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らぶいちゃ夫婦の12月24日

作者: 茅菜

蒲公英さん主催の『もみのき企画』に参加させていただきました。

禁止ワードとして『クリスマス』『聖夜』『サンタクロース』が設定されています。

「ただいまぁー! ……つーかぁーれーたぁー」


 ドサドサ、と持っていた鞄とコンビニ袋を置き、コタツに入ってゲームをしている旦那様を引きずり出す。


「ちょっ…、待て」


「待たぬ」


 テレビの中から、ゾンビの咆哮とプレイキャラの呻き声が聞こえるが無視。思いっきり旦那様の視界を遮って、向かい合わせで膝の上に座り、首筋に顔を埋めた。


「……おかえりは?」


「さっき、言ったよ」


「聞こえてないから、無効」


 一向にゲームを止める気配がない旦那様は、軽く笑って、宥めるような口調で「おかえり」って返してきた。


「今日は、早く帰ってくるかと思ったけど、忙しかったんだ?」


「……帰れるなら帰ったらもん」


「会社に虐められたん? いけんねー」


「じゃろ? 酷い……」


「よしよし」


 手が離せないから、ほっぺたで頭を撫でる。片手間に相手をされたけど、まぁ……許してあげる。


「あっ! そう言えばね、おもしろいサイト見つけたんよ!」


 ガバッと身体を起こすと、視界の邪魔だったらしく、身体を横に倒してテレビ画面を見られた。

 しかも、視線はテレビ画面に固定したまま「んー、どんなん?」って聞いてくる。


 片手間過ぎる。


 さっきは許せたけど、今回は面白くなくて、再び首筋に顔を埋めた。


 旦那様が、間延びした口調で名前を呼ぶが無視。

 ほっぺたで頭を撫でられても無視。


「しょうがないなぁ……。ほら」


 ゲームをセーブして、両腕でギュッて抱きしめて、ゆらゆらと左右に揺れられたって、軽く斜めった気分は戻って来ない。


「たまたまキリがいいからゲームをセーブしたんでしょ?」


「なら、またゲームしていい?」


「……ダメ」


 旦那様が小さく笑う。そして「てぇい!」って、かけ声と共に、軽く頭突きをされた。


「……痛い」


 本当はそんなに痛くないけど、拗ねた口調で言えば「ごめん、ごめん」って言いながら、大きな手で頭を撫でられた。


「で? どんなサイト、見つけたん?」


 小さい子供に聞くような口調で問いかけてくるのは、旦那様のデフォルト機能。私は、それを『保父さん口調』と名付けている。


「俺にも見せてよ。ね?」


 ほっぺたとほっぺたをくっつけてお願いされて、気分が軌道修正された。


 身体の向きを変えて、旦那様の脚の間に座りなおし、ゲームの攻略サイトを表示しているノートパソコンを使って、目当てのサイトを開く。

 画面に表示されたのは、航空地図と期間限定の有名なおじーちゃん。


「何してるの? これ……」


「ストーキング」


「……ストーキング?」


「そう! 白髭赤服の御年1512歳のおじーちゃんが飼ってるルドルフ君の赤鼻って、ピカピカに光るでしょ?」


「いや……、でしょ? と言われても、俺はサン…んんっ?」


 旦那様が禁止用語を口にしようとしたので、慌てて掌で塞ぐ。セーフ!


「それを言ったらダメなの!」


「んんん?」


 イントネーションで、「なんで?」って問いかけられたのが分かったから、「それがルールなのです!」って答えながら手を外す。


「…また、変な遊びか」


「変、とは酷いなぁー。Twitterの診断メーカーさんに禁止用語を指定されてみたんですぅー。なので道連れね?」


「自分だけで楽しみなー。俺は言うよ? サ……」


「だぁーーー!」


 再び口を塞ごうとするのに、ひょいひょいと避けられ、禁止用語を言いそうで言わない。

 後ろにいる旦那様相手にムキになってたら、ビキッと首が攣った。


「いっ……た!」


 首は痛い! めちゃめちゃ痛い!


「ちょっ……、何やってんだよ」


 誰のせいだと思ってるんだぁー!

 首を押さえながら内心で毒付けば、旦那様が頭を傾けて筋を伸ばしてくれた。


「大丈夫?」


「ん、とりあえずは」


「で? なんだっけ? トナカイの鼻が光ると、なんかあるん?」


 旦那様は、からかうのを止めたらしく、会話を戻してきた。


「あ、うん。ルドルフ君の赤鼻ってね、赤外線信号が出てるの!」


「ふーん」


「もぉ~! もうちょっと、興味持とうよ!」


「で?」


「で、って。むぅ……、凄いんだよ? 宇宙空間にある赤外線センサー搭載の人工衛星が、位置情報を常に監視してるんだよ? しかも1個じゃなくて、複数で! 凄くない?」


「凄い、凄い」


 旦那様の相槌は、かなり適当。


「本当に凄いって思ってる? 監視してるの、偉いとこなんだよ?!」


「偉いとこって、どこ?」


「えっ……、あっ、ここ! ノラード!」


 聞かれて、ブラウザ上のメニューバーを指さす。脇から旦那様が手を伸ばし、タッチパッドを操作して、『NORADについて』というメニューバーをクリック。


「残念だったな。ノラードじゃなくて、ノーラッドだ。……へぇ~、ここ、核ミサイルを監視してるんだな。ネタサイトかと思ってけど、本物か……」


 通称NORADは、北アメリカ航空宇宙防衛司令部のことで、アメリカ合衆国とカナダが共同で運営する統合防衛組織らしい。核ミサイル以外にも、24時間体制で人工衛星の状況や戦略爆撃機なんかも監視しているんだって。


「期間限定の白髭赤服のおじーちゃんって、核ミサイルと同レベルの扱いなんだよぉー! でも、当たり前だよね~、1人で世界中にプレゼントをバラ撒くんだから、超速いよ! 飛行機とかとぶつかると、ヤバイもんね! ちなみに航空法って適用されるのかな?」


「夢を届けるおじーちゃんには、航空法は適用されないんじゃない? まぁ、そんな邪推するような子の所には、来ないだろうけどな」


「しょぼーん」


「あっ、もうプレゼント貰えるような歳でもないか」


 旦那様がにやり、って笑ったから、超スローでほっぺたにグーパンチをお見舞い。


「あー、DVだ、DV。やっぱり来んね。残念やったね」


「くぅーる! 来るよ! いや、むしろ来るべきだ! 来なければならない! 来てください!」


「最後、お願いになってるよ? まぁ、来るといいねぇ~」


「来ない? 来ないの?」


 くるり、と振り返って、旦那様を見る。


「今、海の上にプレゼント配達している白髭赤服おじーちゃんは来ないだろーね」


「他のなら来る?」


「他の誰かでいいん?」


「……いくない」


「俺でいい?」


 にまぁ~って、口元が緩む。

 一緒に過ごすのは、もう10回目になるのに、年々糖度が上がってる気がする。


「うん。旦那様がいいな」


 ぎゅっと首に抱きつくと、ほっぺたにちゅう。瞼と唇にもキスが降ってきて、一言。


「とりあえず、ご飯にしようよ」


 台無しであります――。

お読みいただき、ありがとうございます(*´∀`)

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