神隠し2
最初はまぶしくて………目を細めた。
思わず、目の上に手を当てる…。
しばらくのあと、目が慣れてきて…瞬きをする。
そこに広がる圧倒的な緑色だった。
足元に感じるのは、草。
左右に生えている木。
目の前には…草の生えていない茶色い線。
獣道のように舗装はされていないけれど、そこは確かに道だった。
「来い、案内してやる。」
そんな声が横から聞こえてきた。
隣に居た彼がそう言ってきた。
見上げると…やはり…身長はそれほど高くない。
せいぜい180センチあるぐらい。
顔は…さっき見たのと変わらない。
違うといえば、ますます白い肌が目立つ。
少し青白いかもしれないと思いながらじっと見る…。
「どうした?ミコト」
「……あなた…何?」
そんな言葉しか出ないのに自分でも笑ってしまうけど…問題は一つ一つ解決していくに限る。
自分の置かれた状態がわからないならなおさらだった。
「何といわれても…さっきミコトが言っただろう、鬼だって。」
「……鬼って…あの?」
「…鬼は鬼だ。」
確かに…鬼だと思う。
ただし…イメージしているような、強面ではない。
そう、なまはげのイメージじゃない。
…どちらかといえば…整いすぎている顔だと思う。現実感がない程に。
「そんなに鬼が珍しいか?」
「…当り前じゃない!居ないわよ!」
「…………今はそう言うだろうな。」
そんなことを…吐き捨てるように言って、彼は歩きだした。
その茶色い道を歩き出す。
見ると裸足で歩いていた。
「今は…って…どういうこと?」
慌てて彼を追いかけて…そう訊ねる。
「…………。」
少し渋い顔をして…彼は顔を見たけれど…口を開いた。
「昔は……俺たち、妖怪は…身近にいるもとして存在していた。実際いた。」
「え?……」
「たとえば河童。河童ってわかるか?」
「頭にお皿乗せてるやつでしょ?」
一瞬、某寿司店が出てきたけれど…頭を振ってそれを消した。
「そうだ、あいつらは河に住んでいた。今は住めなくなったけどな。」
「…………?」
分からないと言うように首をかしげる。
「…………。」
「…もともと、ここ、天原は下界と共存していた場所だ。」
「外科医?」
「…人間界、ミコトがいた世界のことだ。」
白衣を来たお医者さんが出てきた。けれど…それもまたかき消す。
「…………。で?」
「…で?っといわれても…困るんだが……。」
そう言いながらも、歩いていた。
気が付けば、神社の境内のような場所を歩いていた。
都会の小さな運動場ぐらいありそうな広さの広場。
そこに、黒い建物が建っていた、神社の本殿だろうと想像がついたけれど…
その前に人がいて…驚いた。
まだ子供のようだった。
小学生ぐらいか…紺の服を着ていた。
犬と戯れているのにも…驚きながら…前にいる彼に聞いてみた。
「あれは?誰?」
「桃太郎だ。」
「え!?」
「…なんだ、桃太郎も知らないのか?」
「桃太郎は知ってるけど…」
絵本で出てくる、彼と…そこにいる子供とは違いすぎる…。
でも、気が付けば岩の上に猿が、木の枝に雉が止まっていた。
「…ま、あれは、自分がそうだと思い込んでる人間の子供だけどな。」
「え?」
「……………あぁ、もう…どこから説明すればいいのかわからん。コリセイに任せるか。」
面倒くさそうにそういうと…彼は足を速めて歩き出した。
向かったのは長い下り階段だった。
ところどころに、赤い鳥居が見えるが…階段はどこまでも続いていそうだった。
もうすでに、降り始めている彼を慌てて追いかける。
「どこに行くの?」
「家だ。」
面倒臭そうに彼はそう答えた。
「……ねぇ、あなたのことはなんて呼べばいいの?」
沈黙が気まずく、そう聞いてみた。
「…好きに呼べばいい。分類的には、鬼の青鬼だ。」
「……名前は?」
「ない。」
「……他の人からは何て呼ばれてるの?」
「…いろいろだ、アオだったり、アイキだったり、アオオニだったり。」
「漢字は?」
「アオは草冠の蒼、アイキはおそらく、藍に鬼でアイキなんだろう。青鬼はそのままだな。」
「…じゃぁ……アイで。」
あおという漢字をいろいろ思い浮べたけれど…「藍」が一番しっくりする気がした。
「好きにすればいい。」
興味なさそうに、彼はそういった。
一つ目の、鳥居をくぐると…ぱっと、周りの景色が変わった
「え?」
出てきたのはまた…緑色だった
山が見える…川もある…。
山間の農村が目の前に広がっていた。
「あそこが、家だ。」
指をさしたのは、道の突き当たり、小高い場所にある日本家屋だった。