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テイルス・オブ・アンタクティカ  作者: せりもも


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イワン兄妹

 「やあ、ぼくは、イワンだよ」


暗い家の中に入ると、男の子は、フードを脱いだ。


 家と言っても、建物の一室である。

 街角をぐるぐる入って、完全な裏通りに、その古い建物はあった。

 鉄の階段を上ると、全体が揺れるような建物だった。


 サンジュの恩人は、フードつきのジャージを着、つんつるてんのずぼんをはいていた。

 町で見かけた人に比べると、はるかにみすぼらしいかっこうをしていた。


 その家独特の、湿気ったようなにおいがする。

 男の子はさっさと、台所のような薄暗い空間に入っていった。


 「さっきは、ありがとう。僕はサンジュだ」


「どういたしまして」


男の子がそう言った時、幼い女の子の声がした。


「おにいちゃん?」


「ああ、サーシャ。ごめん、遅くなって」


「おなかすいた」


ついで、もっと幼い声。

 赤ん坊の泣きわめく声もする。


「妹の、サーシャとリージャだ。泣いているのは、弟のアリョーシャ」


「えっと……」


「ちょっと待ってて。妹たちに、食事をあげなくちゃ」


イワンは背伸びすると、傍らの棚から、大きな薬瓶のようなものを取り出した。

 瓶をねじって蓋を開け、中から、色とりどりの錠剤を取り出す。

 それを、女の子たちに分け与えた。


 「アリョーシャには、ミルクだ」


同じ棚から缶を下ろし、哺乳瓶に入れて、薬缶のお湯と混ぜ、手早くミルクを作った。

 慣れた手つきで、赤ん坊に飲ませる。


 ようやく、赤ん坊は泣きやんだ。

 女の子たちは、水もなしで、ごくごくと錠剤を飲み下すと、けろりとして、どこかへ駆けて行こうとした。


「あー。君たちは、病気なの?」


「病気? なんで?」


「薬を飲んでいたから」


「これは、お薬じゃないのよ。ごはんなのよ」

妹の一人が生意気そうに答えた。


「ごはん?」


 「栄養剤さ」

赤ん坊にミルクを飲ませながら、イワンが言う。

「それさえ飲んでいれば、栄養は足りる。ありがたい、帝のお計らいさ」


「え……」


クロエの塔で食べた食事との、あまりの違いに、サンジュは戸惑った。

 栄養剤が、ごはん?


「この町の人たちは、みんな、そうなの?」


「仕事があって、お金がある人たちは、違うよ」


イワンはそっけない。


「でも、僕らは、これで、十分。帝のおかげで、生きられる」


 本当にそう思っているのかな?

 サンジュは疑った。

 肉。野菜。パン。そして、お菓子。

 その代わりに、栄養剤?


 「そんなんで、おなかがいっぱいになるの?」


「おなか、いっぱいになったこと、ないから、よくわかんない。でも、栄養失調で死ぬことは、ないから」


イワンは、にたりと笑った。

 上の前歯が、欠けている。


「服も、家も。働かなくても、帝が、生きさせてくれる」


「生きさせて……?」


その時、窓の下が騒がしくなった。

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