第一話・ZENRA軍団にようこそ! [2]
あの後、どこをどう走ったのか思い出せないのですが、私は奇跡的に遅刻を免れ、何とか「入学初日から遅刻した新入生」という恥ずかしい汚名だけは回避できました(まあ、式の開始ギリギリに体育館に現れた私は、当然全校生徒の注目を浴び、そのためかなり恥ずかしい思いをしましたが)。
入学式も無事終わり、各教室に戻った私たちは担任の先生から明日から始まる授業について、簡単な説明を受けた後、今日はもう解散ということになりました。
で、私も帰る準備をしていたところ、小学校からの親友で、中等部から学内進級した同じクラスの蔦谷フキコちゃんがやってきて、「どうしたの?もう少しで遅刻だったじゃん」と心配そうに話しかけてきました。
そこで今朝のことを話したら、
「アハハハ、でも、別に変なことされたわけじゃないんでしょ?じゃあ、良かったじゃない。助けてもらえたんだから」
なんて、言われてしまいました。
「そりゃまあ、そうなんだけど……でも、やっぱり全裸なんてありえないよ!」
「まあまあ、たまたま助けに現れた白馬の王子様が露出狂だったと思えばいいじゃん」
「露出狂の王子様なんかいやだよ!それに王子様じゃなくて、王女様、女の人だから」
「アハハハ、そりゃそうか」
と、フキコちゃんたら、他人事だと思って笑い続けます。
「でも、実際、学校への行き帰りの時は大通り以外使っちゃダメだよ。まあアタシは学内進級組だからこの辺の地理にも慣れてるから大丈夫だけど。初心者は、特にアミみたいなのんびり屋さんは危ないから………ごめん、悪気はなかったんだ」
フキコちゃんが申し訳なさそうに私を見るので、
「ううん、いいの、気にしないで。ここの中等部の試験を受けられなかったのは自分の責任だし。フキコちゃんが気にすることじゃないから」
と、なるべく明るく答えました。
そう、ホントにマヌケなんですよね、私って。
大事な試験の前にインフルエンザにかかってダウンしちゃうなんて。
結局、エマニエル学園中等部の入学試験を受けれなかった私は公立の中学に進むことにしたのですが、私の家の経済状態では、全教科を受講することができず、主要3科目だけ受講して、後は在宅学習用のプリントを使って勉強しました。
今の時代、高校に通えるのは親が経済的に余裕のあるほんの僅かで人たちで、本来なら私も在宅学習組なのですが、運よくこのエマニエル学園に入学できたので、今こうして高校1年生になることができました。
このエマニエル学園は全校生徒の約半分が授業費免除の特待生という全国でも、他に例を見ないユニークな学校です。
何でも創設者のシルビア・クリスタル初代学園長が莫大な遺産を残し、遺言でそれを学校経営に使うようにと指示したおかげで実現したそうです。
その後、教室から出て、廊下を歩いている時、
「それにしても全裸の正義の味方が出るようじゃ、いよいよ日本も終わりかな。あ、もうとっくの昔に終わってるのか……って、アミ、アタシの話聞いてる?」
と、フキコちゃんが話しかけてきましたが、その時、私には気になることがあり、ちょっと上の空だったみたいです。
「あ、ごめん聞いてなかった。ちょっと気になることがあって」
「気になることって?」
「上手く言えないんだけど、さっきから何か引っかかるんだよね」
「引っかかるって、全裸の正義の味方のこと?」
「そうなんだけど……う~~ん、何だろう、先っぽのところまで出掛かってるんだけど」
そうなんです。
今朝会ったあの全裸の女の人、よくよく思い出せば、完全に裸じゃなくて、編み上げのロングブーツやオートバイ用のグローブをしてましたし、それに腰に太めのガンベルトを斜めにずり下げて着けていたので、ギリギリ、一番危ないところは露出していなかったと思います。
でも、気になるのはそんなことじゃなくて、もっと何か重要なことがあったような。
ところが、そんなことを考えていたら、廊下の曲がり角で人にぶつかりそうになってしまいました。
「あ、すみません!大丈夫ですか?」
「平気です。ご心配なさらないで。それじゃあ、ごきげんよう、森沢さん」
「え?」
ぶつかりそうになった相手は同じ1年生とは思えない、ゴージャスで、大人の雰囲気を漂わせた、いかにもどこかの名家の令嬢といった感じの人でした。
でも、どうして私の名前を?
「凄い綺麗な人。まるでフランス人形みたい」
私がため息まじりにそう感想を漏らすと、
「クラスメートの顔くらい、ちゃんと覚えておきなよ。なんかアミ、ホームルーム中ぼんやりしてたみたいだからさ」
そういえば、確かにうちのクラスの生徒だったかも。
「グレート・東郷・マリコさん。あのグレート財閥のご令嬢にして、1年生ながら、我が校の『クリスタルの会』のメンバーという超有名人よ」
フキコちゃんが聞きなれない言葉を口にしました。
「クリスタルの会?」
「生徒会のことを、うちではそう呼ぶのよ。名前の由来はこの学園を創設したシルビア・クリスタル初代学園長から命名されたらしいんだけど」
「新入生で生徒会のメンバーなの?」
「うちの生徒会のメンバーの選抜方法ってちょっと特殊で、現役のメンバーが下級生の中から候補者を選ぶのよ。だから一応選挙は行われるけど、まあ、事実状の信任投票ってこと」
「ふ~ん。そうなんだ」
て、いうことは、あの東郷さんは中等部の時から目をつけられていたほどの人材なわけなのか。
確かにそんな雰囲気が、特別な何かを感じさせる人です。
「で、選ばれた人間は見習いとして、生徒会のお手伝いをするわけ。東郷さんは今の生徒会の書記で、2年生の斉藤レイ先輩に選ばれたの」
「この斉藤レイ先輩って、ホントは3年生の生徒会長の水野ハルコ先輩や会計の鳥凱エリナ先輩と同学年のはずなんだけど、昨年身体を壊して長期休学してたから、今年も2年なんだって」
「へ~~」
ホントにフキコちゃんってこういった話に詳しいよね。
「ついでに教えてあげるけど、ほら、あそこにいる、島ヨシアキさん。あの人もクリスタルの会のメンバーよ。彼女を選んだのは、今言った3年の鳥凱先輩なの」
私は彼女が指差したほうに目をやりました。
そこには同じクラスの島ヨシアキさんの姿があり、どうやら、これから部活があるみたいで、剣道着を身に着け、体育館のほうに向かって歩いてく途中でした。
フキコちゃんの話では、なんでも彼女の実家は江戸時代から続く由緒正しい剣道の道場だそうです。
つり目で、お下げ髪の島さんの第一印象は東郷さんとは正反対のものですが、何か他の人とは違うものを感じさせるという点は一緒でした。
それにしても、
「うそ!じゃあ、うちのクラスには二人も未来の生徒会役員候補がいるわけ?」
「そういうことになるわね。なに?アミもクリスタルの会に入れてもらいたくなった?」
「そんな、わたしなんかに務まるわけないよ」
「アハハハ、まあアタシたちには縁のない世界だよね。それにそもそも、アミじゃ、選抜基準を満たしてないしさ」
「え、選抜試験とかあるの?」
私は思わず、聞き返しました。
やはり生徒会のメンバーに選ばれるような人は特別なのかな。
ところが、フキコちゃんは、ちょっと意地の悪そうな顔をして、
「いや、そうじゃなくて、ほら、あの二人見て気づかなかった?」
と、私をからかうかのように尋ねてきました。
「気づくって、何を?」
「あの二人の共通点」
あの二人の共通点?
う~ん、何だろう。
私は東郷さんと島さんの姿を思い浮かべました。
背は二人とも同じくらいだけど、容姿はまったく正反対だし、趣味とか、そういった類のことは見た目からじゃ分からないよね。
などと考えていたら、突如私の頭に雷鳴が走りました。
「………ああ!」
二人に共通することは、それは大きな胸。
二人ともかなりの巨乳なのです!
「ようやく分かったようね。そう、クリスタルの会に入会するためには最低バストがCカップ以上必要だといわれてるわ。だから、Aカップのアミじゃ逆立ちしたって無理だってこと」
私のことを散々弄んだフキコちゃんは、ケラケラと笑いながらそう答えました。
「もう、ヒドイ!フキコちゃんだってBカップだから無理でしょ!」
「アハハハ、アタシはそんな大それた野心は持ち合せてはおりませんので。あしからず」