Ep.2 国民総監視社会の始まり
誰もが嘘をつかなくなる社会。
確かに聞こえはいい。
だが、実際は誰もが嘘をつく事を極度に恐れ、自由な発言をする権利を奪っていた。嘘をつかないという事は、言い換えれば《真実しか話す事ができない》という事だ。
実は、この法律を施行する上で大きな障壁が存在した。それは、【嘘か真実かを判断する事】だった。仮に、その人物が嘘をついている可能性があったとしても、それをどのように立証するかが問題となった。その発言が嘘だとすぐにわかるものならばまだしも、嘘か真実かを判断しにくいものだとしたら、罪に問う事が難しくなる。
このような問題を解決する為、政府はある大学教授に研究を依頼した。三年に渡る歳月の末、科学者は人間が嘘をつく時だけに発生する特殊な脳波〈f波〉を発見した。そして、科学者はその〈f波〉を検知する機器を開発し、研究を重ね、機器を小型化、軽量化する事に成功した。トランシーバー型の機器を被験者に向けることで、〈f波〉を検知しアラームで即座に知らせる。臨床実験の結果、99.9%の確率で嘘を見抜く事ができるという事が実証され、その信頼性の高さから徐々に公的機関に採用され、現在では国民一人につき一台の所持が義務付けられるようになった。ここに、【国民総監視社会】が形成されたのである。
国民は当初は反対した。ただでさえ息苦しい社会をさらに息苦しくさせる気か、という声が大半を占め、連日国会議事堂の前でのデモが発生した。政府はこの事態を重く受け止め、法律自体を撤廃するべきと判断した。しかし、強硬派による猛反発により撤廃を断念し、現状維持にとどまった。結果として、機器の所持は義務ではなく、努力義務という形を取った。それから、メディアの扇動により〈国民総監視社会〉を実現するべきだという世論が形成され、国民一人が機器を一台所持するという〈国民総監視社会〉が現実のものとなった。