春――1
雪は消えきらず、土はまだ冷たかった。
それでも光だけは、長い寒さの終わりをどこかで知っているようだった。
春が届いた。
花の芽があちらこちらで顔を出し始めた。
やがて、色を帯び、あたりは香りに満ちていった。
白や黄色、青といった色が、野にやさしく広がっていた。
蝶がひらひらと舞い、恋人同士の語らいを祝福するようだった。
小川のせせらぎの音が軽やかだった。
空はどこまでも青かった。
やわらかな風がアイリを包んだ。
彼女は貧しい暮らしの中にありながらも、次第にラヌアの町の生活に馴染んでいった。
そんな頃合いだった。
アイリは温かな日差しの中で、以前に会った少年を見た。
少年は南の方へと歩き出した。
彼女は気になり、そのあとを追った。
以前見かけた教会に着くと、少年は中へ入っていった。
アイリは思わず教会の扉を開いた。
中には神父さんと多くの信者がいた。
讃美歌が教会のすみずみまで響き渡っていた。
見慣れたはずの教会がやけに明るく見えた。
ユヴァミエミでは、いやいやながら通っていた教会だったが、
ここではなぜか安らぎを感じた。
しかし、まだミサの途中だと気づき、アイリは扉をそっと閉めて外へ出た。
アイリは教会の外で、しばらく讃美歌に耳を澄ませていた。
やがてミサが終わると、扉がぱっと開いて、子供たちが飛び出してきた。
「わあ、きれいなお姉ちゃん。いっしょに遊ぼう」
その中に、あの少年の姿もあった。
あの時とちがい、その瞳は輝きに満ちていた。
アイリは神のやわらかさに触れたような気がした。
そして、少年の姿に自分自身が重なって見えた。
少年はアイリに声をかけた。
「お姉ちゃんは誰」
名乗ると、少年たちはいっせいに喜び、彼女の手を引いて小川へと向かった。
少年たちといっしょに小川で遊んだ。
こんなにも楽しい思いをしたことはなかった。
日差しがやわらかかった。
少年たちの笑顔もやわらかかった。
風が微笑んだ。
アイリはまるで子供に返ったようだった。
春の訪れが、そっと彼女を祝福していた。




