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テイルス・オブ・アンタクティカ  作者: せりもも


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推理により導かれた真犯人

 フョードルが殺されたのは、深夜0時だと誤認されていた。

 だから、その時間にアリバイのないサンジュが、疑われたのだ。

 しかし、実際、フョードルが殺されたのは、それより以前、夕方の6時だという。


 「午後6時。……サンジュさん、あなたはその時間、どうしていらっしゃいまして?」


デジレが聞いた。

 まっすぐにサンジュを見ている。


「あ……確か、まだ、ここにいた筈」


「そうだよ。クロエの部屋で、ぐうぐう寝てた」

ちくってやる、という勢いで、得意げにカイトが言う。


「なんですって? 私の部屋に入ったの?」


クロエが一瞬、素に戻った目つきで睨みつけたが、すぐに顔つきを和らげた。


「そうか。サバトの次の日ね」


そんなクロエを、カイトは、にやにやしながら見ながら言った。


「ゲオルグさんから、閉門の時間までに来いとメールがあったのに、サンジュはぐうぐう寝てたんだ。そんでもって、行きたくないってダダをこねるから……」


「ダダをこねてなんかいないぞ。行く気がしないって言っただけだ」


「そういうのを、ダダをこねるっていうんだよ。でも、断りの連絡はお昼までにしてくれってあったのに、連絡をしなかったんだよ。だから、ドタキャンは迷惑をかける、行かなくちゃいけないって、ボクとジュスティビエーヌで説得していたんだ。ね、ジュスティビ……あれ?」


 静かだと思ったら、ジュスティビエーヌは、座った姿勢のまま、目を閉じて、爆睡していた。


 「ま、いいや。起こすとうるさいから。でも、サンジュのアリバイなら、ボクらが証明できるよ」


「よかった。ほらね、やっぱりわたくしの申し上げたとおりでしょ。サンジュさんは、潔白だって」


「待って。メールには、何時までに来いとあったの? 正確には?」


デジレを押しのけるようにして、クロエが尋ねた。


「自分のスマホを見なよ。それに着信があったんだ」


カイトに言われて、クロエは、例の、固いカードのようなものを取り出した。


「『閉門の直前』……なるほど」


デジレが眉を寄せた。


「じゃ、真犯人って……」


「いや、違う」


思わずサンジュは叫んだ。


「いくら前世界の知恵といったって、そこまでわかるわけがない。第一、証拠がない!」


「それがわかるのです」


落ち着き払ってクロエが答えた。


「死体の爪の中に挟まっていた堆肥と、サンジュたちがゲオルグの家の庭から持ち帰った堆肥。99パーセントの確率で、成分が一致しました」


 そんなはずはない、と、サンジュは心の中で唱えた。

 あの人が犯人だなんて、そんな筈は……。

 あの、子ども思いの優しい人が。

 肌の黄色い自分を、一切、差別しなかった、あの……。


 ゆっくりと、諭すように、クロエがまとめていく。


「本当の死亡時刻が午後6時、少し前。一方、『彼』は、午後6時までにサンジュが町に来ることを知っていた。

というか、断りのメールがなかったことから、絶対に来ると思っていた。

だから、その時間……午後6時、恐らく直前に、フョードルを殺した」


みな、息を止めて、クロエの話に聞き入っている。

 ジュスティビエーヌのいびきだけが、静けさの中に規則正しく響き渡っていた。


 クロエが顔を顰めた。


「そう。サンジュに罪をきせる気だったのは、こめかみを突き刺すという殺害方法からも明らか。

だけど、約束の時間までに、サンジュは現れなかった。

『彼』は、慌てたことでしょう。

とりあえず、死体の温度を下げない為に、腐葉土の中に死体を隠しました。

結果、検視の医師に、死亡推定時刻を誤らせたのです。そして、誤りの死亡推定時刻、即ち、深夜0時に、アリバイのなかったサンジュに罪が着せられました」


「死体が裸で、つるっぱげだった理由は、サンジュに罪を着せるためだね?」


なぜだか嬉しそうにカイトが叫んだ。


「そもそも、サンジュがいけないんだよ。被害者と初対面の時、裸にひんむいて、頭もつるつるにしてやる、なんて言うから。都で、噂になってるよ!」


「私は、主にコングラ師の影響だと思う」


暗い声で、クロエが付け足した。


「そこを、犯人に利用されてしまったのですね」


デジレまで、頷いている。

 クロエが、まじめな顔に戻って言った。


「死体を裸にした、本当の理由は、腐葉土の痕跡を洗い流す為です。

髪の毛を剃ったのも、そう。

あの日は、ちょうど雨が降っていたから、都合がよかったのですね。

雨でなかったら、沼か池にでも放り込むつもりだったんでしょう」


なおも、考え考え、言う。


 「『彼』は、サンジュに、お酒をたくさん飲ませます。あるいは、その中に、何か睡眠剤のようなものが含まれていたのかもしれない。

あとは、酔いつぶれたサンジュを、別室に寝かせれば、アリバイはあやふやになります。

その部屋が、1階にあり、自由に外へと出入りできたのは、決して、偶然ではない」


「でも、サンジュが来ない可能性もあったよね。実際、あの日、サンジュは、行きたくないって、随分、駄々をこねてたもの」


カイトが指摘すると、クロエは考え込んだ。


「指定した昼までに、断りのメールを入れなかったのでしょう? 

だから、きっと、『彼』は、6時前に、フョードルを殺してしまったと思う。

閉門時間の6時を過ぎてもサンジュが現れなかった時、『彼』は、どんなにあせったことでしょうね。

それを思うと、ちょっと、いい気味」


「実際には、サンジュは、9時頃、到着したわけだけどね。サンジュが行きたくないと言ったんだもん、行かせなければよかった」


珍しく後悔した口調でカイトが言った。


「君は悪くないよ、カイト」


思わずサンジュは言った。


「悪いなんて思ってないし~」


あっさりとカイトが言う。


 クロエはため息をついた。


「……あとは、死亡時刻をサンジュのアリバイのない時間になるようにと計算して、死体を、腐葉土から外に出せばいい……」


 やっぱり?

 じゃ、やっぱりあの人が……。


 自分自身が死刑上に曳かれていく思いで、サンジュは尋ねた。


「真犯人は?」


「ゲオルグ……」

デジレの小さな声が答えた。

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