優しさの守護?
クロエとジークが話している。
「で、加工なんだけどさ、細かいところが、微妙に難しくて……」
「また私に、プレ・ワールドの技術を、受信しろというのね」
クロエはため息をついた。
「これで何度目?」
「頼むよ。ここがクリアできないと、先に進めないんだ」
ジークは、大きな青い目をうるませて、じっとクロエを見つめる。
クロエの頬が、ぽっと、赤らんだ。
「仕方ないわね……」
「ねえ、技術の受信は、帝の為にしか、しちゃ、いけないんじゃ……」
カイトの声に、ジークは、ぎょっとしたように振り返った。
危険をもはらむ技術は、帝によって、厳密に管理されている……。
そういえば、さっき、サンジュも、確かにそう聞いた。
「もう何度も、この人のために受信しているようだね、クロエ。そんなことが、帝にバレたら、あんた、処刑されるよ……」
「大丈夫よ、だってこの人は……」
言いかけ、クロエは、はっとしたように途中でやめた。
ジークとユージンも、固まってしまっている。
「ここにいる者が、黙ってりゃ、外に漏れる気づかいはないにゃ。いい男にゃ、尽くさなきゃ」
あっさりと、ジュスティビエーヌが言った。
ちっとも懲りてない。
カイトがむきになる。
「いい男なら、特別扱いかよ」
「そうだにゃ。美青年は、全てが特別。そういうもんだにゃ」
「なんだ、それ。不公平じゃないか」
「世の中、不条理にできてるにゃ」
「美青年特典だったら、ボクだって……」
「子どもはダメ。そもそもおみゃーさんの御面相では、何百年経ってもダメ」
「なんだよ、こんなかわいい子をつかまえて、失礼な」
「自分で子どもだって言ってるにゃ」
ジュスティビエーヌに言われ、カイトは真っ赤になった。
「いいもん、いいもん。クロエやジュスティビエーヌに喰われるくらいなら、おとなになんか、なりたくないもん」
「こりゃ、それが子どもの言うことか。下品にゃ。謝れ。ジークに謝れ!」
「下品は、そっちだろ。ジュスティビエーヌだって、腐女子じゃないか!」
「こんなのと、一緒にするな!」
また、ジュスティビエーヌとクロエが、同時に叫んだ。
サンジュには、気がかりがひとつ、あった。
「あのさ」
思い切って言ってみる。
ジュスティビエーヌとクロエがつかみあい、周りをどたばた走りながら、カイトがはやし立てている。
ジークとユージンが、よりそってそれを眺めていた。
女主人が髪を掴まれ、危機に陥っても、ジーヴスは、冷静に傍観している。慣れているようだ。
阿鼻叫喚が不意に収まり、六人の視線が集まった。
サンジュは、ちょっと恥ずかしくなった。
「みんな、何かの守護だよね。カイトは天空の守護、ジュスティビエーヌは愛の守護、クロエは知の守護。そしてジークは、海の守護を、名乗ることにした」
「海洋の守護だ」
「同じだろ。じゃあ、俺は、何の守護だろう」
「あなたは、何を守りたいの?」
クロエが尋ねた。
「もちろん、この国の民さ。優しい、この国の人々を守る為に、俺は、守護になったんだ」
サンジュは、いいことを思いついた。
「そうだ。俺は、優しさの守護になる!」
「それはやめた方がいい」
ジークが言った。
傍らで、カイトがうなずいている。
気がつくと、全員が、うなずいていた。
「なんで!」
とりあえず、手近にいたジークに詰め寄った。
すかさずユージンが、主を気遣うように、間に割って入った。
「今に、おわかりになります。まだ、無理をしてお決めになる必要はないでしょう」
穏やかにそう諭されると、サンジュとしては、もう、それ以上はごり押しできなかった。




