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第一話・ZENRA軍団にようこそ! [1]

プロローグ



西暦20××年世界は核の炎……………………………には包まれなかった。


その代わり日本経済は完全に崩壊し、日本国は国連と世界銀行の管理下に置かれ、経済の建て直しのため、国家予算に大鉈が振るわれることになった。


中でも経費削減の名目で、医療、福祉、教育の予算が大幅にカットされ、特に教育行政に関しては、義務教育の廃止、学校教育の完全有料化が断行された。その結果、児童の就学率は小学校で50%、中学校で30%、高校では10%台まで落ち込み、一部のボランティアによる無償教育も行われたが、大部分の少年少女にとって教育砂漠と呼ばれる過酷な時代を迎えていた。


この物語は、自らの学ぶ自由を守るために立ち上がった7人の少女たちの物語である。



[1]



「いいから、ねーちゃん、さっさとその鞄をよこしな!」


目の前にいる4人組みのモヒカン頭の不良たちは、そう言いながら、ぐるっと道路の真ん中の私を取り囲みました。


「駄目!この中には命の次に大切な物が入ってるんです!」


私は鞄を抱きかかえると、そう言い返してやりました。

誰があなた達に渡すものですか!

死んだって、この鞄は放さないから!


「だから、よこせってんだろ!おい、オメー、そんなに痛い目みてーのか?」


不良たちの中でも一番顔が貧相なやつがそう言って凄んできました。


ああっ、何で裏道なんかに入っちゃったんだろう。

入学ガイダンスの時に言われてたのに。


私は改めて自分の周りを見渡しました。ここは電車の高架下にある長さ20メートルほどのトンネルのほぼ中央。


電灯が壊れたままなので、昼間だというのに夜みたいに真っ暗です。


私は誰かが通り掛からないかと期待しましたが、この暗さでは、仮に誰かがトンネルの入り口にいても中まで見通せないでしょう。


と、そんなことを考えていたら、モヒカンの一人がアタシの鞄に手をかけてきました。

慌てて、私はそいつの手を振りほどきました。


「絶対駄目!だって、この中の……この鞄の中の『教科書』は、私のお姉ちゃんの形見なんです!」


そう、この教科書は今は亡き、私の姉の形見。

そして姉の出身校と同じ、聖エマニエル女学園に今日から入学するというのに大切な日になんたる不運でしょう。


「へっ、へっ、へっ、それじゃあ、なおさら、その鞄の中身をいただかないとな!」


「おい、助けを待ってたって無駄だぜ。最近じゃ警察も経費削減とかいって、パトロールなんか来やしねーよ!」


そんなの分かってます。

今のご時勢、警察なんかまるでアテになりません。


110番に電話して、出てきた交換手の第一声が、「それでは、まずご予算からサービスプランをお選び下さい」なんですから。


もはや一刻の猶予もありません。こうなったら、もう強行突破するしかないのかも。


と、そんなことを考えていたら、


「おーっと!スキあり!いただきー!」


背後にいた別のモヒカンに私は鞄を取り上げられてしまいました。


急いで取り返そうとしましたが、女の子の私なんかの力じゃ、連中に到底敵いっこありません。


モヒカンどもはアタシを振りほどき、鞄の中身を道路にぶちまけました。


「ひゃほー!俺は数学の教科書をもらうぜ!」


「くそー、じゃあ、俺は現国と古典だ!」


「ずるいぜ二人とも、じゃあ俺は………そうだな、この英語の教科書をもらうとしようか!」


砂糖に群がる蟻のように私の教科書を奪い合うモヒカンの不良たち。


「やめてー!教科書を返してください!」


私は恥も外聞もなく、彼らに懇願しました。

でも、そんな私を無視するかのように、彼らの蹂躙は続けられました。


「兄貴、兄貴もどうです?なかなかの美品、良品ですぜ!」


兄貴と呼ばれた、モヒカンどもの中で一番身体の大きい男は、手下が差し出した私の教科書を一瞥すると、


「ふん!」


そう鼻を鳴らしてから、


「俺様はそんなモンには興味ねーよ。おい、ねえちゃん、まだ隠してるモンあるだろうが?」


と、私に詰め寄ってきました。


「そんな……アタシ……何も隠してなんか」


まさか!これに気づかれたんじゃ……。


「じゃあ、これは何だよ?」


モヒカンのリーダーは、そう言うと、いきなり私を抱き寄せ、上着のポケットから私が隠していた英単語集を取り出しました。


「やめて!それだけは取らないでー!」


それだけは、それだけは私から奪わないで!


「おお!すげー、今時ポケット英単語集なんか、めったにお目にかかれないぜ!」


「さすがは兄貴、俺たちとは狙いどころが違いますね!」


「あったりめーよ、俺とテメーらとじゃ学習意欲が違うんだよ!」


ああ、神様、お願いです。私から二度も姉を奪わないで下さい!


でも、現実は無慈悲です。


「じゃあな、これに懲りたら二度と裏道なんか通るんじゃねーぞ!」


モヒカンの不良たちは、そう言い残し、その場を後にしようとしました。


「へっ、へっ、へっ、さっそく帰りがてら英単語の暗記でもやるか」


その時……奇跡が。


奇跡は起こったんです!


「あ、兄貴!」


モヒカンの一人が前方を指差し、大声を上げました。


「何だ、うるせーぞ!今、英単語暗記してんだろーが!」


そこには、トンネルの向こう側には、一台のバイクが止まっていました。

そして、そのバイクには人影が!


「なんだ?あの野郎~」


暗くてシルエットしか見えませんでしたが、バイクにまたがっているライダーはフルマスクのヘルメットを被っていました。


そして、身体にフィットしたツナギのレーシングスーツの体型から、はっきりと女性だと分かりました(つまり凄いダイナマイトボディだということです)。




「学習意欲が大せいなのは結構だけど、女の子から教科書を取り上げるなんて、感心できないわね」


彼女はそう言うと、バイクから降りて、モヒカンたちの進路に立ちふさがりました。


「あ、兄貴、あいつ、まさか例の」


「うるせー、びびんじゃねー!おい、ねーちゃん、怪我しねーうちにとっとと失せな!」


モヒカンの不良たちは、懐から各々ナイフやチェーンを取り出しました。


「…………どうやら、口で言っても分からないようね。バカな人たち」


でも、彼女は少しも臆する様子もなく、むしろさっきより圧倒的な威圧感で、モヒカンたちと対峙しました。


「ざけんな!自慢じゃねーが、昨日の自宅学習用の英語のテストじゃ、俺は28点だったんだぞ!」


「あら、ごめなさい。人は見かけで判断しちゃいけないって頭では分かってるんだけど」


「ふ、ふざけんなあああー!」


緊張に耐えられなくなったのか、モヒカンのリーダーが飛び出しナイフを手に、彼女に襲い掛かりました。


そして、間を置かず、一斉に彼女に襲い掛かる不良たち。


「きゃー!!」


私は思わず目をつぶり、道路に屈みこみました。


BANG!BANG!BANG!BANG!


トンネル内に甲高い四発の銃声が響き渡り、私が目を開けると、不良たちは全員道路に倒れていました。


「低すぎるわよ。その点数」


女性ライダーは、そう言うと、硝煙が立ち上る拳銃をホルスターにしまい、私の方に歩いてきました。


「心配いらないわ。ゴム弾だから気絶してるだけよ」


彼女は教科書を拾いながら、


「あなた、聖エマニエル女学園の新入生でしょ?入学ガイダンスで通学の際、決して大道りから外れちゃ駄目だって言われなかった?」


と、私に言いました。


「あっ、はい、そう言われました。でも、入学初日なのに寝坊しちゃって……それで駅前で送迎用のバスを待ってたんですけど、全然来なくて……それで裏道を通ればなんとか間に合いそうだったから、つい」


私の目の前まで来ましたが、さっき屈んだ時に目に塵が入ったみたいで、彼女の姿がよく見えません。


「バスは1時間に一本よ。それも教わらなかった?ここいら辺も最近は物騒だから、大通り以外歩くなんてこと、二度しちゃ駄目よ」


彼女は私の身体を起こし、奪い返してくれた教科書を手の上に乗せてくれました。


「はい、これ大事な教科書なんでしょ」


ああ、良かった。


大事な、私にとって本当に大事な、この世の他の何とも代え難い姉の教科書は、無事私の手に戻ってきました。


ホントに何てお礼を言えばいいんだろう。


そんなことを考えていたら、霞んでた視界が次第にハッキリとしてきて、彼女の姿がよく見えてきました。


「あの~、どうも、ありがとうござ……」


私の頭の中は早くお礼を言わなければという思いでいっぱいでした。


でも、彼女の姿を見た時、そんな考えは全部吹っ飛びました。


なぜなら、


「ん?」


彼女は、


「どうしたの?どこか痛いところでもあるのかしら?」


その女性ライダーは身体にフィットしたレーシングスーツを着てたのではなく、え~と、その~、何と言えばいいのか悩みますが………………………………………身体に何もつけていなかったんです!




つまり全裸だったんです!!




「きゃあああーー!!ち、ち、ち、痴女ーーー!!」


そして私、聖エマニエル女学園新入生(1年A組主席番号27番)、森沢アミ(本年もって16歳)は大声で悲鳴を上げ、脱兎のごとくその場から走り去ったのです。

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