もない頃からよく耳にしていた。結局、元アルビオンのナクルダールたちが先行したが、それでも高い評価は変わらない。
「ギルドのもう1つのチームも60階を突破してるし、レオさんのところってすごいよね。少数精鋭って感じで」
「だね。質なら三大ギルドにも引けはとらなさそうだ」
クララとルナが少し興奮したようにそう続ける。
そんな話を聞いて、ウィグナーは少し困ったように笑っていた。
「ギルドを褒めてもらえるのは嬉しいのですが、実はそうでもないんです。わたしたちの多くは5等級……高く見ても6等級程度の力しかありませんから」
クララが混乱したように首を傾げる。
「え、どういうこと? みんな7等級なんじゃ……?」
「すべてレオさんの力があってこそなんです。あの人がいたから7等級にまで辿りつくことができたんです」
ウィグナーが力強くも、どこかばつが悪そうに答えた。
試練の間は突破すれば二度と入ることはできない。
そんな中、ギルド《ファミーユ》の在籍数は9人。
レオは片方のチームでしか参加できないが……。
的確な攻略法を編み出し提供することで試練の間の難度を大幅に下げることは可能だ。また通常階で雑魚を乱獲したり、レア種の討伐などで資金と装備を充実させることもできる。おそらく、そうしてギルドのメンバー全員を7等級まで引き上げたのだろう。
「ただ、それも70階が限界でした。立ちはだかる主はこれまでとは比べ物にならないほど強大で……レオさんに頼りきりだったわたしたちでは、どう頑張っても敵う相手ではなかったんです。何度か挑戦はしましたが、散々な結果に終わり……そしてついに」
ウィグナーは俯き、下唇を噛みながらその言葉を発する。
「わたしたちは70階の攻略を諦めました」
簡単な決断ではなかったことが痛いほど伝わってきた。
散々な結果とぼかしてはいるが、あのように絶望するほどだ。おそらく言葉にはできないほどの被害があったのかもしれない。
クララとルナが強張った様子で息を呑んでいた。
アッシュは表情を崩さずに問いかける。
「レオもか?」
「しかたないよ、と……誰を責めることなくいつもの笑顔で言ってくれました。そして、無理に突破する必要はない、とも。ですが――」
ウィグナーは体を震わせながら組んだ両手をぐっと握りしめた。
「あの人は7等級でくすぶっていい人じゃないんです……もっと……それこそ塔の頂にまで届く力を持った人だとわたしは思っています……!」
彼自身が抱く悔しさも混じってか。
とても力のこもった言葉だった。
なるほどな、とアッシュは静かに息を吐いた。いつの間にか緊張していた体から力を抜いたのち、もっとも気になっていた疑問を口にする。
「事情はわかった。けど、どうして俺たちに?」
「最近、一番勢いのあるチームですし、なによりレオさんがあなたたちのことを話すとき、とても楽しそうなので……あなた方なら、と」
いつも笑顔の絶えないレオのことだ。誰と接するときでも楽しんでいるのでは、と思わなくもないが、もっとも身近にいる者の言葉だ。きっと間違いないのだろう。
ルナが顎に手を当てながら質問する。
「もしかしてベルグリシの討伐って……」
「はい。実は僕たちの気持ちを区切るためでもあります。レオさんとチームを組んで戦う、最後の思い出として」
どうしてこのタイミングなのかと疑問に思っていたが、ようやく納得できた。ただ、肝心なことが語られていない。
「この話はレオにしてるのか?」
「いえ。知っているのはレオさんを除いたメンバーだけです」
「じゃあ、仮に誘ったとしても断られる可能性もあるってわけか」
「そう……なりますね。本当にすみません。確証もなく、このようなお願いをして」
レオは義理堅い男だ。ギルドメンバーを差し置いて、自分だけが上を目指すなんて選択を簡単にするとは思えない。そもそもチームに誘うかどうかも決めていない状況だ。
「ひとまず返事については待ってもらえないか。こっちも仲間同士で話したいしな」
「もちろんです。どれだけ繊細な問題かは、わたしもわかっているつもりですから」
レオとは上手く付き合えているが、あくまでそれは日常での話。戦闘が絡むチームとして上手く付き合えるかどうかはまたべつの話だ。
「とりあえずはベルグリシの討伐だな。レオの話はそれからだ」
そう締めくくったとき、隣から「きゅぅ」と可愛らしい音が聞こえてきた。見れば、クララが顔を真っ赤にしながら腹を押さえていた。
「あと、腹ごしらえだな」
「……うぅ、お願いします」





