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修学旅行にて

 バスが停まった。

 重たい瞼を開け窓の外を見る。照りつける日差しに自然と薄目になった。外は岩と土だけの荒野。

 ここはどこだ。俺たちの修学旅行は日本国内のはずなのだが。


「着いたみたいだな。ふぁーあ」


 隣に座っている友人が呟く。俺も友人も昨晩はUN○をやっていて寝不足だ。深夜・罰ゲームという二つのエッセンスが加わるだけで、爆発的に盛り上がった。罰ゲームは負けるたびに服を一枚脱ぐというものだ。もちろん男だけで行った。全員がパンツを賭け、熱い火花を散らせる頃には朝の鳥たちの囀りが聞こえていた。

 今朝まであれだけ遊んでいたのだ、俺は睡眠不足で変なものを見てるだけかもしれない。あんな荒野が日本にあるはずはない。


 頭を大げさに振り、意識を保とうとする。駄目だ、まだ頭はぼんやりしている。

 のろのろと立ち上がろうとすると、声をかけてきた女子がいた。


「ひっどい顔。ただでさえ酷い顔なんだからシャキっとしなさいよ」

「うるせー、寝てないんだよ」


 健康的な小麦色の肌のその女子に、俺はいつもより簡単な応答をする。眠気でフラフラしているため、いつものような悪態を吐く余裕もない。

 俺はその女子の肩を掴み、体重を思いっきりかけながら立ち上がる。


「アイタタタタ! ちょっと何すんのよ!」

「いやすまん、寝不足でフラフラしていて」


 思考力が低下している分、俺は行動でやり返すことにした。

 のろのろと進む列に紛れ込みバスを降りる。地面に足を下ろしたとき感じる感触はまさしく土と石のそれであった。


「なあ、ここどこだ?」

「はぁ? 火山よ火山。なんて名前だっけ、えーと……」


 言いながら女子は旅行ガイドを開く。なんだ火山か、それならここは日本だ。問題ない。多分。

 疑問が解決した俺は、そのまま他の生徒たちが歩いていく方向に歩き出す。空気が少し埃っぽい。


「って、ちょっと待ちなさいよ! 聞いといて答えを聞かないってどういうことよ!」

「言ってたじゃないか、火山だって」


 足を動かしているせいか、このうるさい女子と話をしているせいか、少しずつ頭が冴えてきた。それにしてもこの女子はなぜいつも怒っているのだろうか。


「本当にブレないなお前ら。なんでこんなとこまで来て喧嘩してんだ。いやむしろイチャイチャして……」


 見事なステルス技能を発揮していた友人に、うるさい女子が右ストレートを叩き込む。


「もうアンタらなんか相手にしてらんないわ。先に行ってる!」


 そう言い残し駆け出した女子。

 その時、山特有の強風が吹き荒れた。


 風はその女子のスカートを捲りあげた。その瞬間、世界がスローモーションになる。

 健康的に焼けたその肌に、青く光沢のある布地が映える。その青さは空の青さではなく、海の青さ。グレートバリアリーフの青さだ。

 日差しが強いため、少し汗をかいているように見える。汗に塗れたその肌が艶かしい。

 シンプルな刺繍により縁取られた肉感的な立体は、男の心を惹きつけてやまない。なぜ男は丸くて柔らかい肉に、そしてそれを覆う布にこれほどまでに惹きつけられるのか。

 俺の視線は完全にパンティーに奪われていた。

 

 そして訪れる飢餓感。あの布に、あの肉に顔をうずめたいという欲求。叶えられない欲求に対する絶望。

 なぜ俺は男なのか。男でさえなければこんなに苦しく、切ない想いはしないで済んだであろうに。

 

 触れないという現実が、俺の想像を加速させる。

 あのシルクの布はさぞ触り心地が良いに違いない。太陽に照らされ輝くシルクは、全てを包み込む優しい肌触りだ。

 そのシルクに隠された柔らかい尻、心地よい安心感を与えるであろう尻の柔らかさ。

 外のシルクと内の尻。一体となった至福は、天上天下、唯一つだけ。


 胸に湧き上がるこの気持ち、これこそ愛というものなのだろうか。ならば愛そう。この世界の全てを。パンティーと尻を産み、育んだこの世界を。


 火山の火口など既にどうでもよかった。ただ、一瞬でも長くあの愛しい光沢のある布地を見ていたかった。愛でていたかった。しかし、時間は常に一定方向に流れ行く。不可逆の残酷さを俺は知る。


 永遠にも似た一瞬が過ぎ去る。

 女子はスカートを抑えこちらを振り向く。


「み、みた?」

「青だ」


 反射的に出た言葉は、俺の生来の正直さを示すものだろう。まず間違いなく人に褒められるべき性質だ。

 だが、このときの女子の反応は違った。


 左足を踏み込み、右足で地面を蹴る。下半身で生まれた力は捻転した腰により増幅され、突き出された右腕により完成した。

 右ストレート。

 対象を最短距離で打ち抜く芸術的一打。


 顔面にこぶしが突き刺さりながらも俺は思っていた。

 なぜパンティーとブラジャーの色を合わせないのかと。女子のブラウスから透けているブラジャーは、青くなかった。かと言って周囲に気を使った白というわけでもない。

 そしてなぜ、俺が殴られているのかと。スカートをはいて良いのは、パンティーを見られる覚悟がある者だけだ。


 世界は理不尽に満ちている。

 それでも俺はこの世界を愛そう。

 なぜならこの世界には、パンティーという素晴らしいものがあるのだから。

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