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天原妖民譚  作者: 古谷綾
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神隠し

頭が重い………。

頭だけじゃなくて身体、全体が重い


ガンガンと響くように頭が痛い。

頭を締め付けられているような痛みを感じる。


吐き気がする…

気持ち悪い…

思わず目をぎゅっと閉じるように…眉間に皺を寄せる。

額を押えようと手を動かしたけれど…思ったようには動かなかった。

「え?……。」

感覚を確かめようとするけれど…手が動かなかった。

うっすらと目を開けて、手のほうへ視線を向けると…赤い紐が手首に巻かれていた。

「な…なに?」

痛む頭で…必死に自分の状況を理解しようと努力した。

背中に感じるのは…たぶん柱。

ぺたりと地べたに座り込んでいる…

目に映るのは…白い服。

スーツだったはずなのに…白い無地の着物のようなものにってなっていた。

だらりと垂れた手首には赤い紐その先は、何か杭のようなもので地面に繋がれていた。

ためしに、手を伸ばしてみたけれど動くたびに頭痛に襲われる。

死んだにしたら痛すぎる…。

痛みに耐えきれず思わず、ギュッと目を閉じた。

「…起きたか?」

聞こえてきた…低い、静かな声にはっと顔をあげる。

見えるのは暗い闇ばかり。

どこから聞こえたんだろうと思い、視線を動かす。

「鬼火。」

また、その声が聞こえてきたかと思うと…視界が明るくなった。

光源に目を向けると…赤い炎のようなものが揺れていた。

ろうそくの火ではない…火の玉のような…

そういえば、さっき鬼火と聞こえたような気がした…

「目が覚めたみたいだな。」

そんな事を思っていたら、そんな声がして…はっとした。

「きゃぁああぁっ!!」

徐々に、明かりが広がっていくにつれ…声の主が姿を現した。

普通の人間より…はるかに大きい。

座っているのもあるけれど、見上げるほどに大きい。

トンネルの前で見た、全身青い色のナニかに似ている…っと思った。

「……煩いな…」

うんざりというような…声がした。

「お…鬼っ…!!」

頭に黄色い二本の角が生えていた。

リアルな鬼のお面…もしくは般若の面が脳裏によみがえる。

そうして、お決まりのように虎柄の布で下半身を覆っていた。

上半身は露わになっており…筋肉の形が分かるほど、逞しかった。


ダメだ。

身体が悲鳴を上げている。

危険だと警鐘が鳴っている。

「鬼だが。…まったく、事故にあっているのになんでこんなに元気なんだか。」

「元気なわけないでしょ!頭痛いし!わけわかんないし!でも、黙ってるわけにはいかないのよ!」

「……………………。」

気が付けば、光はどんどん大きくなり、向こうの壁のほうまで見えるようになった。

鬼の表情が…何かを考え込むようなものになっている。

大きいけれど…顔のつくりは人間と一緒だった。

何かを考えた挙句…鬼はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

「こっちに来ないで!!」

「……確認するが。…俺の言葉がわかるのか?」

「そっちこそ、私の言葉がわからないの!?来ないでって言ってるでしょ!!」

そう叫ぶと…なぜか、彼は笑いだした。

「な、な……何!?」

「………いいや…。珍しい適応者だと思っただけだ。」

「何の話なの!?こっちに来ないでってば!!」

話をしながらも、歩いてきている彼に向かってそう叫ぶ。

「…分かったから落着け。」

そういうと彼はしゃがみ込んで…何かを取り出した。

あっという間に、その巻物のようなモノを地べたに開く。

円を描くように…文字が並んでいた。

「問おう。汝、名は?」

目線が同じになるのも不思議な感じだが…今から何が起こるのか全くわからない。

「…………。辻…美琴」

それでも…素直にそう答えた。

「ミコト…。最近のは大層な名前をつけるな…。」

そう言って紙にどこから出してきたのか筆で…「尊」っと書いた。

「…字が違っ……」


そう言う途中で…風がおきた。


なぜそうなったのかわからず…ギュッと目を閉じる。


「ようこそ。天原あまのはらへ。神隠しにあった人間よ。」



同じ声、同じ場所にいるけれど…

さっきと…ぜんぜん容姿が違う人がそこにいた…


白い肌。

角は同じ位置にあるけれど…黄色というよりは、アイボリーに近い色。

桜の模様の入った、藍色の着物を着崩している。

もみあげ部分が長く垂れているのを見ると…髪の毛は長そうだった。

「「ミコト」なんて…たいそうな名前だな。」

その紙をしまいながら…彼はそういった。

気が付けば、さっきの暗さが嘘のように…周りが明るくなっていた。

昼、カーテン越しの室内ぐらいの明るさがある。

見回すと。納屋のような場所だった。

「ど、どういうこと?」

「…「尊」はもともと、神のや尊ぶべき人の呼び名の下につけた敬称だ。日本武尊の「尊」だ。」

「だから、字が違うのよ。私のは、美しいに楽器の琴で美琴よ」

「俺の知ったことではない。」

そういうと、そっと立ち上がった。

驚いたことに…身長もそれほど高くなくなっていた。

よく見る男性より少し高いぐらい。少なくとも2mはない。

「自由に動けるはずだ。行くぞ。」

「え?…」

気が付けば…手首を拘束していた赤い紐はなくなっていた。

無意識に、手首をさする。

「あぁ。その恰好が気になるなら、そこの羽織を羽織るんだな。」

そういうと…彼は立ち上がって踵を返した。

刺された先にあるのは、緋色の着物だった。綺麗に畳まれているそれ。

そこでようやく…自分の格好に再び目を向けたのだった…。

白い着物一枚。白い着物から、足が伸びている。

肌の感じからして…着ているものはその一枚のみ。

慌てて…手を伸ばし、緋色の羽織を身にまとう。

そうして…体のあちらこちらを見る。

無傷だった…痛みもない。

気が付けば、もう頭痛もしなくなっていた。

「……………。」

情報の整理ができないまま…入口をみると、彼が戸の前で待っていた。

彼とは会話が成立していた、聞きたいことはたくさんあるし、何より一人にされるのは心細かった。



その建物の入り口と思われる戸の前に彼はいた。

「来たか…ようこそ、天原あまのはらに。」


にっと笑って…彼は戸開けた………


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