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白夜の奏でる音  作者: 月原 悠


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16/16

春――1

雪は消えきらず、土はまだ冷たかった。

それでも光だけは、長い寒さの終わりをどこかで知っているようだった。

春が届いた。

花の芽があちらこちらで顔を出し始めた。

やがて、色を帯び、あたりは香りに満ちていった。


白や黄色、青といった色が、野にやさしく広がっていた。

蝶がひらひらと舞い、恋人同士の語らいを祝福するようだった。


小川のせせらぎの音が軽やかだった。

空はどこまでも青かった。

やわらかな風がアイリを包んだ。

彼女は貧しい暮らしの中にありながらも、次第にラヌアの町の生活に馴染んでいった。


そんな頃合いだった。

アイリは温かな日差しの中で、以前に会った少年を見た。

少年は南の方へと歩き出した。

彼女は気になり、そのあとを追った。

以前見かけた教会に着くと、少年は中へ入っていった。


アイリは思わず教会の扉を開いた。

中には神父さんと多くの信者がいた。


讃美歌が教会のすみずみまで響き渡っていた。

見慣れたはずの教会がやけに明るく見えた。


ユヴァミエミでは、いやいやながら通っていた教会だったが、

ここではなぜか安らぎを感じた。

しかし、まだミサの途中だと気づき、アイリは扉をそっと閉めて外へ出た。


アイリは教会の外で、しばらく讃美歌に耳を澄ませていた。

やがてミサが終わると、扉がぱっと開いて、子供たちが飛び出してきた。


「わあ、きれいなお姉ちゃん。いっしょに遊ぼう」


その中に、あの少年の姿もあった。

あの時とちがい、その瞳は輝きに満ちていた。


アイリは神のやわらかさに触れたような気がした。

そして、少年の姿に自分自身が重なって見えた。


少年はアイリに声をかけた。


「お姉ちゃんは誰」


名乗ると、少年たちはいっせいに喜び、彼女の手を引いて小川へと向かった。

少年たちといっしょに小川で遊んだ。

こんなにも楽しい思いをしたことはなかった。

日差しがやわらかかった。

少年たちの笑顔もやわらかかった。

風が微笑んだ。


アイリはまるで子供に返ったようだった。

春の訪れが、そっと彼女を祝福していた。


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