自由を求めて――1
タピオはアイリのことが忘れられなかった。
アイリが住む屋敷を何度も振り返った。
けれど、もう屋敷の灯りは白夜の光に溶けて見えなかった。
クランはタピオの元気がないことを気にしていた。
「どうしたの、兄さん。元気がないけど、何かあったの」
「ああ……あの屋敷の少女に出会ったんだ。それが忘れられなくてね」
「それで、歌の途中でいなくなったんだね」
「そうなんだ。僕はどうすればいいと思う?」
「僕らは所詮、吟遊詩人だろう。
町から町へと旅をして、生きていかないといけないじゃないか」
「そうだね……」
「それに、隣町のラヌアで次は歌う約束があるだろう。
僕たちはあの少女と住む世界が違うよ。だから、ラヌアに行こう」
「そうだね。仕方ない」
タピオたちは、ユヴァミエミの町から隣町のラヌアへ向かった。
二人の白い息が交差してつらなっていった。
アイリはタピオと別れたものの、
二人で過ごしたひとときを忘れることができなかった。
しかし、仕方なく屋敷に帰った。
屋敷に帰ると現実の世界が待っていた。
「アイリ、どこに行っていたの?」
「お祭りに行っていました」
「勝手に行ったら駄目でしょう。さっきまで牧師さんが見えていたのよ」
「お母さん、私はいつまでこの屋敷の中で過ごさないといけないの……」
「あなたは、由緒あるリンネヴォラ家の一人娘なのよ。
ちゃんと勉強や習い事をして、この家にふさわしい跡取りにならないといけないの」
「いやです。私はまだ16歳です。友達も欲しいですし、恋の一つくらいしたいのです」
「それは許されません」
「お母さん……」
アイリはらせん階段を駆け上がり、自分の部屋へ帰っていった。
部屋の扉を閉めた途端、白夜祭の音は遠くへ消えていた。
涙だけが床に滲んだ。
二人にとって、白夜のひとときは、もう遠い夢の跡のように思えた。




