道――2
アイリは少年の瞳が深く心に残っていた。
ふと気づいた。
あの瞳は、白夜祭で出会ったタピオの熱い眼差しと、
どこか重なっていた。
そう思ったとたん、アイリの胸に再びタピオの面影がよみがえった。
抱き寄せられたときのぬくもり、
交わした唇のやわらかさ。
それに触れたくて、アイリの胸は急に切なくなった。
けれど、タピオの香りは風に乗ってアイリのもとへは届かなかった。
月の淡い光が屋根裏部屋の窓から差し込んでいた。
アイリは目を閉じた。
胸の奥に浮かぶのはタピオの面影ばかりだった。
屋根裏部屋から見える景色まで、どこか影に包まれて見えた。
アイリは必死にタピオの姿を思い出そうとしていた。
影をかき消そうとすればするほど、タピオの姿は遠のいていった。
再びあの温もりに包まれたい。
そう思うばかりだった。
一方、タピオは豊かな暮らしの中にいた。
ルージェの屋敷には、夜ごと華やかな灯りが満ちていた。
暖炉の火は絶えることなく揺れていた。
そのぬくもりの中で、
タピオの胸からは少しずつアイリの面影が薄れていった。
そして、ルージェの情熱的な視線が、いつしかタピオの胸に刺さっていた。
タピオとルージェの距離が近づくほど、
クランは居場所を失っていった。
クランはそんな二人の姿を、少し離れたところから見つめていた。
暖炉の火が揺れるたび、胸の奥に小さな痛みが走った。
それでも兄を責めることはできなかった。
クランは静かに心に決めた。
そして、ある夜タピオに告げた。
「兄さん、僕は少しばかり旅にでるよ」
「クラン、突然どうしたんだ」
「これも運命さ」
クランは言い残してルージェの家を後にした。
その旅立ちは、静かに歯車を動かし始めた。




