晩餐
食事は、申し分なかった。
いや、食卓に着いた面々を考えると、無駄に手がこんでいた、というべきか。
アペリティフとして、ごく軽い発泡酒が出たが、これは、完全に、失敗だった。
ジュスティビエーヌは乾杯の前に飲み干し、おかわりを要求したし、カイトは、オレンジジュースを注がれて、かんしゃくを起こした。水と間違えて一気飲みしたサンジュは、最初から、酔っぱらい(アルコールは、始めてだった)、付け合せに盛られたブルーチーズを食べて、吐きそうになった。
次いでサラダを見たジュスティビエーヌは、生の草を食べさせる気かと怒り出し、カイトは、肉、肉、と連呼した(生ハムが載ってございます、と、ジーヴスが控えめに述べたが、飢えた餓鬼には、通じなかった)。ドレッシングの酸っぱい味は、サンジュにもなじまなかった。
続くワタリガニのなんちゃらスープを一気飲みしたジュスティビエーヌは、口にやけどを負ったと騒ぎ、カイトは、カニの殻なぞ入れるな、とにかく肉よこせ、とブチ切れた。サンジュも、この汁には、小さな具しかない、と、悲しくなった。
ようやく待望のステーキが運ばれてきたときには、一同は、待ちくたびれていた。
しかし、目の前に置かれた肉を見て、サンジュは、途方に暮れた。
サンジュの知っている肉は、たった今、狩ったばかりの鹿や兎の、骨付き肉である。それを、火であぶって、がぶりとやる。
しかし、目の前のそれには、骨がついていない。いったい、どこを持てばいいものか。それに、なにやら、どろりとしたソースがかかっていて、つかみどころがない。
ふと目の前を見ると、ジュスティビエーヌが、親指と人差し指でつまんで、ぽいと、口の中に放り込んだ。なるほどと思い、真似をした。隣では、カイトが、とっくに食べ終わり、おかわり、と叫んでいる。
デザートとして、さまざまなケーキの盛り合わせをワゴンに乗せて運んできたジーブスは、げっそりしていた。
髪の毛が一筋だけ乱れ、額にすっと流れている。
彼がテーブルまで行き着かないうちに、老婆と子どもは、歓声をあげてワゴン目指して、一直線に駆け寄った。
危ないところで、ジーヴスは、横へ飛びのいた。
そんな執事に目もくれず、ジュスティビエーヌとカイトは、ケーキのワゴンに飛びつき、両手でケーキをわしづかみし、次々と口に放り込んでいた。




