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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【精霊の泉】第一章
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◆第十四話『青の属性石を求めて』

 小部屋に入った途端、一斉に襲いかかってくる4体のゴブリンファイター。それらをスティレットを用いてさばききると、細かくも鋭い牙を覗かせた魔物が飛びかかってきた。


 魚の身体に手足が生えた魔物――サハギンだ。その肉体を覆う鱗を煌かせながら、手にしたフォーク状の槍を勢いよく突き出してくる。


 アッシュはとっさにソードブレイカーで槍を受けると、上へと持ち上げた。そのまま懐へと潜り込み、サハギンの柔らかな腹をスティレットで一突きする。


 槍から手を離したサハギンが後ろへばたりと倒れた。

 部屋に転がったすべての死体が音もなく消えていく。


「相変わらず安全な部屋がないな」


 息をつきながら武器を収めると、クララが遅れて小部屋に入ってきた。

 なにやら綺麗に片付いた小部屋の中を見ながら呆けている。


「アッシュくんって、やっぱりすごかったんだね……」

「いきなりどうしたんだ?」

「だってもう6階だよ。普通、こんな早く昇れないよ」


 いま、昇っているのは青の塔だ。

 赤の塔とは違い、周囲の壁が青い。

 水を連想させる色だからか、ほんのり涼しく感じる。


 魔物はサハギンのように初見の種もいるが、そうではないものもいる。ゴブリンとダイアウルフだ。おそらくそれら2種は、1等級の階層ではすべての塔に共通して出現する魔物なのだろう。


 とはいえ、氷矢を撃ってきたり氷の息を吐いてきたりと塔の属性にちなんだ攻撃をしてくるので完全に同じとは言えないが。


「……もしかして暗殺とかやってたり?」


 クララがスティレットを見ながら訊いてきた。

 地域によっては短剣は暗殺者の象徴とされているからだろう。


「安心してくれ。人殺しはしない主義だ」


 そう返答した直後、クララの背後――部屋の入口にサハギンが槍を構えながら飛びだしてきた。アッシュは即座に鞭を手に取り、槍を弾いた。そのままサハギンへと飛びかかり、その胸へとスティレットを突き刺す。


 サハギンが消えゆく中、アッシュは振り返って肩をすくめる。


「魔物は遠慮なく殺るけどな」

「あ、ありがと」


 若干引いたように苦笑いを浮かべるクララだったが、なにやらはっとなった。


「そこ、血が出てる」


 言われるまで気づかなかったが、右手の甲に切り傷ができていた。

 サハギンの鱗に触れたときにでも切れたのだろう。


 いずれにせよ傷は浅い。

 放置しても問題ないが、クララはそう思わなかったらしい。

 杖をかざし、ヒールで傷口を塞いでくれる。


「悪いな。でも魔力のほうは大丈夫なのか? 結構使ってるだろ」

「うん、問題ないよ。っていうかむしろ有り余ってるぐらい」


 魔法を発動するためには世界に満ちる魔力が必要となる。

 これは人によって内包できる量が違い、その多さによって魔法の向き不向きが決まる。使える魔力が多ければ強力な魔法を使えるし、魔法を使える回数も増える。


 魔力は時間によって回復はするが、その量は微々たるものなので一度の戦闘で無限に使えるわけではない。そして魔力は生命力と強く結びついているため、枯渇しそうになれば一目でわかるのだが……。


 クララにその様子はまったくない。

 それどころかピンピンしているぐらいだ。

 もしかすると常人よりも使える魔力がかなり多いのかもしれない。


「でも、あたしのヒール、効果が薄いからあんまり頼りにされても困るからね」


 そう言われて、アッシュはある疑問が湧いた。


「気になってたんだが、ジュラル島の魔法ってどういう風に発動する仕組みなんだ? 外の魔法とはまた違うんだろ」


 本来、魔法は長い年月をかけて修行することで習得するものだ。

 親から子に受け継がれていく《血統技術》と呼ばれる例外の魔法はあるが、それ以外では魔法を使える者は少ない。おかげで魔術師や治癒師は稀少な存在とされている。


 そんな事情がある中、クララは魔法を使えるのは杖のおかげと言っていた。


「えっとね、特定の魔法を発動できる魔石っていうものがあって。これを指定の道具に埋め込むことで発動できるの。治癒系の魔法なら杖、攻撃系の魔法なら腕輪、補助系の魔法なら指輪、みたいな感じで」

「……聞いただけでも色んな種類の魔法がありそうだな」

「うん、かなり多いって聞くよ。塔だけでなく階層ごとに落ちる魔石が違ってるから、集めるのも大変みたい」

「みたいってまるで他人事だな」

「だってあたし、ヒールの魔石しか持ってないんだもん……」


 クララは恥ずかしがりながらボソボソと零した。


「ヒールってことは、やっぱイメージ的に白の塔か?」

「うん、それも運よく一体目でね。すごいでしょーっ」


 クララは得意気な顔でピースをする。

 詳しい確率は知らないが、きっと凄まじく幸運なことだったのだろう。


「そういや強化石と一緒で魔石も同じのを埋め込めば威力が上がるのか?」

「ううん、魔法の威力を上げたい場合は同色の属性石を埋め込むの」

「じゃあクララのヒールを強化したかったら、白の属性石を埋め込むってことか」

「うんうん」

「魔法は前衛より魔石や属性石の依存度が高そうだな」

「そうだね。それらをどれだけ集められるかがすべてかも」


 とはいえ、前衛も武器の強化が重要なのは間違いない。

 昨日、損失したばかりなので痛いほど実感している。


 ジュラル島に来るまではあくまで装備は二の次、身体能力の向上を優先していたが、考えを改めなければならないだろう。同等……いや、それ以上に装備の強化を優先する必要がありそうだ。



 その後、アッシュはクララとともに部屋を出て先を急いだ。

 通路を進んでいくと、奥から魔物がひっきりなしに飛びだしてきた。

 スティレットとソードブレイカーを駆使し、容赦なく魔物を殲滅していく。


「いまさらだが、1階から付き合ってもらって悪いな」

「ううん。わたしもまだ5階までしか来たことなかったし。そ、それにいつもはここの1階で狩ってたから……」


 クララが消え入りそうな声でそう言った。


 アッシュは眼前のサハギンの口内へとスティレットを刺し込んだ。慟哭を上げたサハギンが間もなく消滅する。


 前方を警戒しながら、クララへと肩越しに問いかける。


「ひとりで?」

「うん。でも、あまりにもきついから入口のおっきな扉を使ってたんだ。少しだけ開けたらゴブリンが顔を出してくるから、そこをこう、杖でポカンって叩くの」

「……面倒そうだな」

「だ、だってそうじゃないと狩れないんだもん!」


 それでよく試練の塔を制覇できたものだ。

 というよりここまでの戦闘を見る限り、クララだけで試練の塔を攻略したわけでないことは容易に想像できる。


 おそらく優秀な同行者がいたのだろう。

 その同行者が現在どうしているのかまではわからないが。


 奥の角から3体の魔物が飛び出てきた。

 中央にサハギン、その両脇にゴブリンファイターといった形で突っ込んでくる。

 狭い通路のため、回避は難しい。


「クララ、俺のすぐ後ろについて思い切り走れ!」

「うぇ!? う、うんっ」


 アッシュは前へと一気に駆けた。

 真正面には突き出されたサハギンの槍。


 このまま進めば串刺しになるが、そうはさせない。

 限界まで近づいてから跳躍し、槍を踏んで床に叩きつけた。


 そのままサハギンを蹴り倒し、左右から襲いくるゴブリンの剣を弾きながら駆け抜けた。すぐさま振り返ると、クララが指示通り続いていた。サハギンの腹と顔面を踏みながら向かってくる。


 と、クララが横に構えた杖の両端が偶然にもゴブリンたちの首に直撃した。


「うわぁっ」


 慌てて彼女が急停止すると、ゴブリンたちが弾かれるようにして杖から解放され、床に落ちた。よほどの衝撃だったのか、ゴブリンたちは揃って通貨(ジュリー)となった。


「なんか倒しちゃった」

「やるじゃねぇか」

「ぐ、偶然だけどね……」


 照れ笑いを浮かべるクララの裏ではサハギンが消滅を始めている。

 周辺からも魔物の気配はもう感じられない。

 アッシュは武器を収め、息をついた。


「さっきの話の続きだけど、入口なら新人も通っただろ。チーム組もうって声かけられなかったのか?」

「それはあったけど……」

「断ったのか?」

「だ、だって2人きりは緊張するしっ」


 アッシュは思わず天を仰いだ。

 この少女は、塔を昇るよりも先に人との触れ合いを知るべきだったかもしれない。


「でも俺とは組めてるだろ」

「組んだっていうか、アッシュくんが勝手に決めたんじゃん……」

「それに関しては否定できない」


 とはいえ、いまの彼女に緊張している様子は見られなかった。

 自惚れでなければ少しは気を許してくれているのかもしれない。


「にしても――」


 アッシュはポーチに手を当て、その軽さを実感しながら口にする。


「なにも出ないな」

「うん……」




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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
(公式ページは↓の画像クリックでどうぞ)
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