白夜—―4
タピオはアイリがそっと窓から覗いていたことに気づかなかった。
すれ違いが悲しみを帯びていた。
やるせない想いがタピオの胸の中で揺れた。
その想いは歌のように夜に溶けていった。
月の光に輝く髪の少女よ
どうして、僕の想いが伝わらない
これが定めというならば
僕は去らねばいけないのか――
そこにクランが帰ってきた。
「兄さん、少女を見かけたの?」
「いや、姿は見かけなかったよ。所詮、僕らはただの詩人なんだよ」
「兄さん……」
「僕はしばらく、ここで待つよ」
「そうだよ。明日にでも会えるさ」
焚火の炎が静かにはじけた。
タピオは屋敷を眺め続けていた。
夜は静まりを見せた。
アイリは厳格な生活に飽き飽きしていた。
彼女は牧師との勉強を終えると、
すぐさま、自室に返り窓から覗いた。
アイリの中に眩い光が入ってきた。
彼女にとって初めて見る光景だった。
胸の中にそっと花が咲いた。
アイリは窓を開けて身を乗り出した。
花を手にするためだった。
タピオはその姿に気づいた。
言葉が思わず出た。
「こんな遅い時間、申し訳ありません。僕はタピオと言います」
タピオの声は僅かに震えていた。
それは風に揺れるからではなく、
驚きを隠せなかったからだ。
白い光に映し出されたアイリの姿が、あまりに透き通っていたからだ。
タピオの言葉が夜の中に浮いた時だった。
けたたましい声が響いた。
「アイリ、誰なの?」
声の主は彼女の母親だった。
そして、タピオの存在に気づいた。
「あなたは誰? こんな時間に何をしているの? さっさと出ていきなさい」
タピオは仕方なく森の中へ帰っていった。
想いの翼は飛び立つことはできなかった。




