白夜――3
タピオは少女の姿が心に残った。
迷いはなかった。
石造りの大きな屋敷の門を叩いた。
中から年老いた老婆が現れタピオに話しかけた。
「どうしたのかい」
タピオは理由もなく門を叩いたので、
言葉にならなかった。
「用がないなら、お帰りなさい」
タピオは我に返りようやく話した。
「申し訳ありません、この庭にいた娘があまりに美しかったものですから」
「あんたのその格好だと吟遊詩人だね」
「はい、よければ、私の歌を届けたいのです」
「それは出来ないよ、ここは由緒あるリンネヴェラ家じゃ。そう簡単にはいかないよ」
「どうすれば、いいのですか」
「せいぜい、敷地の外でも歌うんだね」
「わかりました」
タピオとクランは仕方なく屋敷を後にした。
空を見上げると、大きな虹は消えていた。
小鳥のさえずりだけが小さく響いていた。
白夜の気配がした。
夜は眠りにつかない。
クランはタピオにそっと話しかけた。
「兄さん、もしかして、あの少女に恋をしたのかい」
「ああ、あの月のような髪に湖のような瞳、僕はすっかり心を奪われたんだ」
「そうかい、それなら、僕は外を歩いてくるよ。愛の歌でもささやいてみたら」
「ああ、そうするよ」
タピオは敷地の外から、焚火の近くで屋敷を向き歌い始めた。
僕は小鳥になりたい
歌の翼になって
君に自由を届けたい――
少女はシルクのような歌声に気づいた。
そして、胸が静かに揺れた。
あの人はあの時の
なんて素敵な方なのでしょう
どうか、私の元へ飛んできてください
少女の後ろから声が響いた。
「アイリ、どうしたの?」
「お母さま」
「牧師様が勉強を教えに見えられましたよ」
「もう……」
自由の翼が失われていった。




